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元人類最終兵器の俺は、武器となった幼馴染と終末世界を踏破する  作者: 秋源斗


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第6話 夜明け

闇の向こうから無数の足音が地を擦る音で迫っていた。

一つや二つではない。十、もしくはそれ以上。建物の隙間を抜けて吹く夜風が低く鈍い吐息と爪が土を抉る軋みを運んでくる。咆哮らしき音も混じっていた。


広場の中央で俺は息を整えた。


 隣でイリスが武器化のために身構える。彼女の手が一瞬、自分の胸の前で軽く握られた。集中する時の癖だ。


「イリス」


「うん」


「数が多い。出し惜しみしてる場合じゃないぜ。最初から全力でいくぞ」


「分かった。任せて」


俺はイリスをチラッと見て言った。


「......怖いか」


「少しだけ。でも、あなたの隣だから平気」


「そうだな。俺もだ」


「ロイ、絶対に死なないでね」


「ああ、任せとけ」


イリスは頷いた。


「じゃあ行こう」


彼女の体が瞬時に光の粒に分かれた。


 白銀の刀身が俺の手の中に収まる。柄に埋め込まれた桃色の宝石がいつもより強く、波打つように脈動していた。彼女自身、緊張しているらしい。


住民たちは家屋から飛び出してきていた。


 槍を握った男、錆びた剣を構えた壮年、棒切れを持った老人。彼らがここの戦力だった。十数人、よくて二十人。子供と非戦闘員はテアが守る家の中だ。


「下がってろ!ここは俺がやる!」


「し、しかし」


「勝手に動かれると邪魔だ!気が散る」


「わ、わかりました」


「子供と老人を奥へ」


叫ぶと男たちが一歩、二歩と退いた。


 信用されたというよりは、声の鋭さに気圧されたのだろう。それでも構わなかった。今は一人で十分だった。むしろ彼らがいない方が思い切り動ける。


夜風が止まった。


代わりに闇の方から最初の影が飛び出してきた。


黒く、四肢を歪に伸ばした個体だった。


 だが走り方が異なる。今までの個体のような餓えという衝動のような突進してくる動きではない。地に身を低くし、建物の影を縫うように走ってくる。爪を振り上げる動作は一瞬、人間の戦闘員のそれを思わせた。


一歩、踏み込む。


白銀の刀身が低く走った。爪を振り下ろすところを避け、懐に入り込み、腕の付け根を浅く掠める。


肩から内側に向かって黒い亀裂が走る。


 肉が砕け、骨が形を失う。この力は相変わらず容赦がない。魔物は前のめりに崩れ落ちた。


二体目、三体目がほぼ同時に来た。


 左から飛びかかってくる魔物を刀身の腹で打ち払う。爪が刀身に当たって火花が散った。返す動作で右から低く滑り込んできた相手の脚を切り裂く。


どちらもかすった程度。だが、二つの体は同時に膝から崩れた。


四体目が宙を跳んできた。


頭上から爪を振り下ろす軌道。


 身を引いて最小限の動きで回避する。爪は俺の肩の横を掠め地面が抉られる。


回避した直後にカウンターとして腕を剣で切り飛ばした。四体目は内側から崩壊した。


広場の中央で息を整える。


 人々はこちらをただ見ていた。唖然としている。一分も経たないうちに四体の魔物が地に転がっていたのだ、人々の反応は当然だった。


『警告。第二波接近中』


(数は)


『八体以上。広範囲に展開』


(......広範囲、だと?)


