第7話 朝焼けの中で
朝の光が淡く広場を満たしていた。
夜明けからしばらく経って空はもう完全に白んでいる。雲は薄く、風はほとんどなかった。鳥の声が時折遠くから聞こえてくる。普段の朝と変わらない景色だった。
だが、地面には三つの布の山があった。
集落の外れの丘のふもと。
住人たちが集まって簡素な土を盛り上げ、その下に布で包まれた者たちを横たえていた。墓標は小さい木の板に名前を彫り込んだだけのもの。それでも彼らに残された精一杯の弔いだった。
俺は少し離れた場所でそれを見ていた。
中に立ち入る権利は自分にはないと思った。
隣でテアが両手を組んでいた。
彼女は夜が明けてからほとんど口を開いていない。昨夜の戦闘の終わり際、家の中で短剣を握ったまま膝をついていた姿を俺は思い出していた。彼女もまた、引きずっているのだろう。
「テア、無理してるんじゃないか?」
「平気よ。あなたの方こそ、休んでないでしょう」
「今はちょっと眠れる気がしなくてな」
「私もよ。だからこうして立ってるのよ」
少しの沈黙の後、俺が声を出した。
「...家の中での出来事。あれは残念だったな」
「ええ。リオを守りきれなかった...」
「俺もあと半歩分速かったら...。だがもう葬式は終えた。いつまでも引きずって行くわけにもいかない」
「そうね。まだ私は完全に切り替えられたわけじゃないけど、前を向いて進まなきゃ。でも、もしまたこんな場面に出会ったら足がすくんじゃうかもしれない」
「まぁ確かに慣れない場面ではあるが、足が動かなくなるってのは心も止まりかけてる証拠だ。俺も恐怖を感じることはあるが歩みを止めるわけにはいかない。戦争で学んだことだ。テアの足がすくんで動かなくなったらお姫様抱っこで運んでやるさ」
気を負いすぎているテアを励まさないとな。いつまでも引きずるテアはらしくないし。
「お姫様抱っこってのがよくわからないけど...励ましてくれてるの?ありがとう、ロイ」
若干顔が穏やかになった。短い応答だったがそれでいい。彼女は自分が壊れないために立ち続けることを選んでいた。それが分かっただけでこちらもこれ以上の言葉は必要ないだろう。
そんな話をしているところへ、イリスが俺を睨みながらやってくる。その見た目と覇気は鬼を思わせるようだ。
「ねぇロイ」
明らかに機嫌が悪い。俺の頬をつねりながら言う。
「私以外の女の子を『お姫様抱っこ』ですって?」
「痛い痛い。じょ、冗談だって。励まそうとしただけだって」
「ふーん、本当に?」
俺をめちゃめちゃ疑ってる目だ。
「本当だって。信じてくれよ。それにテアはお姫様抱っこって言葉を知らないみたいだし、いいだろ?」
「でも、テアかわいいからなー。何か誠意見せてよ」
いきなり無茶なお願いをしてくる、とは思わない。理由は簡単。イリスの弱点は単純明快だからだ。つまり、お姫様抱っこしてやればいい。
「じゃあイリス。いくぞ」
俺はイリスに顔を近づけて言った。
「え?...ロイ。ちょっとこんな朝から...しかもみんな見てるし...」
頬を赤らめている。キスをするわけでもないのに何を期待しているんだ。挙動不審になりかけているイリスをサッとお姫様抱っこしてやった。
「ご気分はいかがでしょうか?お姫様」
「わ、悪くないわね」
イリスとこうしているだけで俺の心は安らいでいく。と、そこに里長が葬儀の輪の中からこちらに歩いてきた。夜の戦いで疲れきった顔だったがその目だけはまだ生きている者の目だった。
「ロイさん。昨夜は本当にありがとう。お礼の品を渡したいところだが、あいにくこの集落には何もなくてな」
「気にするな。俺らは善意でやってるだけだ」
「そう言ってくださると助かる」
「ああ。それと、もう一つ」
「何だ」
「またこんな風に戦うんだろう。誰かを誰かから守るために」
「まぁこの旅が続く限りそうするつもりだ」
「なら、覚えておいて欲しい。守れる相手はいつだって限られてる。それを忘れずに進んでくれ」
里長はそう言って軽く頭を下げた。
感謝とも違うもっと古い様式の礼のようだ。長く生きてきた者が長く生きてきた者に対して取る挨拶。俺はそれを受け止めるしかなかった。
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