18.41.勝利条件
「うおおおぁあああああああああ!!?」
思い切り投擲された早瀬は一直線にナテガへと向かっていく。
吹き飛ばされたばかりのナテガは未だに態勢を整えられておらず、ようやく腕を使って上体を起こしたところだ。
顔を上げた途端に早瀬が前にまで迫ってきていたので何も反応することができなかった。
「よっせい!」
「ぬおおお!?」
早瀬の脚にいつの間にか巻き付けられていた布が態勢を無理やり整えさせる。
視界にナテガを捉え、尚且つ力の入る体制となった今すぐさま手に力を込めて日本刀を振り抜いた。
ズバッ!!
高速移動しながらの攻撃だったので精度は良くなかったが、胸から肩を深く切り裂くことに成功した。
早瀬の刀は拒斬。
死なない相手であっても絶対に攻撃の通る最強の日本刀である。
これはナテガにも通用した。
『ぎゃあああああああ!!?!?』
「おっしゃ効いてるぅううううううう!!?」
「回収しますよ早瀬殿ー!」
再び足を引っ張られて宙吊りにされ、布伝のいる場所へと回収された。
ジェットコースターにでも乗っているかの様で、地面に着地すると若干足元がおぼつかない。
「やるならやるって言えよお!!」
「戦場でそんな暇なんてあるかー!? まぁまぁ援護は任せなされ!」
「今は必要なさそうだけどな!」
二人の背後から継ぎ接ぎが伸びて通り過ぎた。
弱っているナテガについに継ぎ接ぎが絡まり、間髪入れずに肉体が避ける。
完全に動けなくなった所を狙っていた主魂が朧気の一矢を放って盛大に周囲を破壊した。
これまた盛大に視界が遮られる。
畳だったものが地面にバラバラと落ちる中、その中からもぞりと動くナテガがいた。
どうやらまだ死なないようだ。
攻撃は通るといっても神は神。
他に何か攻略法があるのかもしれないな、と思いながら旅籠は目を細めてその糸口を探し出す。
『空爆』
「!? 空爆!!!?」
その言葉の意味を知っている旅籠と早瀬は空を見た。
するとこちらに向かって何かが落ちてきていることに気づいたのだが、その数はあまりにも多く回避するのは到底不可能に思えた。
とんでもないものを召喚しやがった、と旅籠はすぐさまどうするべきか考える。
落ちてくるのにはまだ時間がかかるが、猶予はそう長くない。
力を込めて一発空気を殴ってみるか、と握り拳を作った瞬間、上空に凄まじい大きさの結界が出現した。
ドドドドドドドドドガアアアンッ!!!!
上空で大爆発が連鎖して発生し、空気が振動する。
結界のおかげで熱などは襲ってこなかった。
「ナイスだ雪野さん!」
「範囲……広すぎ……!」
『時空』
バラバラになったナテガの体がすぐさま再生する。
張り付いていたはずの継ぎ接ぎも無理やり剥がされてしまったようで、完全に振り出しに戻されてしまった。
しかし肩で息をしており、相当な体力を使ったことが分かった。
「おいマジかよ……」
「一応神だからなあ~! でもあれをどうにかしないとこっちは厳しいなあ……」
『我の異術とは少し異なるようだ。我は他者に干渉するが、奴は己にしか干渉できぬ』
「見たところ体力は削れてるか。だったら勝機はあると」
『然り』
勝利条件はダメージを与え続ける事。
相手は一体なのでどうにでもなる。
……すると、ナテガが腹を押さえた。
少し力強く抑えると何かを吐き出したらしく、それは地面に落ちる。
先ほどの異空刀ではない。
白い粘液質の何かがそこにあった。
『白異』
白い異形が、膨張した。
「うわああああ収縮の次は膨張かよ!! 雪野さああああん!!」
「分かったわ!!」
膨張を続ける白い異形を結界で囲う。
これで何とかなったかと思ったが、結界の中でどんどん膨れ上がり最後には結界に罅を入れて破壊してしまった。
雪野の結界でもこの包丁を止める事は出来なかったらしい。
『寿命を頂く! 時喰らい!』
『させねえよ。空砲』
膨張を続ける白い異形に向けて空砲を放つと、穴が空いて主魂たちへと突っ込んでくる。
白異によってナテガの動きを見ることができなかったために回避のタイミングが大幅に遅れた。
主魂の側にいる数名にもこれは被弾する。
「おわああああ!?」
「ぐん……ぬぅうううう……!!」
『やられた……!』
ボゴボゴボゴボゴとどんどん肥大化していく白異。
まるで入道雲の様に巨大化したそれは、次の瞬間空気が抜けたかの様にしぼんでいく。
ぺしゃんこになった白異だったが、これがただの見掛け倒しなはずもなかった。
萎んだ白異の中央から何かが出現する。
それは白異の中に現れたようで、骨格などは分からないがただ居るという事は分かった。
「白色の異骨本体ってことね」
頭部、腕、脚などが露わになったが、そのどれもが萎んだ白異の中で動いている。
どうやら出てくるつもりは無いらしい。
ベロベロになった皮を引っ張りながら進むらしく、最も近くにいる旅籠へと視線を向けた。
こちらに視線を向けてくれたようで助かる。
向こうの面子は吹き飛ばされてしまったし、復帰に少し時間がっかあるだろう。
そしてこちらには秘策があった。
バグンッ!!!!
