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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第十八章 蘇りの乱
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18.36.返さん


 ナテガがこちらに手を向けた直後、凄まじい違和感が襲ってきた。

 体の中を引っ張られるような感覚だ。

 思わず呻いてしゃがみこむと、その違和感が更に強烈になった。


「んぐ……!? ぐおおおおおお……!?」

「旅籠様! 如何なされたのですか!?」

「ぐ……あの、野郎……! 私の中の……魂を、奪うつもりらしい……!」

「そんなことが……!?」


 体の中に居る魂が叫びながら教えてくれた。

 まさかこちらの体に干渉して来るとは思っていなかったが、対処法はあるらしい。


『意志を強く持ってください! 奴に魂は渡さん、と! 諦めればすべてが流れ出ます!』

「分かったぁ……!」


 胸を強く叩いて腰を落とし、大事な物を守るかのように身を引いた。

 体を伸ばせば楽になるが、縮こめるほど引っ張られる強さは増す。

 これを歯を食いしばって耐え忍ぶ。

 今己が諦めれば奪った魂を使ってナテガが回復してしまう事は確定だ。

 仲間が戦っているのにそんなことをやらせるわけにはいかない!!


「絶対にぃ……! 絶対に渡さん!!!!」

『寄こせええええええ!!!!』

「ふっぐぅぬううううう!!!!」


 絶対に耐える!

 渡してなどやるものか!