『集落を取り囲む形で複数方向から接近』



 集落の周りを取り囲むように散開しているということ、普通の個体ならこんな動きはしない。襲う対象へ直線的に向かうだけだ。


「ロイ、この状況まずくない?」


「ああ、かなりまずい状況だ。それに普通じゃない」


「動きが統率されてるみたい」


「第二世代とは明らかに違う。気をつけろ。背後を取られないように」


剣の中からイリスの声が硬く響いた。彼女も同じ違和感を察していた。


広場の周囲で魔物たちが散開していた。


 一斉に来るのではなく二、三体ずつ別の方角から。一体を仕留めている間に別の角度から別の個体が人を狙う動き。地の利を利用してこちらの注意を分散させようとしている。


そんな動き方をする魔物が第二世代と分類されるのはおかしい。第二世代ではなく、第二世代の成れの果てでもなく、これは第三世代ともいうべきか。


北西の建物の屋根の上で何かが伏せている気配があった。


 目覚めてすぐに戦ったような普通の魔物なら屋根に登るような知恵は持たない。以前、テアが魔物の知能について教えてくれていた。


 だが確かにそこに何かがいた。じっとしてこちらの動きを観察しているような気配。


 見上げて確認する余裕はない。視線を一瞬でも逸らせば地上の連中が人を仕留める。


「ロイ、屋根の上にいる」


「気づいてる」


「攻撃してこないね」


「観察してるようだな...」


「魔物が観察を?」


「俺もそう思う。テアから聞いた魔物の知能の話からすればあり得ない。やはり最近増えているという統率された魔物か」


「警戒だけはしておいて」


「ああ」


「あの魔物、変な感じ」


「ああ。胸騒ぎがする」


「ロイ!」


テアが俺に向かって叫んでいる。


「子供たちは奥!全員確保した!」


「そのまま奥で待機して出てくるな!」


「分かってる!」


彼女の声が返ってきた。


 ピストルの発砲音が二発、続けて響く。住民の悲鳴に混じって敵の絶叫が短く重なった。彼女は家の近くに来た魔物を仕留めているようだ。


 北側の建物の陰からまた一体が飛び出してきた。

地を蹴って最短距離で踏み込む。剣先が首筋を捉え、そのまま振り下ろす。崩れる体を踏み越えて東側へ駆ける。


 集落の一人で集落を守るために戦っていた壮年の男が別の魔物に押し倒されているのが見えた。


 槍は折れ、男は腕で顔を庇っている。爪が振り下ろされる寸前、俺の刀身が間に滑り込んだ。鋭い金属音とともに爪が弾かれる。


「大丈夫か!」


「す、すまん!」


「謝罪などいらん。とにかく走れ!」


 男が這うように建物の方へ戻っていく。背後でまた新しい気配。今度は南側からだ。


 二歩で振り向き、襲ってきた相手の喉元に刃を当てる。また一体、崩れる。だがそれとほぼ同時に、別の方角でも気配が動いていた。集落のあらゆる方角から絶え間なく襲撃が来ていた。獲物を取り囲むような動き。まさに狩りの動きだ。


(N.S.S.A、状況は)


『手数が足りていません』


(それは当事者である俺がよくわかってる)


『提案。広場中央への誘導推奨』


(やりたいところだが、向こうは散開を続けている)


『警告。北側、新たな反応』


(まだ来るか)


『最初の十体が囮の可能性』


(何?)


『最初の波で広場へ注意を引き、それを囮として家屋を狙う動き』


(誰がこんな指示を)


『不明。ただし、現状の動きは明らかに統率されている』


囮、という言葉が頭の中で響く。


 最初の数体で広場に俺の注意を集中させる。その間に他の連中が人々の家へ回り込む。一つの家屋に集落の人間全員が入ることはできない。なるべく住民は固まり、テアと戦える人間が住民を守ってはいるが、多少の分散はやむを得ない。


 その隙をついてくるような魔物がいるはずがなかった。いや、いてはいけない。少なくとも俺の知っている奴らはここまで頭を使って動けない。今夜の襲撃は何かが根本的におかしい。


「ロイ、あの家屋の方!」


「分かってる!」


剣の中でイリスが鋭く叫んだ。


 北側の建物に向かって全力で駆ける。人の家を敵が一つ、二つ、迂回するように動いていた。一体を斬り、もう一体を斬り伏せる。それでもまだ足りない。手数が足りない。体は一つしかなく守るべき建物は何軒もあった。


住民の悲鳴がした。見えない。建物の陰だ。


 悲鳴が聞こえた方に移動し、駆けつけた時には既に男が一人、地に倒れていた。住民を守るために戦っていたものだ。襲った相手は既に次の獲物を探して別方向へ動いていた。


「......っ」


舌打ちすら出なかった。


 守れなかった。たった一人だが守れなかった。

剣の柄を握り直す。手のひらに汗が滲んでいた。長い時間、同じような戦場にいたはずだ。それでも誰かが死ぬ瞬間に間に合わなかったときの感覚だけは慣れることがなかった。


「ロイ、今は止まらないで」


「ああ、わかってる」


「悔しくてつらい気持ちはわかるけど...悔やむのは後で」


「分かってる」


イリスの声が俺を引き戻した。


 彼女が言うとおりだった。立ち止まる暇はない。集落のどこでまた別の誰かが死ぬか分からなかった。死んだ者の代わりに残った者を守る。目の前のものだけは必ず守る。俺が戦場で掲げていたモットーだ。

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