18.32.全戦力にて異神をつ
異神・ナテガが殴り飛ばされた姿を、集まった全員がその目に焼き付けた。
黒い粘液質の生物と戦っていた常治たちはもちろん、丁度その場に到着した旅籠たち一行もそれを見届けたようだ。
この場にようやく全戦力が集まった。
怒泥に殴り飛ばされたナテガは巨大な腕で体を支え、勢いを押さえて体勢を立て直す。
これを見た常治と旅籠は同じ思考に辿りつく。
「「効いてる」」
異形の神であるナテガは異形からの攻撃を受け付けないはずだった。
しかし令月の異術によってそれが無力化されたらしいということを、常治はようやく己の目で確かめることができたのだ。
旅籠は令月の事を知らなかったが、異形の放った一撃が有効だという事を知って活路を見出した。
ナテガにであればどんな攻撃も効く。
だがそれを阻止して来るのが黒い粘液質の生物だ。
肩と骨だけになった人の様な姿を取り案山子夜と雪野たちを襲っている。
防戦一方になっているということは、守の御力でも抑えきれない異術を有しているのだろうという事が分かった。
「土丹! 情報共有!」
「あの生物……人の骨がくっきり浮き出しておりますので、便宜上異形の骨、“異骨”と呼びましょう。異骨が纏う黒い粘液は膨張と収縮を自在に行います。それは雪野殿の結界を砕くほどだと、土傀儡からの情報として入っております」
「倒せるのか?」
「案山子夜と月芽、炎重、常治が攻撃したようですが、どうも異形の攻撃は効かないようです。しかし雪野殿の結界は有効だったので、人であれば攻撃が効くのでは、と仮説を立てております」
「じゃあ検証だな! 早瀬!!」
すでに最前線に飛んできた早瀬は旅籠の声に気づいて後ろを振り向く。
詳しい説明をしている暇はないので、ビシッと指をさしながら声を張った。
「黒い敵を斬れ!」
「行くぞ鍵城!」
「俺も!?」
この中で最も異形に詳しいのは旅籠だ。
そんな彼が意味のない指示を出すはずもないので、疑うことなく間髪入れて反応し行動に移す。
側にいた鍵城を無理やり連れて行きながら、背中を見せている異骨へと接近する。
鍵城を連れてきたのは早瀬の持つ刀の特殊な力があるからだ。
普通の刀でも切れるのか否か。
それを確かめるべく二人で行動する。
異骨は接近した早瀬と鍵城には気づかなかったらしい。
ということは前方しか見えないようだ。
あの異神が操っているのなら反応するかと思ったが、そうでなくて若干の安堵を浮かべる。
「はっ!」
「よっ!」
粘液質の黒い液体はゴムに近い弾力を有していた。
斬れないことはないが斬りにくい。
それでもなんとか骨を絶ったようで、早瀬は胴体を、鍵城は首を見事に両断した。
「ほお! 斬ったか!」
遠くから常治の歓喜に満ちた声がする。
直後に迫ってきた異骨を案山子夜が槍で薙ぎ払ったが、刃が当たったのにも関わらず切断できなかった。
その代わり凄まじい勢いで吹き飛んでいく。
先程から刃が通らず、案山子夜たちは異骨を吹き飛ばすことしかできなかった。
加えて黒い粘液に常に警戒しなければならず、前線を唯一張る案山子夜は炎重と雪野の援護を受けて何とか耐えていた。
その均衡が今……一気に崩れたのだ。
加えて異骨を切ったのは早瀬だけではない。
鍵城も斬ったという事は、人は異形の神の異術に対抗できるという事だ。
「旅籠様! 指示を!」
「ちょい待ち!」
魔蛇に急かれたがそれを一度制した。
親指を額に強く押し付けながらこの場の最適解を導き出す。
状況整理だ。
異神・ナテガを討つことで今さっき合意した常治率いる異形軍は味方となった。
その証拠に案山子夜と炎重は共闘をしていたのだ。
ここは心配する必要がないだろう。
問題は倒し方。
怒泥の拳は異神に効果があり、人の攻撃は異神の異術に効果があるらしい。
人であれば異神の異術を防ぐことができ、尚且つ攻撃もできる。
しかし異形は異神の異術を防げないが、異神に攻撃を与える事ができる。
この盤面で強いのは人だ。
となればやることは一つ。
「異形たち! 人を全力で守れ!!!!」
『『『『ロウッ!!』』』』
「萩間さん! 指揮は任せましたよ!」
「良かろう! 孫六、付いて参れ!」
「御意!」
抜刀した古緑はすぐさま早瀬と鍵城が戦う場所へと疾走していく。
これには落水と平将門も続き、不動衆が雪傀儡によって前線へと共に運ばれて行った。
まずはあの異骨を何とかしなければナテガには届かない。
ナテガに最も近いのは照によって移動させられた者たちだ。
怒泥が殴り飛ばした後、間髪入れずに由海が矢を大量に放って攻撃を繰り出した。
照、怒泥、薄玉の三名がナテガに向かって直進していく。
その真横を由海の矢が通り抜け、ナテガの腕に深々と刺さった。
ただ効果はほとんどないようで肉厚によってぺしゃんこにされてしまう。
『効かねえよ!』
「俺の拳は効くだろう!?」
『二度も受けるものか!』
「て〜るて〜るぼ〜うず〜て〜るぼうず〜!」
照が歌い出し、怒泥はそれに備える。
確かにただ突っ込んだだけでは簡単に回避、対処されてしまうだろう。
とはいえ異神は未だに照の異術を知らないはずだ。
つまり次の一撃は確実に入る。
「ど~どろ~がい~かみ~のま~えに~でる~!」
「よぉ!!」
『!?』
一瞬でナテガの前に出現した怒泥は、更に腕の結晶の形を変えた。
先ほどはただ固めただけだったが、今回は金砕棒のようなトゲトゲが作り出されている。
その先端は更に鋭利な棘が一本ついており怒泥はそれをナテガに向けて全力で振り抜いた。
メキッ!!
再び顔面を捉えられたナテガはもう一度吹き飛んだ。
今回のダメージは相当なものだったのか、受け身を取ることなく転がっていく。
確かな手応えを感じた怒泥は腕を見てニカッと笑う。
「勝てるぞ!!」
その一声が全ての者たちに闘志を宿らせた。




