025 挿話 アルベルト・バイエルの家族①
アデルの祖父、アルベルト・バイエルは偏屈な男と言われていた。
頑固で、人とよく喧嘩する。尊大で扱いが難しい。
アルベルト・バイエルは誰よりも山羊の放牧がうまく、山の自然についても詳しい。
ブラン村の人たちはアルベルトの山羊の放牧に関してだけは信用していた。
山羊を扱う時だけはアルベルトは穏やかな性格で、人に対してもこうであったらどんなに良いかと人々は嘆息した。
「きっと山羊男なのだろう」
揶揄する者もいるが、アルベルトは怒らなかった。
ただし、父母のこと、祖父のことを揶揄われると自分よりも大きな男にも容赦なく殴りかかった。彼が暴れると誰にも手がつけられない。
そんな彼が唯一心を許したのはアルマという女性だけであった。
彼女は快活で面倒見がよく、アルベルトが喧嘩をするといつも飛び出して仲裁に入る。周りが止めるのをやめずアルベルトの山羊の放牧についていっていた。
アルベルトはアルマには心を許しており、二人は大人になって結婚し男児を設けた。男児の名はゲルトである。
アルマが死んだ後はこのゲルトがアルベルトと村を繋ぐ仲介人となっていた。
ゲルトはアルベルトと違い温厚で優しい男である。
頭がよく、ゴート市の学校に通い語学の教師となった。村の中で五か国語を話せるのはゲルトくらいだと言われている。
何もない山羊飼いの村、ブラン村に大きな転機が訪れる。村近くに鉱山が見つかり、そこから得られる鉱物は良質なものであった。
蒸気を利用した機関車が開発され、鉱物を利用した便利な機械も出てきており、需要は高まっていった。
ロッシュ辺境伯家は投資を呼びかけ、この村の開発を進めた。その時にブラン村はブラン町となった。
豊かになれば狙う者もいる。
隣国メルティーナ王国はこのブラン町の鉱山を欲した。
元々四方山に囲まれているロッシュ辺境伯領は交通の便が不便であるが、肥沃な大地として有名であった。
メルティーナ王国は度々ロッシュ辺境伯の懐柔を試みるが、ロッシュ辺境伯の忠誠は変わらなかった。
ついに業を煮やしたメルティーナ王国は強行突破に及び、戦争となった。
ロッシュ辺境伯の騎士団だけではなく、他の地方からも傭兵を募り激戦となる。
冬でも変わらず戦争は続き3年の時を費やした。
ブラン町の若者たちはアルフォス団に入り、ゲルトにも誘いがかかる。
「ゲルトが戦場など行っても役にたたない!」
ゲルトの参戦にアルベルトは反対し、ゲルトが戦わなければならないなら自分が出ると武器を持ち飛び出した。
彼はアルフォス団に入らず、傭兵団の方へ入りアルフォス山脈のふもと、メルティーナ王国側の最前線に立った。
善戦をしくも負傷し捕虜となりアルベルトは死を覚悟した。
メルティーナ王国側の将軍であったオベル=バルパス侯爵は人道主義であり、捕虜を丁重に扱う。
アルベルトは治療施設に運ばれ、看護を受けることになった。
◆◆◆
アルベルトが捕虜になった後、戦争は終了した。
メルティーナ王国首都で暴動が起き、国王一族が処刑されたという。
戦争が長引き、税の徴収が厳しくなり蜂起し、民主主義化が掲げられた。
残された貴族の中で戦争に反対していた者らが暴動を治め、戦争の終了、庶民の生活改善を約束する。
戦争が終わった後、治療が終わった兵士たちは故郷へ帰ることになった。
オーガストとメルティーナの友好条約は結ばれ、トンネル開通の計画があげられる。
ここに汽車が通るようになれば二国の交流はますます栄えるであろう。
その為の労働力が必要であり、金が入用な男たちは小さな集落を作りトンネル開通工事に参加していた。
この工事で怪我人が出ることも予想されるためアルベルトが収容されている治療施設はそのまま規模を拡大し病院として作り替えられていった。




