021 隣人の要人
「辺境伯、今回は素晴らしいパーティーに招待していただきありがとうございました」
客人の一人がパーティー主催者に挨拶をする。
酒で赤ら顔になっていたロッシュ辺境伯は上機嫌であった。
「これは、これは、明日にはお帰りになるのですか?」
「いえ、折角山を越えてきたのです。しばらくは観光巡りでもしようかと思います」
「明日からは春祭りです。是非お楽しみにください。何でしたら来年もご招待いたしましょう」
嬉しそうに語るロッシュ辺境伯に対して、客人は是非にと答える。
「このように楽しい時間を過ごせたのです。特に赤いドレスの夫人の登場は驚きました。素晴らしいダンスを披露し私もダンスを申し込みたかった」
「ローゼンバルト伯爵夫人ですね。我が領地で育った女性です。私にとっても娘のようなものですよ。鼻が高い」
実際、今回が初対面であるがロッシュ辺境伯は彼女を気に入っていた。
「名前の通り赤いドレスが似合いました。ダークブラウンの髪、赤い瞳……見ていて惚れ惚れしました」
うっとりと語る男の口調にロッシュ辺境伯は訂正した。
「ドレスで赤くみえたのでしょうな。夫人の瞳は薄いアメジストの色ですよ。あなたの国の名物の色ですよ」
「おお、これは何とも縁のある。また是非お会いしたいものです」
「今回の社交界でローゼンバルト伯爵とは縁を結ばせていただいております。また来年も招待いたしましょう」
なかなか終わる気配のない会話に声がかかる。
「お父様」
辺境伯令嬢ヨハンナが父の元へ駆けつけたのだ。客人を前にヨハンナはカーテシーを披露する。
「ヨハンナ様もお元気で」
客人は挨拶し、馬車の元へと急いだ。
「先ほどの方はメルティーニ王国の」
「ヨハンナ、今は共国と呼ぶべきだ」
ロッシュ辺境伯に言われてヨハンナはしまったと馬車の方へ視線を向けた。
「その通り。20年前の戦争終了の際、停戦条約を持ち掛けた男だよ。国が大変な中よく来てくれたものだよ」
「確か停戦間際にあそこの王家は……」
「ああ、王族同士争い国の統制が乱れ我が国に友好的であったシャルル大公とその息女は殺され、主戦派であったアベル王が国を治めていた。しかし、戦争が長引くと長引くだけ税金は高くなり国民がつい暴動を起こし王族は皆殺しとなった。その暴動を鎮圧したのが新政府で、彼はその要人だ。シャルル大公の家臣だった為我が国との友好を重んじてくれている。アルヴィエ伯爵だ」
ロッシュ辺境伯はいずれヨハンナが皇太子妃になった時の為に隣国の要人について語った。
馬車の中に揺らされながらアルヴィエ伯爵は上機嫌に歌った。
「ご主人様、今日のパーティーは楽しめたのですね」
従僕の言葉にアルヴィエ伯爵は笑った。
「間違いない……薄いアメジストの瞳、そして公女様にうり2つの容貌。この目であのお方の姿をまたみることが叶おうとは。神よ、感謝いたします」
ホテルに戻るとアルヴィエ伯爵は便箋を用意させた。
「ルネ、帰ったら手紙を書く。しばらくここに滞在する旨をバルテル公爵に報告せねばならない」
「バルテル閣下がお怒りになりますよ」
「何々、構わないさ。土産は我々貴族派があれだけ血眼に探し続けた王家の血なのだから」
うっとりと夜の街の風景をアルヴィエ伯爵は楽しんでいた。




