028 新しい居候
マーシャの社交界デビューが終わった後、ジーク男爵より謝礼を受け取った。
約束通りの額で贅沢さえしなければ一年は生活に困らないだろう。
「今後もマーシャの相談相手をしてほしいです」
謝礼を受け取った時、ジーク男爵から請われてた。
「もちろんですわ」
アデルは時間が許す限り対応する予定だった。
◆◆◆
ジーク男爵家からの帰路、アデルは店の方へ立ち寄った。
「今日はハムとチーズ、ワインを購入するわ。エミル卿、荷物持ってくれる?」
後ろに控える騎士はこくりと頷いた。
アデルの監視・護衛として残った騎士・エミル卿は気の利く男であった。
アデルの家事を手伝ってくれる。
朝はアデルより早く家畜小屋の倉庫の掃除をし、薪割をする。時間が余れば鍛錬に励んでいた。
(とても働き者ね)
町の人たちははじめ図体の大きいエミル卿に警戒していたが、町の困りごとには手を貸してくれて一週間後にはすっかりと溶け込んでいた。
エミル卿は町の男衆に気に入られており、おかげで山羊の乳を分けてもらえていた。
「エミル卿がいてくれて助かったわ」
おかげでアデルはまだ山羊を買わなくても新鮮な山羊の乳を堪能できてしまう。
「やはり山羊の乳はいいわ。飼いたいのだけど……」
アデルはため息をついた。
「次の仕事もゴート市で泊まり込みになると、山羊の世話ができなくて悩むわ」
「世話人を雇ってみてはどうでしょう」
頭を抱えるアデルにエミルは意見を出してきた。
「その手も考えたけど、収入が安定してどの程度もらえるかわからないわ。世話人を雇うのもお金はいるし……」
「もしくは、お金を出して近所の人に不在の間山羊を預かってもらうのはどうでしょうか。山羊使いの少年であれば快く引き受けてくれそうですが」
アデルは山羊使いのヨゼフを思い出した。彼なら相談に乗ってくれるだろう。
「そうね。考えてみるわ」
◆◆◆
ようやく山羊を飼おうとしたところで、ジーク男爵から家庭教師の仕事の話を手に入れたと連絡がきた。
「ジーク男爵家へ行ってくるわ。新しい仕事の雇い主と会うことになるから、その後に買い物をしようと思うわ」
「お供いたします」
アデルから予定を聞いて、エミル卿は準備してくれた。
(山羊の購入は仕事の都合を把握してからね)
エミル卿の馬に乗せてくれて、手綱はエミルがもってくれている。
通りがかりの人からは山羊飼いの女が騎士に守られる図は珍しく視線には慣れない。だが、遠出する時は何かと安心できた。
(エミル卿がもう少し地味目な恰好をすれば目立たないかもしれないけど……今度、町のおばさんたちに成人男の服を譲ってもらおうかしら)
考え事をしている最中に、アデルを呼び止める声がした。
「アデル?」
クオン町に着く前、アルフォス団の館に通りがかった。
ちょうど門の近くで休憩していたヴィムに声をかけてきた。後ろに控えるエミル卿をみて軽く会釈した。
「今からジーク男爵家に行くところなの」
「今日はレディ・マーシャの授業の日じゃないだろう」
ヴィムはおかしいと詮索してきた。心配してのことだろうが、少し世話焼きすぎな気もする。
「お仕事の話が来たのよ。今から雇い主に会ってくるの」
アデルは騎士団の様子を見て、少し慌ただしい様子だった。
「忙しそうね」
「ああ、熊害が出て討伐隊を編成しているところだ」
既に第一隊と第三隊が出ており、ヴィムの所属する第四隊が夜に出る予定だという。
「そう。気をつけてね」
長居しても邪魔になるだけだ。
アデル自身もジーク男爵家で相手を待たせてしまっている為、急がなければならない。




