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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第十八章 蘇りの乱
313/331

18.25.無限と有限


「前線を下げよー! ここが正念場ぞ! 木傀儡は早く下がれ! 草傀儡共! 殿を務めよ!」

『『『『ロウッ!!』』』』


 増え続けるヤガニ衆の攻撃に、異傀儡衆たちは苦戦していた。

 火打石や油を用いて殺すことはできるが、やはり巫女の力が無ければ威力は半減するらしい。

 じっくり炙らなければ完全に殺すことが出来ないと悟った壱成は、火打石や油の使用を禁止した。

 増援が来るまで耐えることを選んだのだ。


 このまま物資を消費し続ければ、あっという間に無くなってしまう。

 それに加えて……ヤガニ衆を生み出す本体、ガガニも近くにいては倒せたとしても意味がなかった。


 故に土傀儡衆を用いて情報を伝達させ、全異傀儡衆を集結させていた。

 まだ全員揃っているわけではないため、この場は草傀儡と木傀儡で対応している。

 これでなんとか耐えているが……やはりヤガニ衆の方が強かった。


 下がり続けるのにも限度がある。

 足並みが崩れてしまえば、そこを狙ってくることは明白。

 なんとか陣形を維持しながら下がって体勢を整えたいのだが……。


「壱成! 増援だ!」

「来たか!」


 待ちに待った援軍だ。

 草傀儡が指さす方を見れば、足は遅いもの今の状況にとって最も欲していた部隊が来てくれたらしい。


「壱成! 来タゾ!」

「不動衆! 助かりまする! 前を押さえていただけますかな! 体勢を整えまする故!」

「承知シタ!」

「全軍! 不動衆の背後へ回れ! 石傀儡は不動衆と共に壁を!」

『『ロウッ!』』


 異傀儡衆不動部隊の登場により、なんとか危機は脱したように思われた。

 石傀儡の投石によって動きが鈍り、少数精鋭不動衆が攻撃を完全に受け止める。

 これによってヤガニ衆の足が完全に止まったようだ。

 

 ヤガニ衆を殺さなかったのが功を奏した。

 数があまり増えていないので、少数の不動衆が抑えてくれる。

 壱成は直ぐ様指示を飛ばし、陣形を整えて次の戦いに備えた。


「ニバニバ! 国岩はどれ程持ちそうだ!?」

『『この数ならずっと!』』

「良い報せだ! 陰影! 遠石! 拘束を試しまするぞ!」

「木傀儡の出番だな。遠石! 援護を任せるぞ!」

「持壁は水傀儡を下がらせろ! 奴らに水を与えてはならん!」


 遠石と持壁はコクリと頷き、その指示に直ぐ様従った。

 これと同時に陣形が整い、不動衆の援護ができる状態となる。


「陰影ええ!」

「木傀儡! 参るぞ!」


 陰影の合図に従い、木傀儡衆が一斉に己の腕を引きちぎる。

 失った腕を再思しながらそのまま突っ走ってヤガニ衆へと立ち向かった。

 三体で一体を仕留める算段の様で、一体のヤガニ衆を囲んだ瞬間、引き千切った腕を更に加工して鋭利にさせる。

 それを力の限り投擲した。


 ザシュザザシュッ!!

