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「アウルル、お前を愛することはない」と初夜で白い結婚を告げた公爵アーノルドは、悪役令嬢アウルルにざまあされてしまう。  作者: 山田 バルス


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第十二話 動き出すアウルルと神国の箱 解答編

第十二話 動き出すアウルルと神国の箱 解答編



 マルセイユ公爵家の大ホールには、ずらりと人が並んでいた。


 侍女、侍従、料理人、庭師、警備兵――総勢四十名。

 普段はそれぞれの持ち場で働く者たちが、一堂に会することは滅多にない。


 その前方には、当主アーノルドが立っていた。

 その隣には、静かに佇むアウルル。


 さらにその背後には、側近であるヘルナンデス、アーノルドの妹ユー二フルム、そして執事セバスの姿もある。


「――よく集まってくれた」

 低く、よく通る声がホールに響く。


「日々の務め、ご苦労だ」


 短いが、重みのある労いの言葉だった。

 使用人たちは一斉に頭を下げる。


 アーノルドはその様子を見渡し、続ける。

「これより、重要な報告がある」


 そこで一度、言葉を切る。

 ちらりと隣のアウルルへ視線を向けた。


 ――任せた。


 その無言の合図に、アウルルは静かに頷く。

 一歩前へ出た。


「では、わたくしからお話ししますわ」


 柔らかな声。

 だが、その場の空気が一瞬で引き締まる。


「公爵家にて、不正が行われているという情報を受け、この一週間、調査を行いました」

 ざわり、と小さなどよめきが起こる。


「その結果をお知らせいたしますわ」

 アウルルは一枚の紙を手に取り、視線を落とした。


「まず、侍女および侍女見習いは、合計十名と報告されておりましたわ」

 そこで、顔を上げる。


「ですが、聞き取り調査の結果、四名と連絡が取れておりませんの」

「……?」


 困惑の声が広がる。

「不審に思い、調べたところ、その四名は、すでに退職しておりましたわ」


 静まり返るホール。

「にもかかわらず、給与は支払われ続けていたのですわ」


 ざわっ、と今度は大きなどよめきが起きた。

「この件について、説明しますわ」


 アウルルの視線が、一人の女性へ向けられる。

「侍女頭、クラモチ」


 名を呼ばれた瞬間、四〇代ぐらいの蒼髪の女性クラモチの肩がびくりと震えた。

「……は、はい……」


 前へ出る。

 だが、その顔は明らかに青ざめていた。


 一瞬、彼女は隣にいた、五〇代の白髪の侍従頭クサモオへと視線を送る。

 

 ――助けて。

 そんな目だった。


 だが、クサモオは目を逸らした。


「説明を」

 アウルルの声は、静かだが逃げ場がない。


「そ、それは……」

 言葉が出てこない。

 額に汗が滲む。


 そのとき――


「これはどういうことだ!」

 アーノルドの怒声が、ホールを震わせた。


 空気が一気に張り詰める。


「答えろ、クラモチ!」

「ひっ……!」


 ついに、堪えきれなくなった。

「も、申し訳ございません……!」


 その場に膝をつく。

「わ、わたくし……クサモオと共謀し……退職した者の名を使い……その給与を……」


 震える声で、すべてを吐き出した。

「自分たちの懐に……入れておりました……!」


 ――完全な横領だった。

 場が凍りつく。


「……クサモオ」

 低い声で名を呼ばれる。


 侍従頭クサモオは、顔を強張らせたまま動けない。

「事実か」


 短い問い。

 沈黙。

 そして、絞り出すような声が聞こえた。


「……ち、違う」

 うなだれながら、首を左右に振った。


「……」

 アーノルドは何も言わない。

 だが、その目には怒りが宿っていた。


「連れていけ」

 その一言で、控えていた騎士たちが動く。


「は、離して……!」

「ち、違う、俺は騙されたのだ!」


 取り乱す二人を拘束し、そのまま連行していく。

 扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。


 ――静寂が大ホールに広がる。

 やがて、アーノルドが深く息を吐く。


「以上だ。解散してよい」

 短く告げる。


 使用人たちはざわめきながらも、次々とホールを後にしていった。


 ◇


 だが――

(……これだけか)


 アーノルドの表情は、晴れなかった。


 確かに、不正は暴かれた。

 それも見事に。


 だが――

(この程度の金で……公爵家を立て直せるとは思えん)


 現実は厳しい。

 むしろ、お金が足りないという問題の本質は何も解決していない。


(どうする……)

 考えがまとまらない。


 そのとき――


「チゴダイ」

 解散を始めた使用人たちの背中に向けて、アウルルが静かに呼んだ。


「は、はい!」

 茶髪の青年侍従が反応する。


「後ほど、執務室へいらっしゃい」

「え……? は、はい……」


 戸惑いながらも、頭を下げた。


 ◇


 しばらくして。

 執務室。


 そこには、公爵のアーノルド、妻アウルル、部下のヘルナンデス、執事のセバスに侍女のキララが揃っていた。

 コンコンとノックする音。


「チゴダイです」

「入りなさい」

 

 アウルルの返事を待って、執務室の扉が開かれる。


「し、失礼いたします……」

 チゴダイが入ってくる。


 明らかに緊張していた。


「座れ」

 アーノルドが促す。


「は、はい……」

 ぎこちなく椅子に腰を下ろす。


 重い空気。

 誰も口を開かない。


 やがて――


「それでは」

 アウルルが口を開いた。


「キララ、連れてきてちょうだい」

「はい!」


 キララが一度退室する。


 数分後――

 再び扉が開いた。


「失礼いたします!」

 戻ってきたキララの後ろに、一人の少女が立っていた。


 赤毛の、小柄な少女。

 年の頃は十六ほど。


 その姿を見た瞬間――


「――っ!」

 チゴダイが立ち上がった。


「カシワモ……!?」

 驚愕の声をあげる。


「な、なんでお前がここに……!」

 少女カシワモもまた、目を見開いていた。


「に、兄さん……?」

 空気が凍る。


 兄妹なのか?

 その言葉に、執務室の全員の視線が二人へと集まる。


 チゴダイは、信じられないものを見るように、カシワモを見つめていた。

「お前……ど、どうして……ここに……」

 全身を震わせながら、戸惑いの声をあげる。


 一方のカシワモも、何かを言おうとしながらも、言葉を失っている。


 アウルルは、その様子を静かに見つめていた。

 そして、ゆっくりと口を開く。


「――さて」

 その声に、場の全員が意識を戻し、アウルルを見る。


「お二人がなぜここに呼ばれたか、わかるかしら?」

 静かに、だが確実に核心へと迫る問いだった。


 チゴダイとカシワモ。

 この二人の関係は――。


 そして、この出会いが意味するものとは――。

 これが公爵家を揺るがす事態になるとは、アーノルドは思ってもいなかった。

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