020 パーティーの後
ロッシュ辺境伯のパーティーは終了を迎え、客人たちは帰宅の馬車に乗り急いだ。
マーシャとヴィムもジーク男爵家の馬車で帰宅につくこととなった。
「あー、疲れた」
マーシャは足をぷらぷらとさせてだらしない声をあげた。
「ねぇ、ヴィムも疲れたでしょう。ブランまで帰るのは大変だから、今日はこのまま私の館で泊ってもいいのよ」
「いや、アルフォス団の仮眠室で寝ます」
どんとマーシャはヴィムの肩を叩いた。頬を大きく膨らせて風船のようである。
「パーティーの興奮を誰かと語り合いたかったのに」
アデルはクラウスと一緒にいなくなってしまったから一緒に思い出語りができそうなのはヴィムだった。
「さすがにレディの風評に繋がるでしょう」
一応、マーシャの将来を気にしての発言だ。
「そんなの気にしなくてもいいじゃないの」
マーシャはため息をついた。
ジーク男爵家は多くの客人を宿泊しているのでヴィムが泊っても特別噂になるようなことはない。
ヴィムはうわの空であった。
「ヴィムはアデル先生のことが心配なの?」
「いや、その……」
「夫が一緒だし心配ないんじゃない?」
マーシャの言葉にヴィムはしばらくしてから頷いた。
先ほどのパーティーでアデルへの嘲笑にマーシャは腹を立てた。
アデルの噂は耳にしている。
庶民の間で流れる噂と、上流階級の間で流れる噂は随分と異なった。
アデルは山羊飼いの娘でありながら伯爵家に見初められた現在のシンデレラ、というのが庶民の間の噂である。
アーデルハイトは卑しい生まれで嫌気さした伯爵は彼女を無視し続け、夫婦関係は冷めた状態であるというのが上流階級の間で流れる噂である。
こんなに温度差のある噂の中アデルはアルフォス山脈へ戻ってきた。
(まさか、私の元へ家庭教師にやってくるなど思いもしなかったわ)
何となく面白くなく意地悪をたくさんしてしまった。
アデルはマーシャを嫌うことなく向き合ってくれた。
マーシャのことを良い子だと言い、愛してくれる。
(本当は良い子じゃないのだけどね)
先ほどのドレスにワインをかけられたアデルを思い出して、マーシャは複雑な気持ちだった。
こんな状態でもアデルはマーシャのデビューを第一に考え、ヴィムが走りよるのを制したことに気づいている。
(平常心じゃないのに、私のことを心配して……)
あの状況で味方になってくれる男がいれば心強いであろう。
なのに、アデルはヴィムがそうすることを許さなかった。
マーシャはアデルに対して申し訳ない気持ちであった。マーシャがヴィムを相手に指名しなければ良かった。
そうすればヴィムはアデルの元へ走れただろう。
「伯爵がアデルを連れて来た時はざまぁみろって思ったな」
あの二人をみてマーシャは胸が熱くなった。
あんなに歪な姿なのに、思った以上に二人は型にはまっている。
何故2年間不仲と噂されていたのだと思う程に。
ふとヴィムをみると、ヴィムは何ともいえない表情を浮かべていた。
先ほどアデルに手を差し伸べていれば、あの場所にいたのはヴィムだったとでも考えているのだろうか。
ヴィムはそこまで自惚れてはいない。それでも二人の間に入り込む余地がないと実感して複雑だっただろう。
「私はヴィムの方が良い男だと思うわ。伯爵よりもずーっと!」
本当はマーシャとしてはヴィムがこのままアデルの元から離れてくれればいいと思っている。
「ど、どうも」
ヴィムはきっとこれからもアデルを優先する。
そんなヴィムのことがマーシャは放っておけないのだ。
「あなたはそのままでいいわ。私が頑張れば済む話だもの」
マーシャはアデルも気に入っているのだ。
だから仕方ないと思い見守ることにした。




