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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第十八章 蘇りの乱
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18.31.一番槍


 宙に浮いている観音扉から、巨大な腕が出てきた。

 それを見た者は驚きを隠せず立ち止まってしまっている。

 知能のないヤガニ衆すらも動きを止めていた。


「うっそだろおい……」

「なんだ早瀬! あれ知ってんのか!?」

「知ってるも何も……あいつに俺たちは連れてこられたんだよ! この世界に!」

「ほん!?」


 早瀬の言葉に布伝が驚く。

 しかしこの存在を……待っていた奴が二名いるのだ。

 そちらに聞いた方が早いのは明確。

 宙に浮く観音扉を見て反応が遅れた早瀬たちの代わりに、鍵城が鋭く声を放つ。


「おいお前ら! 何か知ってんだろ! 異神術ってなんだ!」

「ハハハハ! これでお前らと戦わずに済むってことだ! あぶねえあぶねえ死ぬところだったぜ!」

「キュララララ!」

「あいつもお前らの仲間ってことか!?」

「あ!? んなわけねえだろうが殺すぞ!」

「は!?」


 喜んでいるのに仲間ではない、という事に意味が分からず声を荒げる。

 すぐさま詰め寄ろうとした鍵城を津辻原が止めた。


「待ちなさい」

「いやでも!」

「怒泥って言ったわね。それ、どういう意味かしら?」

「どうもこうもねえ」


 怒泥は親指を観音扉から出てきた怪物に向ける。


「俺らはあいつが出てくるのを待ってたんだ。これが俺らの真の目的。お前ら異形軍と戦い、あの異神を引きずり出す!」

「キュラ!」

「異神……?」

「おおっとそいつなら知ってるぞ! こっちは主魂と将門からいろいろ話を聞いているんだ! なんだったか、邪神? 旅籠様はナテガとか言っておられたが……」

「中途半端に話聞いてるっぽいわね……」


 布伝は記憶力があまりよくないのだろうか。

 呆れて嘆息した由海が補足する。


「異神ね。旅籠様の元居た世界を乗っ取ってやろうって宣言してた輩よ」

「そう! その悪い奴!」

「ちょっと黙ってなさい。まぁ今の状況的にその話を深堀する必要はないわ。今大事なのは……あんたたち、その異神をどうするつもり?」

「殺す」


 ド低音の声は殺意を隠す気がさらさらないようだった。

 今までの覇気とは全くの別物。

 これが彼本来の殺意であると、ようやくその場にいた者たちは理解した。


 怒泥は相手がたじろいだことに気づき、喉を触りながら咳払いする。

 この癖は直せと常治によく言われていたことを思い出したのだ。


「まぁつまりだ。もうお前たちを相手する必要は無くなった! 異神を呼ぶっていう目的は達成したんでな!」

「キュララ!」

「これは喜んでいいのか……?」

「だがそこのお前! 弓持ってるお前だお前!」

「え?」


 怒泥が由海を指さす。

 彼はすぐに用件を口にした。


「照を開放してくれ! 頼む!」

「……ええー……? い、いいの?」

「いやダメだろ分かんねえって! あいつらが本当に敵対してないとか分らねえよ!」

「頼むマジで! 照が居ればここに居る全員向こうへ飛べるんだ!」


 照の異術は歌を現実にする。

 照が全員を敵の場所へ移動するように歌えば、それは現実となりすぐさま最前線へと向かうことができるだろう。

 しかし信用しきることができていないのが現状だ。


 先ほどまで命を奪い合う敵同士だったのだから、それをひっくり返してすぐさま信じろと言うのは無理がある。

 だが周囲のヤガニ衆の動きは完全に止まった。

 これは本体であるガガニが戦闘の意思を失ったからではないだろうか。

 しかし場にいる異傀儡衆たちは、攻撃こそしないものの警戒は解いていなかった。


「……布伝はどう思う?」

「こっち? んん……正味分かりませんなあ! だがこれが真実ならば、こうしている時間すら惜しい」

「いや敵だぞ敵! んな簡単に信じられっか! あのてるてる坊主復活したら俺たち勝ち目ねえって!」

「だから! もうお前らとは戦う来ねえんだよ! 常治様を守らねばならんのだ! 最も硬い俺が行かねばならんのだ! そのために照がいる!」

「口ではどうとでも言えるけど……」


 分からない、というのが正直な感想だ。

 話を聞いている限り敵対の意思は完全になくなっているようだが、それだけであの照を復活させるのは正直難しい。

 歌を現実にする異術はやはり脅威で、復活したと同時に攻撃される可能性がある。

 怒泥の話の信憑性は高いが、それだけで一番の脅威である照を復活させていいからは悩むところだ。


 話が進まない、と由海が一度手を叩く。

 周囲の戦況を今一度確認したところ……旅籠たちが既に行動していた。