「こっちの主様にぃ……!」

「なんしとんのじゃボケがあ!」


 布伝と怒泥が接近し、ナテガの胴体を背中側と腹側から攻撃する。

 黒い直刀が背中から叩きつけられ、鋭利な結晶が腹から切り上げられた。

 ほぼ同タイミングで攻撃が繰り出された結果、まるでハサミで何かを斬るかのようにナテガの体が両断された。

 下半身は立ったままで、上半身だけが地面に落ちる。


 勝負あった、と二人は思った。

 これで生きていられる生物などどこを探しても見つかるはずもない。

 いくら神とは言えども……。


『斬ってくれて、ありがとう~』

「「!?」」


 悍ましいほどに低く、様々な声の混じった声が三日月の形をした口から発せられた。

 怒泥はその喋った上半身を見て驚愕したが、布伝は下半身の切断面を見て愕然とする。


 切断面が沸騰していたからだ。

 ごぽごぽと黒い粘液質の何かが沸騰している様であった。

 慌てて己の持つ直刀を見てみるが獲物には特に損傷はない。

 斬られてから少ししてこの現象が起き始めたらしい。


 しかし嫌な予感がする。

 それにこの黒い粘には見覚えがあった。


「……異骨? ……ッッッッ!!!! こやつ!!!!」

『ああ、気づいたぁ~?』

「離れろ怒泥おおおおおお!!!!」

「ん!?」


 刹那、下半身の切断面から大量の黒い粘液が噴き出した。

 下半身の方を見ていた布伝はこれを全て回避することに成功したが、上半身を見ていた怒泥は反応が遅れてしまった。


 ビシャッと体に掛かった黒い粘液が、一瞬で体に広がって収縮する。


「んごっ!? んぐ、ぬぐぬうぉおおおおお!!!!」


 怒泥は本来、結晶の異形である。

 異形の時の姿はゴーレムのような図体ではあったが、あれはコアが結晶となりそれを守るようにして岩などが集合した姿に過ぎなかった。

 人の姿になったことで本来以上の強さを発揮できるようになったのだが……この黒い粘液、普通と違う。


 異骨がまき散らす粘液は国岩率いる不動衆には効果がない。

 岩以上の物は破壊できないという事なのだが、異神であるナテガから飛び出したこの粘液は明らかに次元が違った。


 ボギッ。

 体のどこかの骨が折れた。

 怒泥にとって耐えられない程の痛みではなかったが、抵抗する力が減ったことは事実。

 このまま収縮が続けば肉体を握りつぶされかねない。


「怒泥! 異傀儡衆よ! 怒泥を救え!!」


 雪傀儡や木傀儡がすぐさま助けに入ろうとするが、その誰もが黒い粘液によって破壊されてしまう。

 かくいう布伝も接近することができないでいた。

 そんな中、怒泥に更なる粘液がかぶせられる。


『はい、追加~』

「ぐ、ぐぬ、ぐおお、ぁああああ……!!!!」

『まず一体』


 ベギョゴッ。

 怒泥の体が変な方向へ曲がった。

 明らかに収縮に抵抗できる姿勢ではなくなり、何もできないまま体が破壊されていく。

 声も発することができなくなったところで、ナテガの手が怒泥へ向けられる。


 回収されてはいけない。

 そうは分かっていても布伝だけでは近づく事すらできなかった。

 ナテガの手が……怒泥に触れる。


 ズチュッ。


『……あ?』

「独楽一文字……遠炎!」


 彼方から飛んできた薙刀がナテガの巨大な腕に突き刺さり、一瞬で炎上した。


『ぎゃあああああああ!?』

「ぜぇーーーー! ぜぇーーーー! やっと、やーーーーっと追いついたあー……!!」

「何をしてたんだ赤雪コラア!」

「炎使い過ぎて体が熱くなってたのよ! そんで雪傀儡の作った道溶かしちゃったってわけ!! だから走ってきたのよ褒めろおらあ!」

「誰が褒めるかあ! こっちらが大変な時に何してんだお前え!」

「てか誰よあんた!」

「布伝だ!!!!」

「うっそお!?」


 こんな会話をさっきもしたような気がするが、それはこの際置いておく。

 赤雪の炎はナテガを完全に包み込んだようで今はのたうち回っている。

 そのおかげで拘束が緩んだようだ。

 同時に旅籠が感じていた酷い違和感は無くなった。


 これに気づいた布伝はすぐさま怒泥を回収する。

 速攻で黒い粘液を切って剥がし、元の姿になるよう布で固定した。

 ボギリと鈍い音が鳴ったが体の形が戻ったので良しとする。


「おい怒泥! 大丈夫かお前!」

「……ぐ、お……」

「よっしゃ大丈夫だな!」

「……どこ……どう……見、て……」

「はっは! 生きてりゃ軽症!」


 パチンと額を叩いてから布で丁寧に運搬する。

 旅籠と魔蛇のいる場所へ戻って来た布伝は怒泥を地面に下した。

 それと同時に息を切らした赤雪も合流したようだ。


「よくやったぞ赤雪! 間一髪だ!」


 魂を奪われないよう気張り続けていたので若干汗が流れる。

 赤雪も己の頬を伝う汗を拭った。


「はいはいどうもどうも! ってか何よあいつ……! なんで半分にされて生きてるわけ……?」

「流石異形の神といったところですかの」

「おい魔蛇さんよ! 怒泥治せるか!?」

「今は旅籠様用の治癒魂を練っておる最中じゃ。暫く手は離せん」

「んじゃ我慢しろ怒泥!」

「……う、そ……だろ……?」


 手が離せないのであれば仕方がない。

 致命傷ではあるが死にはしなさそうなので大丈夫だろう。

 それよりも問題は……。


 遠くで火達磨になっているナテガの方である。

 布伝が距離を取ったのは正にこれが原因で、ナテガの上半身は燃えて暴れているのではあるが下半身も同時に暴れていた。

 沸騰している黒尾い粘液が見境なく噴き出しており、とてもではないが近づける状況ではない。

 炎が消えるまではこの距離を保った方がよさそうだった。


 すると布伝が難しそうな顔をしながらこちらを見る。


「旅籠様。戦ってみたこっちの意見ではありますが、手応えはあるのに効いている感覚がありません。まあ見ての通りなのですが……」

「あれが本体ではない可能性がある? それとも攻撃を通すために何か必要ってことか?」

「でも炎は効いてるわよ? あんなに暴れてるし」

「だか分からんのですわ」


 なるほど……。布伝の言いたいことが何となくわかってきた。

 斬撃、打撃、属性攻撃はナテガの反応を見るの間違いなく有効だ。

 あれが本体であることは間違いないだろう。

 しかし殴っても斬っても生きているし、火達磨にしても死ぬ気配がない。


 考えられるとすれば……まずは底なしの体力。

 いつか底を尽きるとは思うのだが、それまで戦い続けるというのは現実的でない。

 とはいえ半身を切断されて尚生きているのでこの線は薄いだろう。


 では不死身なのか……?

 一応異形の神である存在が、異形の攻撃が有効というのは……。


「……おい怒泥! おい! お前なら今回の計画知ってんだろ!」

「そういえばそちらの陣営の目的は分かりましたが、どう倒すかは知りませんな。あれを倒せる打算があって計画したはずじゃが……」

「そ、れ……は……」

「うう~んこの状態で話を聞くのは無理か……」


 ダアアンッ!!!!

 大地を力強く叩く音に全員が警戒する。

 音のした方を見てみれば未だに火達磨になっているナテガがギリギリと歯を食いしばりながらこちらを睨んでいた。

 皮膚は焼け爛れ元から気色悪かった色の腕も真っ黒になっており、ベロベロろ皮膚が垂れ下がっている。

 下半身の方は立っていることができなくなったようでその場に倒れているようだ。

 沸騰している黒い粘液は未だに流れ続けているが、あれでは周囲に影響を与える事は出来ないだろう。


 腕に刺さっていた薙刀を引き抜き、へし折って捨てる。

 ナテガは腕で体を起こし何とか移動していた。

 だがそれはあまりにも弱弱しく、今にも倒れてしまいそうなほどだ。


 ……違和感。

 先ほどの魂を引っ張られる違和感ではなく、今のナテガの姿に疑問を感じた。

 異形だから、と済ませていい物ではない。

 旅籠は弱ったナテガを見ながら懸命に考える。


「…………あいつ……」


 当たり前の違和感が、今ようやくわかった。


「血、流してねえ」


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