第十四話 これからのアウルルの計画
第十四話 これからのアウルルの計画
それからアーノルドたちは、すぐに動き始めた。
チゴダイの証言をもとに、マルセイユ公爵家は王家へ正式に報告を上げる。
内容は重大だった。
元公爵マチャドラによる横領、裏金、そして殺人。
これを受け、王家は迅速に対応した。
数日後――マルセイユ公爵家の執務室。
「王家より正式な許可が下りたぞ」
アーノルドは書状を机に置いた。
重厚な封蝋には王家の紋章。
そこに記されているのは、捜査権限の強化と全面協力の約束。
「動きが早いですな」
ヘルナンデスが感心したように言う。
「それだけ事態が重大だということですわ」
アウルルは静かに紅茶を口にした。
「元公爵が逃亡し、さらに帝国と繋がる可能性がある。放置できるはずがありませんもの」
アーノルドは頷く。
「よし……始めるぞ」
視線をチゴダイへ向けた。
「もう一度、確認する。連絡方法を説明しろ」
「は、はい」
チゴダイは一歩前に出る。
「緊急時には、特定の商会を経由して伝書を送ります」
「商会だな」
「はい。表向きは普通の交易商ですが……実際はマチャドラの資金を扱っていました」
「なるほどな」
アーノルドは顎に手を当てる。
「そこに金の動きをちらつかせれば、食いつく可能性は高いか」
「ええ……ですが」
チゴダイは一瞬、言葉を詰まらせた。
「……慎重に行かないと、警戒されます」
「当然だ」
アーノルドの目が鋭くなる。
「だからこそ、王家の力も使う」
◇
それから数日。
王家と連携し、周到な罠が張られた。
偽の取引情報。
裏金の移動。
そして――マチャドラへの接触。
すべては計画通りに進んだ。
はずだった。
だが――
「……反応が、ありません」
報告を受けた執務室は、静まり返った。
「もう一度確認しろ」
「はい。すでに三度試みましたが……いずれも応答なしです」
ヘルナンデスの声も硬い。
「完全に沈黙か」
アーノルドは舌打ちした。
「逃げたか……それとも、こちらの動きを読んだか」
「おそらく、後者ですわ」
アウルルが淡々と言う。
「どこかから情報が漏れたのですわ」
「ちっ……」
拳を机に打ちつける。
「あと一歩だったのに」
悔しさが滲む。
だが――
「しかし、無駄ではありませんわ」
アウルルの一言で、空気が変わる。
「何?」
「今回の動きで、裏金の経路はほぼ掌握しましたわ」
書類を一枚差し出す。
「こちらをご覧ください」
そこには、詳細な金の流れが記されていた。
「これは……」
アーノルドの目が見開かれる。
「これで、マチャドラに送金していた無駄な資金が止められますわ」
「どれくらいになる?」
「月に――およそ二千枚ですわ」
沈黙。
そして――
「そ、それは大きいな」
思わず声が漏れた。
「……金貨二千枚か」
「はい」
アウルルは微笑む。
「これも複式帳簿で、金額と在庫が合わない個所を発見した効果ですわ」
一瞬、理解が追いつかない。
だが、じわじわと実感が湧いてくる。
「……はは」
そして、今までの金策の悩みが解決した。
「金貨二千枚だと。はははは!!」
アーノルドは嬉しさのあまり大きく笑った。
「すごいじゃないか!!」
思わず立ち上がる。
「これで……これで公爵家の資金難は解消できる!」
これまで苦しんできた資金不足。
それが一気に解消される。
借金返済も領地改革もできる。
すべてが解決するのだ。
「これなら大丈夫だ……!」
思わず拳を握る。
ヘルナンデスも笑みを浮かべ、セバスも深く頷いていた。
だが――
アウルルの声が、冷静に響く。
「喜ぶのは、まだ早いですわ」
「……何?」
アーノルドは振り向く。
「確かに資金は確保できましたわ」
アウルルはゆっくりと言葉を選ぶ。
「ですが、それだけでは防衛費には、まだ足りませんわ」
「……」
「新たな収入源が必要ですの」
その一言で、アーノルドの表情が引き締まった。
「……つまり?」
「公爵領地での改革に成功する必要がありますわ」
アウルルはまっすぐに言った。
「稼ぐビジネスを作る必要がありますわ」
「ビジネス……か」
「ええ」
アウルルは小さく頷く。
「持続的に利益を生み出す構造。それがなければ、公爵家の再建は不完全ですわ」
アーノルドは腕を組んだ。
「……で、具体的には、前に言っていた、あれか?」
「はい、鉱山の新たな開発と新規ビジネスですわ」
アウルルは微笑む。
「まずは公爵領に行ってみますわ」
「そうだな」
アーノルドの目は、すでに未来を見ていた。
「現地を見なければ、本当の改革はできませんもの」
さらに言葉を続ける。
「そして、新たなビジネス、楽しみですわ」
「ほう」
「まずは、どんな鉱石が採れるのか。サファイアやエメラルドが採掘できたら素敵ですわ」
「まあ、見つけるのはかなり難しいだろうがな」
アーノルドは難しい顔を浮かべた。
「いいえ、きっとマルセイユ領には、未開発の資源が眠っていますわ」
断言する。
「それを掘り起こし、加工し、流通に乗せる」
淡々とした口調だが、その内容は大胆だった。
「……加工と流通まで公爵家で?」
「もちろんですわ」
即答だった。
「すでに調査の者を送っていますわ」
「……抜かりないな」
アーノルドは苦笑する。
だが、その目は楽しそうだった。
「いいだろう」
ゆっくりと立ち上がる。
「やってみるか」
力強く言い切った。
「今度は守りじゃない」
口元に笑みが浮かぶ。
「攻めの改革だな」
「ええ」
アウルルも嬉しそうに微笑む。
「そのための準備は、すべて整っておりますわ」
「いつ出る?」
「一週間後ですわ」
「早いな」
「時間は無駄にできませんもの」
きっぱりと言い切る。
「……分かった。それまでに公爵家の事務仕事を終わらせておこう」
アーノルドは頷いた。
「全員に通達しろ。出発の準備だ」
「かしこまりました」
◇
六日後、いよいよ明日はマルセイユ公爵領に向かう夜。
まさか、あんな事件が起こるとは、アウルルとアーノルドは思いもしなかった。




