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元人類最終兵器の俺は、武器となった幼馴染と終末世界を踏破する  作者: 秋源斗


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第5話 集落

薄い煙の方へ近づくと、まばらに立ち並ぶ家屋が見えてきた。


 家といっても瓦礫を組み合わせた粗末な造りだ。屋根代わりの布が風に揺れている。家屋は十数軒。集落と呼ぶにはいささか心許ない数だった。


入り口らしき場所に二人の見張りが立っているのが見えた。


こちらに気づくとすぐに槍を構える。痩せた中年の男と若い女だ。


「止まれ!何者だ!」


「落ち着いて。私よ、テアよ」


 フードを外し、両手を上げ、テアが前に進み出た。見張りの男が目を細める。それからふっと槍を下ろした。


「なんだ...テアか。安心したぜ。久しぶりだな」


「ええ、久しぶりね。早速だけど、ここに立ち寄らせて欲しいの」


「そっちの二人は」


「私の連れよ。悪い人じゃないわ、安心して」


男の視線が俺に向いた。


旧時代の軍用スーツを見て表情が硬くなる。隣の若い女は半歩後ろに下がった。


「兵士の装備だよな。話には聞いたことがあるぞ」


「事情があるの。里長には私から話す」


少しの間が空いてから男が答えた。


「テアがそういうのなら事情があることは分かった。だが、先に里長に伝えておく。戦闘が出来る人間を入れるのは久しぶりのことだ。武器を持っているのだろう」


「ええ、まあ。この集落にとっては悪いと思ってる。でも、信じてほしい」


「......テアの言うことだ。仕方ないが信じる。だが、皆を不安にさせるなよ」


「分かってる」


「子供たちもいる。ちゃんと頼むぞ」


「ええ。ありがとう」


男が一人、集落の奥へ走っていった。


 残った若い女はこちらをじっと見つめている。槍は構えていないが距離は取ったままだ。


「悪いな。怖がらせて」


「……いえ」


「なぜあの男は俺の装備を知っているんだ?」


「ここには絵本がありまして、そこの絵でしか見たことありません。ここの民なら皆読んだことがあると思います」


「絵か。なるほどな」


この時代に昔の兵士を題材にした絵本があるとは思いもしなかった。男がすぐに戻ってきた。


「おーい。里長から許可をいただいた。さぁ、入ってくれ」


里長は思っていたより若かった。


五十前後の男。痩せていて頬がこけている。それでも目だけは鋭く、こちらを真っ直ぐに見据えていた。


 案内されたのは集落の中央にある大きめの家だった。とはいえ、それも瓦礫造りで屋内は薄暗い。


「テア、紹介してくれ」


「この人はロイよ。それとイリス」


「ロイ・ストラスだ。よろしく」


「初めまして。イリス・ルクレシアです」


「ふむ、よろしく。君はロイと言ったな」


「ああ」


里長はじっと俺とイリスを交互に見ていた。試すような目で、何かを見極めようとしている。


「その装備、聞いたことがある」


「そうか。記録か、絵本か」


「年寄りの口伝だ。絵本は口伝を元に作られたものだ。旧時代の兵士について少し聞いている。かつて、未知の存在からこの地を守った英雄譚。人間同士で争い、この地に災いをもたらした悲劇」


