18.33.ようやく
ナテガが殴り飛ばされた時、他の面々は各々ができることを遂行していた。
大きく分けて二つのチームに分かれており、異骨を阻止してナテガに近づけさせないチームとナテガを直接叩きに行っているチームだ。
異骨の異術は脅威ではあったが、巫女の結界と異形たちでこれに対処していた。
攻撃は通らなくとも防御はできるので異形たちは全面的に人の援護を行っている。
これによって異骨の数は次第に減りつつあった。
「感謝するぞ石の異形!」
「礼ニハ及バズ!」
異骨の放った黒い粘液が孫六へと向かったが、国岩がそれを阻止する。
石の異形というだけあって硬度は巫女の結界よりもあるようで、喰らったところで何ともなかった。
体に纏わりつくそれを一度地面に叩きつけてやれば静かになる。
分離した粘液は不動衆にとってそこまで脅威ではないようだ。
その合間を縫って鍵城が異骨を切り飛ばす。
地面に付着した粘液が棘の形をして彼に襲い掛かったが、一瞬でバキバキに砕けて事なきを得た。
常治が全員の足元に飛び継ぎを追従させており、何かあれば反射的に動いて脅威を排除するようになっている。
殆どの人たちはこれに気づいていないようだ。
しかし上から迫る黒い粘液に対しては無力だ。
足元を警戒させ続けているのでどうしても上空がおろそかになる。
今も早瀬の頭上に黒い粘液が幾らか飛び散ってきているのだが、飛び継ぎはこれを阻止する手段がない。
すると早瀬の足元に継ぎ接ぎが伸び、急な浮遊感に襲われた。
「ぬぉああ!?」
ほぼ一瞬の出来事だったが、早瀬は地面に落ちてからすぐさま地上へと復帰した。
これは月芽の継ぎ目移動だ。
常治も使える異術だったが、全員の足元に気を配っているのでこれだけは月芽に担当してもらっている。
死角からの攻撃の対処は彼女に一任している。
とはいえ月芽一人の力では全員分の死角を補う事が出来なかった。
そこで一番活躍できるのは、由海だ。
ナテガに一矢報いた直後、彼女は月芽の継ぎ目移動で攫われてしまった。
事情を聴いたところで由海の仕事は人間の援護を担う事となったのだ。
由海であれば全ての戦況を見ることができる。
黒い粘液も全て把握できるし、なんならこれを射抜き喰らう事すらできた。
由海は今回の援護に最適な人員であった。
「あの異形を一度隔離します! 分断しましょう!」
「良き判断! 頼むぞ金巫女雪野殿!」
「はいっ!」
バッと手を異骨へ向け、狙いを定める。
結界は砕かれるだろうが、少しの間分断をさせるだけでも敵からの攻撃感覚が減るのでやって損はないことだ。
そこで今回作る結界の位置は今現在早瀬たちが戦ってる場所から十メートルほど先。
数秒しか持たないだろうが、これを何重にも作って遺骨を一時的に封じる。
結界は地上から四メートルほど上空に作られた。
六面の底がないような結界で、これは作られた瞬間に重力に従って落下する。
ズドン、と落とされた結界は異骨を潰して行動不能にさせた。
中に閉じ込められた異骨はすぐさま巨大な結界を破壊しようと粘液を飛ばす。
だがそれは結界の中に追加で作られた結界によって防がれる。
「今回は五重の結界!」
ズンッ、ズンズンズンッ!
作り続けられた結界は次々に異骨を潰していき、多少の時間稼ぎが可能となった。
巫女が時間を作り出してくれたことに気づいた古緑はすぐさま声を張る。
「結界はそう長く持たぬ! 素早く仕留めるぞ!」
「了解!」
「はいよっ!」
敵を討つペースを上げる。
不動衆、異傀儡衆、そしてヤガニ衆の援護もありあっという間に殲滅が完了した。
結界ももう少しの間耐えてくれそうなので、ここでつかの間の休息をとる。
敵はまだ多い。
しかし異骨を仕留めることができる人間は数名で限られていた。
「おい……キリがねえぞ……!」
「だがこれを異神の所に向かわせるわけにはいかん。向こうは未だ戦っておる」
「しかしこのままでは……」
この場にいるのは萩間親子、早瀬、鍵城、津辻原、津留。
そして……落水と平将門である。
『せめて巫女が全員集えばなあ!』
「妖怪である貴様の攻撃も意味をなさなかった。人でなければやはり倒せぬようだな」
『くっそ面白くねえ!』
「だが巫女が全員集わせるのは賛成だ」
落水が月芽のいるであろう方向を見る。
そこで津辻原を指さし、今度は己の足元へと指先を移動させた。
「……何をしておるのだ?」
「月芽ならば理解する。矢が飛んできたということは、あの場には由海がいるという事だ。由海が今の動きを見ていないはずがない。月芽が俺の意図を読めぬはずがない」
ビッ!!
彼らの足元を継ぎ接ぎが通り過ぎ、バリッと開いた。
そこからは御代をはじめとした巫女が全員飛び出してくる。
「きゃああああ!?」
「っわあああ!?」
「流石兄妹といったところか?」
バギッ。
大きな音に気づき、全員が結界を見てみれば大きな亀裂が入っていた。
結界は既に真っ黒になっており異骨の粘液がまとわりついて結界を破壊しようとしているようだ。
「来て早々悪いな巫女様。ちょっと人数不利なもんでね……!」
「不利とかそういう話じゃないでしょこれ……」
「結界はあまり持たぬが敵を分断させ続けてくだされ。体力が……持ちませぬでな」
「分かりました!」
御代、八重、菊音、鈴は雪野の結界が破壊されるのを待った。
硬度は低くても敵を足止めさせ続けることができれば何とかなる。
早瀬や鍵城、津辻原も息を整えて初動に備えた。
バギリ、パキキキ……。
もう少しで結界が破壊される。
全員が集中してその時を待っていると、中に居た異骨の一体が結界を片手で叩いた。
これが決定打になったらしく、結界が破壊される。
バギャドガアアアンッ!!
「おん!?」
「何事!?」
結界は自分たちが見ている方向から破壊されるものだと思っていた。
しかし予想とは裏腹に結界は左側から破壊され、中に居た異骨は全てが真横に吹っ飛ばされてしまう。
その火力は相当なものだったようで、あまりの衝撃に半身が泣き別れてしまう個体も居たようだ。
なんだ、何が起こった。
神経を尖らせて警戒していた彼らは面喰いその場で動けずにいる。
新手なのか? と身構えたがそれは次に聞こえてきた声によって違うと判断できた。
「ガゴロゴロゴロ」
「なんという獣だ……ったくぅ……!」
『異形だ』
「獣の異形だろう……?」
木材を纏った巨大な獣。
その背中には数名の人物が乗っていたようで、体に黒い帯のような物を撒きつけて落ちないように固定されていた。
今聞こえてきた声には聞き覚えがある。
「鍔雉殿!」
「む? おお! そこに居ったか! 助太刀に参ったぞ!」
『遅かったじゃねえか主魂!』
『妖怪と人間を解き伏せるに時を要した』
『……妖怪……?』
「左様! 妖怪じゃ!」
『ゲッ!? 団三郎狸!!』
主魂の後ろから顔を出したのはまさかの大妖怪の一匹、団三郎狸だった。