 三体で放った木の槍は見事ヤガニ衆に突き刺さった。

 しかしそれだけで、予定していた拘束はできていない。

 とはいえヤガニ衆もこれだけでは分裂することができず、まず己に刺さった木の槍を引き抜いて再生に集中する。


 予定だったのだが、どうにもその槍が抜けない。

 力いっぱい引っ張っても抜ける気配はなく、遂にはへし折ろうとする。

 だが次の瞬間……陰影が印を組む。


「開ッッ!!!!」


 メキャッという鈍い音と共に、ヤガニ衆の肉体に突き刺さった木の槍が一気に値を伸ばした。

 体の中から押し広げられるようにして伸びた根は肉体を貫通して幾つもの穴を空け、その先端が地面に突き刺さってヤガニ衆を完全に拘束するに至る。

 これで完全に戦闘能力を喪失させた。


『『おお! おおーーーー! やりましたよ壱成~!』』

「ヤガニ衆は肉体を切断しなければ増えぬことは知っておりまする。不動衆のおかげでこの盤面までようやっと持ってこれた」

「壱成様! 氷進の部隊が合流します!」

「良い流れだ!」


 土傀儡が指さす方向を見てみれば、白っぽい煙がこちらに向かってきていることが分かった。

 地面を凍らせて滑りながら近づいてきているのだろう。


 壱成は土傀儡に伝言を頼み、目の前の指揮に集中する。

 陰影のおかげで多くのヤガニ衆の動きを封じる事には成功したが、それもまだ一部に過ぎない。

 しかしこれを続けていけば、確実に勝てる。


「石傀儡衆! 投擲でヤガニ衆共の目を狙え! 不動衆はそのまま前進! 木傀儡たちが封じた敵を救出させるな! 草傀儡は不動衆に続け! 氷進!! いけるか!!」

「無論!!」


 丁度到着した雪傀儡衆が隣を通り過ぎた。

 凄まじい冷気を纏いながら突撃し、ヤガニ衆を一気に凍らせていく。


 しかしヤガニ衆には氷が効かない。

 凄まじい力で内部から氷を砕き、勝手に這い出てくる。

 だがその少しの時間稼ぎが、木傀儡たちにとっては攻撃のチャンスとなった。


 再び腕を千切り、思い切り投擲する。

 突き刺さった腕が陰影の印によって根が伸び、拘束を完了させた。

 石傀儡が投擲で目を狙って視界を塞ぎ、雪傀儡たちが凍らせて動きを鈍らせ、木傀儡が千切った腕を槍に変えて投擲して拘束。

 敵を分散させず同じ場所に張り付けている不動衆と草傀儡たちのおかげで、大量のヤガニ衆を一気に拘束することができた。


 良い流れだ。

 誰もがそう思い、更に攻撃を苛烈にさせていく。

 次々に拘束されていくヤガニ衆たちは何とかもがいてみるが、体の隅々にまで張り巡った根のせいで動けない。

 体も千切れているわけではないので分裂もできなかった。


 無限の兵力が、有限の兵力に押されている。

 倒した異傀儡衆は確かに多かったが、相手はヤガニ衆の特徴をしっかりと把握して対策していたので、数を増やすことができていない。

 完全に拘束された今、ヤガニ衆の敗北は明白だった。


「──ブルルルッ」

「ん?」

「ブルルルルルルル──」


 突如、ヤガニ衆の眼球が震え始めた。

 これを見た多くの異傀儡衆は目を見張る。

 彼らはこの現象を……ちゃんと知っていた。


 パァンッ!!

 震え続けていたヤガニ衆の眼球が破裂する。

 すり潰されたかの様に散らばった肉片は地面へと散らばり……再生を始めた。


「なっ……!?」

「さ、下がれ!! 下がるんだ!!」

「なぜ今になって! まさか……本体がいる!?」

「ご明察じゃああああああっはっはっはっはっは!」


 動揺して叫ぶ異傀儡衆に答えたのは、ヤガニ衆を操っている本体……。

 ガガニであった。


「起きろヤガニ共。異術・海異の打ち上げ」


 再生途中だったヤガニ衆が今一度破裂する。

 そうしてゆっくりと再生していく彼らの数は……先ほどの数倍にまで膨れ上がった。


 異傀儡衆たちは一時的に距離を取る。

 不動衆たちは足が遅いので雪傀儡衆が回収した。

 距離を取ったことで敵の全容を把握できるのだが、明らかに先ほどの比ではない。

 パッと見でもわかるほど、戦力差は歴然だ。


 それもそうだろう。

 こちらは先ほどの戦いで既に多くの異傀儡衆を失っている。

 戦闘の疲労も蓄積されており……これから数十倍の敵戦力と戦い続けられる体力はすでにない。


「おーん? なんでい。しけた面しょって。ま、仕切り直しじゃ」

「壱成……こりゃ無理だ……。撤退するぞ。ガガニ共は足が遅い。俺たちはいつでも逃げられる」

「そうですよ壱成。不動衆は私たち雪傀儡衆が運搬します。足止めもできます」


 ガガニは余裕の表情で笑って歯を見せる。

 既に勝ちを確信しているようだ。


 その様子に壱成は拳を握り固めたが、この状況で逆転することはほぼ不可能だろう。

 陰影と氷進の言う通り、撤退の文字が頭をよぎる。

 だが己らの役割はヤガニ衆の足止め・殲滅。

 それを放棄することは……できなかった。


「私共の役割は、ヤガニ衆を止める事」

「そ、そうだが……」

「全滅しては意味がありません!」


 氷進の言う通りだ。

 確かに全滅するよりも、撤退したほうがいいだろう。

 他の場所へ増援に向かい、共に戦った方が活躍できるかもしれない。

 だが……。


「違う。ここでヤガニ衆を、むしろガガニという本体を止めているからこそ、他の部隊は全力で戦えまする」

「……そうか」

「ガガニが動けば、敵戦力が増える。だがここに縛り付けている限り、増えはしない」


 この戦場で一番の脅威は、数だ。

 ヤガニ衆よりも、ガガニよりも強い敵の異形はいるだろうが、それらと戦う他の味方はもっと大変なはず。

 ガガニが介入し、ヤガニ衆の数を増やされ、その邪魔立てをされては勝ち目がさらに低くなる。


 その足止め……もはや殿だろうか。

 これを任せられたのだから、ここで引いてはならない。

 引けば、他の場所が苦しくなる。


「我らの役目は一つのみ。最後の一体となろうとも、他を勝たせるための布石となる!! 我ら異傀儡衆! ここで救われた恩義をお返しいたしまする!! 聞いていたな異傀儡衆! 全軍、死ぬまで、死ぬ気でガガニをこの場に張り付ける! 参るぞ異傀儡衆!!」

『『『『『『ロウッ!!』』』』』』


 統一された大きな声に、ガガニは笑みをひっこめた。

 数で押され、実力でも押されているはずなのに諦めない。

 死ぬまで戦い抜くという覚悟の目をこちらに向けていた。


 一番厄介な相手だ。

 一番戦いたくない。

 他の場所に増援へ向かうには時間がかかりそうだな、と胸の中で呟いた後、腕を振り上げて突撃の合図を出す。


「すり潰せぃ」


 その瞬間だった。

 突撃しようと足を踏み出したヤガニ衆の横っ面から、凄まじい火力の炎が飛んできた。

 ヤガニ衆は一瞬で水分を失くしてカラカラになり、その場に崩れ落ちる。


「んなっ!!?」

「よく言った壱成!!」


 ドンッと足を強く踏み込む。

 その背後からは継ぎ接ぎの隙間から他の仲間たちが出てきているところだった。


「助けに来たぞ!!」



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