俺は気が引ける思いがした。


「察しがいいな」


「で、本当にこの話は実話なのか」


「ああ、合っている。詳しい話をするなら長くなるが」


「そうか、この話は本当のことであったか。まあ、今はいいだろう。聞いて理解できる気がしないのでな」


「賢明だな」


「テアの信頼する連れだから、で信じよう。それで十分だ」


里長は軽く息を吐いた。


 信じると言いながらも警戒を完全には解いていない。当たり前のことだった。見知らぬ人間を、ましてや旧時代の人間を簡単に受け入れられるわけがない。


「それで一晩、泊めてもらえるのか」


「ああ、構わない。ただ、一つ言わせてくれ」


「なんだ」


「最近、魔物の襲撃が増えてきていてな。何かあればあんたが戦うしかないぞ。この集落に戦えるものはいない」


「それまたどうして魔物の襲撃が増えているのに戦える人がいないんだ?」


「この集落では戦士を雇うだけの金がなくてな。守りはここに住むもの達でのみ、行なっている」


「そんな事情があったか。頻度はどれくらいなんだ」


「魔物が出たら戦ってくれる、ということでよいのかな?」


「ああ。俺達が守ってやるさ」


「是非、頼む」


「ああ」


「で、魔物の襲撃の頻度だったな。先月は二度。今月はもう一度あった」


「なるほどな」


「死人も出た」


「……そうか」


「だから今夜、何があっても文句は言わん。あんたが戦えるなら是非戦ってくれるとありがたい」


里長の目は本気だった。


 ここに兵力はない。誰かが襲ってきた時、戦える者が一人もいない。それを彼は隠さずに告げた。


「分かった。改めて俺の口から言う。この集落を守るために戦おう。ただし、今晩だけだがな」


「頼む」


「他になにか俺に聞いておくことは」


「特には。そちらこそ何かあれば私に言ってくれ」


里長の肩からほんの少し力が抜けたように見えた。




夕方、広場の片隅で俺たちは三人並んで腰を下ろしていた。


 広場と言っても瓦礫を退けた小さな空き地だ。それでも子供たちが遊べる場所として辛うじて整えられていた。


ふと、視線を感じた。


数歩離れた場所に小さな影が二つ。


少女ともっと小さな男の子だった。


 少女は十歳くらい。賢そうな目でこちらをじっと観察しているようだ。男の子の方はは五歳くらいか。少女の手をしっかり握って半分隠れるようにしている。


「お兄ちゃん、誰?」


 先に声をかけてきたのは少女の方だった。警戒というより純粋な好奇心の声だった。


「ロイだ。お前は」


「私はミラ。こっちは弟のリオ」


「ミラとリオか」


「うん」


「歳はいくつだ?」


「私が十、リオが五歳」


俺の予想通りの歳だ。


「しっかりしているな、お姉ちゃん」


「私しかいないから」


 ミラがぽつりと言った。両親はいないのだろう。この時代、それは珍しいことではないらしい。


 弟は少し怯えたような顔で、それでも姉に促されて一歩前に出た。


「お兄ちゃん、強いの?」


「まあ、人並みにはな」


「人並み?」


「そうだな、まぁ普通くらいってことだ」


「ふうん」


リオは納得したのかしていないのかよく分からない反応だった。


それから視線がイリスへと移る。ミラが聞いた。


「お姉ちゃんはお名前なんていうの?」


「イリスよ」


「綺麗な髪」


「ありがとう」


イリスが優しく微笑んだ。


ミラの隣で弟のリオが何かを見つめている。じっと瞬きもせずに。


「お姉ちゃん」


リオの声はたどたどしかった。


「髪、キラキラ」


彼女が、少し驚いた顔をした。


それからゆっくりと膝を折ってリオに目線を合わせた。


「これ?」


「うん」


「触ってみる?」


「いいの?」


「いいよ」


子供がおずおずと小さな手を伸ばした。しかし目は煌めいて見えた。姉のミラが横で目を丸くしている。


「リオ、大胆ね」


「えへへ」


子供の指先が髪留めにそっと触れた。


 銀の細工とその横に挿された桃色の小さな花。両方を順番に丁寧になぞっていった。


「このお花、本物?」


「そう。本物よ」


「綺麗」


「うん、とても綺麗ね」


「お姉ちゃんがつけてるの?」


「そう。今朝、お兄ちゃんがくれたの」


「お兄ちゃんが?」


「うん」


 リオがゆっくりと俺の方を振り向いた。子供の目がまじまじとこちらを見上げる。


「お兄ちゃん優しいの?」


「どう...かな?」


「お姉ちゃんに優しくしてあげて」


「ああ、努力する」


子供は満足そうに頷いた。姉のミラが横で小さく笑っていた。


イリスがリオの頭をそっと撫でた。小さな体がくすぐったそうに揺れた。


俺はその光景を黙って見ていた。テアも何も言わずに隣で見ていた。




 夜になると、集落の中央で小さな焚き火が焚かれた。数人の大人が集まって火を囲んでいる。子供たちはもう寝る時間らしい。


里長が俺たちにも声をかけてくれた。


「ロイさん」


「わかった」


「ではこちらへ」


「お、悪いな」


 焚き火の前に座る。テアは知り合いらしい数人と挨拶を交わしている。イリスは少し離れた場所で静かに座っていた。


「最近の話とやら聞いてもいいか」


「ああ、構わんよ。そのつもりでロイさんを呼んだつもりだ」


「魔物の襲撃が増えてる、と言ったな」


「ああ。半年前から徐々にだ」


「半年前、何かあったのか」


「分からん。気づいたら増えていた」


「動きにおかしなところは」


「おかしな、とは」


「統率されてるとか、そういうものだ」


「......言われてみれば」


「心当たりがあるか」


「以前より集団で来るようになった気はする」


里長は火を見つめながら答えた。


 半年前というのが何か手がかりになるのか、まだ判断はつかない。横に視線をやるとイリスが眉を寄せていた。


 α兵装(アンソロ・ウェポン)である彼女は常に俺と繋がっている。聞こえなくとも互いに心理状態を感じることはできる。何か言いたいんだろうか。


「他の集落の状況は」


「同じだ。連絡が取れる範囲ではな」


「かなりの広範囲なのか」


「ああ」


「連絡の途絶えた集落も、あるのか」


「......ある」


もはやこれはただの偶然ではない。


頭の片隅でN.S.S.Aが反応した。データを収集、照合しているらしい。


『半年前の異常事象、複数報告あり』


(何かわかったか)


『データ不足です。要追加情報』


 そうこうしている間にイリスもこちらに小さく頷いた。イリスも引っかかっているらしい。


 夜が深くなって集落は静まり返った。見張りは交代制だが俺は寝ずの番を申し出た。今晩だけは住人に任せきりにするのは気が引けた。


広場の端で星を見上げる。


 千年経っても星の位置はそれほど変わっていないと思っていた。だが、俺の知る星座とは微妙に違って見えた気がした。星座は千年程度では変化しないものなのに。


 家の四隅でイリスが横になっている。テアもその近くで外套にくるまって眠っていた。


そのときだった。


『——警告。複数個体、接近中』


頭の中の声が鋭く響いた。俺は瞬時に立ち上がり闇の方角を睨んだ。


(数は?)


『十体以上。統率された動きを確認』


(……チッ)


『増援の可能性も』


(周囲の警戒を頼む)


『了解』


舌打ちが思わず漏れた。


 最近の襲撃が半年前から増えていた。その意味が今、俺の中で繋がった気がした。


家の方へ駆け戻る。


イリスの肩を軽く揺すった。


「おい起きろ、イリス」


「......ん、もう朝?」


「敵襲だ」


彼女の目がすぐに開いた。一瞬で戦闘前の表情になる。こればかりはさすがだと思う。


集落の方で警鐘が鳴り響いた。


見張りも気づいたらしい。慌ただしい足音と悲鳴に近い声が闇の中で重なった。


テアも目を覚ましていた。短剣とピストルの確認をしていた。


「子供を奥へ」


「分かった」


「子供は最優先で守る」


「了解」


テアが家の中へ走る。


俺はイリスを連れて広場の中央へ出た。


闇の向こうで何かが確かに動いていた。

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