18.40.ナテガの異術
布を腕に巻きつければ火力が上がる。
布伝の布は自在に操れることもそうだがサポートに特化していた。
数枚の畳の隙間に入れ込んで持ち上げ、これを起点としてぐいと引っ張れば布伝はそのまま飛んでいく。
黒い直刀を握りなおして肉薄した瞬間、それを鋭く振るってナテガを切りつけた。
ギャリンッ!!
金属が滑るような音を出しながら、ナテガは布伝の攻撃を防いだ。
だがナテガは先ほどまで武器になるようなものは持っていなかったはず。
一瞬で出現した武器を見て、布伝は目を見張った。
『異空刀』
「なんぞこれ……!!」
ナテガの口から鉄の塊が飛び出していた。
この武器は金棒に近い形をしているのだが、形は歪で曲がりくねっており、所々に目と口がある。
今の攻撃で二つの目玉が潰されてしまったのだが、そこから更に鉄らしきものが生えてきた。
鋭利な形となったそれは布伝の手の甲を少しだけ掠める。
「なんっ……!」
『空断』
ナテガの指先が布伝の頭から足を流れるように指さした。
明らかな攻撃。
そう感じた布伝は遠くで数枚の畳を掴んでいた布を引っ張り、その場から緊急脱出する。
刹那、空間が縦に割れた。
布伝が立っていた場所に誰の目から見ても分かるほどの亀裂が入っている。
まるでそこに透明なガラスがあって割れてしまったかのようだ。
攻撃に失敗したナテガはイライラしながらその亀裂を殴る。
この亀裂は物理的に発生しているものであるらしく、その場所には暫く亀裂が滞在するようだ。
さて、今の状況で分かったのはナテガが三つの異術を持っているという事。
一つは木夢に使用してきた空砲。
もう一つが異空刀。
更にもう一つが今使った空断。
肉体的特徴を上げるとすれば怪力も入るだろうか。
遠距離と至近距離で発動できる異術を持っているとなると、バランスがいい。
空間に亀裂が入ったところで再び月芽の継ぎ接ぎが接近する。
これと同時に案山子夜が前に出るが……走る速度が何だか遅かった。
月芽がこれに気づいて案山子夜を回収すると、早瀬の隣に出現する。
「ぬ!?」
「おわびっくりしたあ!」
「月芽、何故ですかな?」
「案山子夜……貴方今無理していますよね? 異術、使えていないでしょ」
「……人の身であればなんとかなると思ったのですがな」
案山子夜はそう言うと膝を折って地面に跪いた。
彼の異術『年功』は己から半径五キロの植物の年齢を総合した力を手にすることができる。
しかしここは上空百メートル地点であり、尚且つ常治が代果城を吹き飛ばした影響もあって半径五キロ圏内の植物の総数が激減していた。
異術が十分に使えない状況で向かわせるのは危険だろうという事で、月芽は案山子夜を回収したようだ。
「案山子夜。ナテガの攻撃はどうだ」
「今わかっているのは三つ。空砲、異空刀、空断」
「……ん~なるほどね?」
「旅籠さん。ナテガの異術って……」
「ちょっと変なところがあるけどまず間違いないだろうな。あいつの異術は『空の文字』で決定だろ」
今まで三つの異術全てに『空』という文字が入っている。
空という文字が入ればどんな攻撃も使えるのだろう。
「……異、術か? これ」
「そうなんだよ」
早瀬が疑問を口にした。
まさにその通りで異術とはなんだか系統が違う。
木材を自在に変形させたり、布を自在に操れたり、靄で武器や腕を沢山作れたりというのが異術らしい物であった。
案山子夜の様な限定的な異術や、ニバニバみたいな補助異術。
空蜘蛛兄弟は糸と煙を使うし、タマエキもスライムを使い、由海も索敵と異形の矢を使った多彩な攻撃を得意とする。
これは肉体的異術と武器としての異術で分けられているのだろう。
どれもが何か一つに対して強力な能力を得ているのだ。
しかしナテガは違う。
文字という曖昧な能力で多彩な攻撃を繰り出してくる。
それもなぜか『空』縛り。
「変だよな、やっぱり」
「異形の神っていうくらいだから、案山子夜さんや月芽ちゃんみたいな異術を出してくると思ってたのに……」
「異骨本体の方がよっぽど神っぽかったけどな」
「えっと……皆さん? それはなにか、考える意味があるのでしょうか……?」
「わても月芽に賛同しますぞ。特に思案する意味はないかと」
「いや、違うんだよ」
早瀬が案山子夜の言葉を遮った。
ここに連れてこられた時、そして今の世界の落とされたときのことを早瀬は今もなお覚えている。
「……ナテガってさ。俺と雪野を落とす時、驚いた顔をしてたんだ」
「驚いた顔? なんで? あいつが引き津りこんだのに?」
「変だろ? 自分で落としたってのに」
「……確かに変だ」
……落とした?
