18.39異質な狭間
一瞬で最高速度に達した木夢は翼を動かして飛行する。
それと同時に風から全員を守るために数枚の木材を逆立ててくれたらしい。
これによって少しは上体を持ち上げられる。
木夢はあっという間に観音扉の縁へ手を掛けたらしく、そのままぐいと体を持ち上げた。
これといった攻撃がなかったので少し拍子抜けしたが無事に侵入できたのならば良しとする。
周囲を見渡そうと首を動かした瞬間、木夢は一気に防御態勢を取り始めた。
体中の木材を逆立てて旅籠たち全員を覆ったのだ。
何重、何百という木材で周囲を固めているらしく、木材が動き音を鳴らし続けている。
「な、なんだ木夢どうした!?」
「っ! 旅籠様伏せてください!」
「おっと!?」
無形に無理やり引っ張られて伏せた次の瞬間、何百重にも作られた木夢の防御が一瞬にして砕け散った。
幸い一番最後の層が勢いを殺しきったようで大きくひしゃげるだけだったが……それ以外の場所は木材の破片が大量に舞い散っていた。
『入ってくんなウジ虫が!!!!』
バギャアンッ!! バゴァアアンッ!!!!
木夢の脚が吹き飛び、胸部も貫かれる。
円形の鋭い空砲のようなものが飛んできているらしく、木材で体を構築している木夢はそれをまともに受けてしまった。
何とか態勢を維持して背中に乗っている者たちを守ろうとするが、再び脚を破壊されて顎を地面に叩きつける。
流石に無策でここまでの扉を開けているわけではなかったようだ。
しかし先ほど聞こえた声……。
あれは間違いなくナテガだろう。
そしてその口調から感じられる焦燥感は、観音扉を閉じられず侵入を許し、己の身に危険が迫っていることからくるものだ。
何故扉を閉められない?
締められないという事は……制限時間がある。
一度開いてしまったら暫くは閉じられないということなのではないだろうか。
そうなってくると、時間との勝負になる。
この空間について己らが知っていることはほとんどないのだ。
些細な事から情報を読み取り、最悪なケースを常に想像しながらナテガを討つのが最も良いだろう。
しかし旅籠は若干の違和感を覚えていた。
違和感というより、この制限に……見覚えがあるような。
「……あれか!」
旅籠は昔の事を思い出した。
それこそナテガにこの空間へ連れてこられた時の話だ。
ナテガは旅籠を間違えて連れてきたしまったことに気づき、観音扉を出現させて頑張って開けようとしていた。
しかし開けることができず……異形の地に落とした。
一度開けたら、暫く開けられない。
もしくは何かしらの条件を踏まなければ開けることができない。
開けっ放しにしているのはそれが理由だろう。
では何故閉じない?
今最も追いつめられているのはナテガであり、扉を閉めてしまえばこちらから干渉は出来なく……。
「……令月か」
天千が令月の異術を私の教えてくれた時の話を思い出す。
ナテガの姿を目視することが必要だった。
令月は異神であるナテガに攻撃を与えられるようにしただけではなく、その退路も封じたのだろう。
この世界への顕現に使用した観音扉を見てすぐさま無敵化解除と退路封じを行ったのだ。
これが、令月が消して改変した異術。
「無駄にはせんぞ……! 木夢! 大丈夫か!」
「コロ、コロ……!」
巨大化していたはずの木夢だったが、何発も巨大なダメージを喰らって木材が一気に瓦解する。
これをすぐさま感じ取った無形と布伝は全員を木夢から降ろして避難させた。
ここで全員が周囲をようやく見渡した。
水平線が見えるほどに続く畳の間。
旅籠、早瀬、雪野はここに一度来たことがあるとすぐさま気づいた。
「雪野! 結界!」
「うん!」
早瀬の指示で雪野はすぐさま結界を張った。
金巫女の結界というだけあってナテガの攻撃は全て跳ね返せるらしく、空砲がぶつかる音が何度も響くがビクともしていない。
これで態勢を整えられる。
「月芽!」
「やってます!」
地面に着地したと同時に月芽は継ぎ接ぎを伸ばして攻撃を仕掛けていた。
何本もの継ぎ接ぎが一気にナテガの周囲から迫り、継ぎ接ぎは地面から離れて鎌首をもたげるようにして浮き上がる。
その内の一本の継ぎ接ぎが小さく開き、そこから主魂が飛び出した。
『異術・朧気の一矢。天獄』
小さくまとめた一矢をレーザーの様に撃ち出す。
ほぼ一瞬でナテガに届いたそれは見事に肩腕を斬り飛ばした。
頭部を狙ったつもりではあったが紙一重でずらされてしまったようだ。
しかし、攻撃は効いた。
この一撃でそれが分かったのであれば十二分な成果。
次いですぐさま月芽の継ぎ接ぎがナテガを襲う。
だがナテガもやられてばかりではないようだ。
斬られた腕を片腕で掴み、ブンッと振り回して迫っていた継ぎ接ぎはもちろん、足元の畳すらも吹き飛ばした。
爆風は雪野の結界によって防がれたが、月芽の継ぎ接ぎと主魂は軽々と吹き飛ばされる。
「主魂は大丈夫だ! 私たちも行くぞ!」
「ちょっと待った旅篭!」
「なんだよ早瀬!」
「あいつの異術ってなんだ!?」
……確かに、何だろうか。
異形の神ではあるのだから凄まじい異術を有しているに違いない。
それを見破らずに攻め込むのは流石にリスキーだった。
「なるほど。したらばわてらが奴に異術を使わせればよいという事ですな?」
「はっはっはっは! 簡単簡単! 旅籠様、早瀬殿、雪野殿! お三方はここで暫く見といてくだせえな! こっちらでなんとかしてみせましょう!」
「参るぞ布伝! 無形!」
「応よ! おいおいいつまで眠ってんだ木夢ぅ! こっちらの出番だ急ぎやがれい!」
二人は膝を落としてすぐさま走り出し、雪野の結界の左右に分かれて二方向から接近した。
瓦礫の中に埋まっていた木夢もようやく立ち上がったようで、こちらに来るや否や無形を咥える。
「え木夢ぅ!? なんで無形咥えてんの!?」
「ガコロコ!」
木夢が軽く頭を振るうと無形は一瞬で武器の形となる。
その形は大きな大剣であり、木夢の大きさにぴったり揃えられていた。
この状態の無形の弱点は木夢の口の中に隠されており、そう簡単に狙う事は出来ないだろう。
使われることで真価を発揮する無形は、木夢と共にナテガへ駆け出した。
彼らの背中を見ながら、残された旅籠と早瀬、雪野、月芽は目を凝らす。
月芽はサポートとして継ぎ接ぎを使い続けるようだが、他三名はナテガの異術を看破するためにじっと観察し始めた。
異術を複数個持っていても不思議ではない。
それを全て引き出せるかは……彼らに掛かっていた。
「頼むぞ皆!」