 向かっているのはあの異神が出現した場所だ。

 共に移動している者の中には……ガガニと磯丸が居た。


「分かったわ」


 誰の許可もとらず、指を鳴らして封印を解く。

 照を封印した場所はここから遠いが、由海であれば遠隔で封印も解けてしまった。

 地面に突き刺さっていた由海の矢が動き出し、その矢尻から照の肉を全て吐き出す。

 団子をこねるようにして集結した照の肉体はなんとか形を取り戻したようだ。


 封印から復活したばかりの照は暫く困惑していたが次第に冷静さを取り戻したらしい。

 やるべきことをすぐさま理解したようで分身を幾つも作り出す。


「おまっ何して……」

「待て鍵城。多分これでいい」

「嘘だろ?」

「嘘じゃない。彼女だって異形で、照の異術の脅威はよく知ってる」


 これに布伝が深く頷く。


「おお、よくわかっているじゃないか早瀬。そう、由海の特技は弓じゃなくて索敵さ。さっき手を叩いたのは周囲の状況を詳しく把握するため。その後封印を解いたってことは、それに足る何かを見たって事よ」

「誉めても何も出ないわよ」

「誉めて貰おうと思ってねえよこっちは! んで、何見たんだ?」

「旅籠様とガガニたちが一緒に行動していたわ」

「なんだって?」


 由海はそれ以外の情報も確認している。

 常治と炎重は既に異神へと攻撃を仕掛けており、それをサポートするように他三名が援護していた。

 そして新たに出現した黒い粘性の生物。

 彼ら五名はそれらと戦っているようだった。


 そちらへ向かっている旅籠たち。

 明らかに助太刀するような動きに加え、ヤガニと磯丸すらもそれに同行していた。

 先ほどまで敵対していたヤガニ衆たちも、ふらっ……と動き出して異神のいる方向へと向かい始める。


 旅籠が彼らを敵ではなく味方として迎え入れたのだ。

 それに反対する意味などどこにもないだろう。

 以上分ったことを早瀬、鍵城、津辻原に説明した。


「てことは味方になった、ってことでいいのかしらね?」

「そのつもりだ! むしろそうならねば異神には勝てん! 共にこい旅籠異形軍よ!」

「急すぎんだろなんだこれ……」

「うんそれは俺も思ってる。でもまぁ」


 早瀬は観音扉が出現した方向を見る。

 既に異神が暴れているようだが、要するにあれを何とかすればいい訳だ。


「俺は旅籠や雪野みたいに頭が良くないからわからんが……。あいつらが敵対してた異形たちと急に手を組んだんだ。そうする意味が必ずある」

「そだよ~!」


 ふよ~っと飛んできた照が嬉しそうにそう叫ぶ。

 もう誰も身構えることはなく、照が近くに寄って来るのを待った。


「怒泥は説明が下手なんだゴメンね!」

「んだとクソガキ!」

「あと弓使い。解放してくれてありがとうね!」

「さっきまで敵だったのに律儀ね」

「後腐れは無いほうがいいから! んじゃ簡単に説明するけど……」


 ふわっと浮かんだ照は早瀬の前に来る。


「異神は別世に侵略するため、異形をこの世で育ててたんだ。それを阻止するために、君たちと戦った。手塩に掛けて育てた異形が争ったら、奴は流石に出てこざるを得ない! で、見事異神を呼び出すことに成功したから君たちと戦う理由は無くなったってわけ」

「分かりやすい!」

「でしょ~!!」


 何故戦う必要があったのか明確化されたことで彼らの意図をすぐさま読み取れた。

 つまり全ての原因は……あの異神であるということ。


「あれを倒せば、全部終わるんだな?」

「倒せればね!」

「よしわかった! 皆もそれでいいですよね!」


 早瀬は今一度同意を取る。

 大体の話を理解した津辻原たちはすぐに頷いてくれた。

 鍵城は少し悩んでいたようだが、移動を続けるヤガニ衆を見て嘆息しながら了承した。

 彼らはすでに敵意をこちらに向けていないのだ。

 この話、信じる他ないだろう。


「じゃあじゃあ! 飛ばすね!」

「……えっ今!?」

「て〜るて〜るぼ〜うず〜て〜るぼうず〜!」


 急に歌い出したことで全員が身構える。

 異神のいる場所へ飛ばされることは間違いないのだが、着地点など全く聞いていないので不安が勝った。

 ただ照はすでに歌っております説明する気はなさそうだ。


「み〜んな〜い〜かみーのま〜えに〜出る〜!」

「前!?」


 次の瞬間、景色がガラリと変わった。

 巨大な異神と思わしき存在が眼前におり、それより左側には異神の軍勢らしい黒い粘液質の人間が立っている。


 本当に目の前に飛ばしやがった、というのが早瀬の感想だ。

 しかしそれに動じない者が一人だけいたらしい。


「俺がぁ……一番槍だおらああああああ!」


 腕に結晶をまとわりつけて硬度を上げ、異神の横っ面を思い切り殴り飛ばす。

 神である存在ではあったが、この怪力の前に簡単に吹き飛んだ。


『ごっ!?』

「はっはーーーー!」


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