「ちょっと待て早瀬。お前腕に捕まって引きずり込まれたわけじゃないのか!?」
「腕え!? いやいや! 足元にぽっかり大穴が出来て落ちてっただけだよ! だよな雪野!」
「え、ええ。早瀬さんの言う通りよ……」
「連れ去り方が違う!?」
何故?
私はすぐさま思考を巡らせる。
一番最初に出会った時の事を思い出せ。
早瀬と雪野たちとは違う落とし方だった意味がどこかにあるはずだ。
私の時は、驚いた素振りはおろか不敵な笑みを浮かべていた。
しかし早瀬と雪野さんの時は驚いた顔をしていた。
これはつまり二人を落としたのはナテガの意思ではないという事。
では……誰が?
バゴオオンッ!!!!
敷かれている畳が吹き飛び、中身が散乱して視界が遮られる。
先ほどから戦い続けている無形と木夢、そして主魂と布伝が連携してナテガを追い詰めていた。
しかし『空の文字』を使うナテガの技は自由度が高く、中々攻め切れないのが現状だった。
『空壁!』
「ぐぬ!? 見えぬ壁か!?」
『空砲!』
「ガゴロゴ!!」
ナテガが布伝に向けた腕を、木夢が蹴り飛ばす。
巨大な木夢はそのまま首を振るって大剣の形となった無形を振り下ろすと、凄まじい爆発が発生して周囲のもの全てを吹き飛ばした。
「ぬおおおおおお木夢手加減しろお前ええええ!!」
「ガゴロゴ!」
『空砲!』
ダダダダンッ!!
連続で放たれた空砲は木夢の体を簡単に破壊する。
体が大きいので的になりやすく、このままでは危ないと感じた木夢は破壊された木材の破片に紛れながら体を小さくした。
速度特化の形状。
ジャラジャラときわめて細くなった木材の毛を揺らすと、無形も木夢の体の形に合わせて大きさを変えた。
『真空』
斬られた腕を再生させながら手を叩く。
ナテガを中心にして半径十メートルほどの立方体が出現した。
この範囲内にいたのは木夢と無形だけだったが、木夢に異変が生じる。
内臓が熱くなった。
初めての感覚に何事かと驚いてすぐさま範囲外に逃げようとしたが、下がった瞬間壁にぶつかった。
見えない壁……『空壁』だ。
『終わりだ獣め』
「ジャララ……!!」
ナテガがそう確信した。
その瞬間……空壁が簡単に破壊され、真空を作りだしていた立方体も歪んで吹き飛ばされる。
一瞬で全てが破壊されたことに気づいたナテガは余裕の表情から一変、驚きに満ちた顔でこの原因を探る。
するとそれはすぐに見つかった。
「真空はヤバい。お前、どうやら化学ってもんを知ってるみたいだな。異形にそんな知識はねえ。お前……」
ここで言葉を止め、顔を上げる。
真っ白な様相となった旅籠が拳を下げると、冷気を纏った白い煙が残像を残すように尾を引いた。
旅籠の中に居た魂の一人が代表して叫んでいたのだ。
『真空……つまり宇宙空間に人間が放り出されると十秒弱で意識を失う! あの木夢、確か内臓があっただろう? 水分が沸騰して死ぬぞ!』
これを聞いて皆の力を求めない訳にはいかなかった。
ようやく自分も戦えるようになった、と首を鳴らしながら足を引いて腰を落とす。
「もうお前の能力は分かった。言葉の引き出し勝負だ。『空』から繋がる言葉を警戒し続けていればいいってだけ」
『やってみろ……! お前のせいで全部無茶苦茶だ……途中までは良かったのに!! やり直す! やり直すぞ絶対に!!!!』
「それこそ……やってみろ! ってな!」
『うぃ!?』
ナテガの眼前に出現し、手痛い一撃を食らわせる。
ただ拳で殴っただけでも相当な威力があり、ナテガは凄まじい勢いで転がっていった。
全ての魂たちが応援してくれている。
全ての魂たちが協力してナテガを討たんと力を貸してくれていた。
今回は魔蛇の治癒魂もあるので一度は無茶をしても問題なさそうだ。
思い切りやらせていただく。
「行くぞ早瀬!」
「おっしゃ任せろ! 俺が斬る!!」
継ぎ接ぎから出現した早瀬が隣で叫ぶ。
鯉口を切って抜刀した瞬間、私と布伝の二人で早瀬を持ち上げた。
「……え?」
「行くぞ布伝!」
「承知しました!」
「え? ちょまっ」
「「せぇーーーのぉ!!!!」」
二人は持ち上げた早瀬を思い切りぶん投げたのだった。