まるで白い布を被ったオバケの様にこちらへ迫ってきていた白異が、一瞬で消えてしまった。
地面には広い円形のクレーターが出来ており、空中に浮いていた白異本体の頭部も脚も何もかもが消え去ってしまう。
『……は!?』
「キュラ~……!」
強力な異形を喰らう事ができて嬉しそうな薄玉。
絶対に何かあると踏んで、白異が出現した時には薄玉を投げていたのだ。
何時異術を発動するかはあの子次第だったが、本当に適切なタイミングで異術を使ってくれたようだ。
これで相手の手札は一枚消えた。
「そろそろ終いにしようぜナテガ!」
「ゴァッ!!?」
ナテガの側に一瞬で移動して拳を繰り出す。
バゴオオオオンッ!!!!
頭のてっぺんを思い切り下へ殴り飛ばせば、畳に顔面を突っ込んで埋もれてしまった。
強力な一撃は地面を、畳を吹き飛ばすには十分すぎる威力だったらしい。
周囲への爆風が収まらない。
地面に突き刺さったままのナテガを見ながら、止めを刺さんと拳を固める。
これでようやく終わるのだ。
そう思いながら手加減することなく拳を振り上げた途端、体の中に居た魂が叫び出す。
『待って!! 殺しちゃダメ!!』
「っ!? っとととととぉ……!?」
思わぬ静止に驚きつつも何とか踏みとどまってその場から離脱した。
間一髪だった、と大きなため息を吐いてから確認を取る。
「どういうことよ!?」
『まだこの空間のこと何もわかってない! あいつのこともまだ理解できてないよ!』
「そ、そりゃそうだけども……」
魂の子が言いたいことはわかる。
このままナテガを殺した場合この空間はどうなるのか。
ナテガの技を見た時の違和感を放置していてもいいのか。
この空間から何かヒントを探し出さなければならない。
今までの戦いからナテガの正体を暴いてやらなければならない。
どうする、と悩みながら歯を食いしばりナテガを観察し続ける。
何か、ないか。
未だにわかっていないこの状況を打開するためのヒントが、死にかけているナテガから読み取れないか!?
意識を手放しているのか、ナテガは今のところ動く気配がない。
こちらに顔を向けて地面に倒れており、巨大な腕は不気味に波打っていた。
あれが再生を促している様にも見えて気色が悪い。
しかしそれ以外には……何もない。
「……ん?」
一瞬だった。
ほんの一瞬ナテガに眼球があるように見えた。
それはすぐに覆い隠されてしまって見えなくなってしまったが、間違いなく光の宿った眼球だったことに気づく。
……両目に眼球がないのではない。
黒く深い靄に……覆われている。
「……まさか……。まさか、そんなことが……!?」
これは仮説だ。
だが……もしそうだったとしたら全ての辻褄が合う。
神の世界でそんなことがあり得るのかどうかわからないが、現にそれが今起きているのであれば……。
「ナテガは……殺しちゃいけない……。勝利条件は……殺さずに勝つこと……」




