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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第十八章 蘇りの乱
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18.24.布王玉・魂


 異形は、二度死ぬ。

 名付けをされた彼ら異形は一度殺されると本来の姿を取り戻し、己の身体能力を大きく向上させる。

 尚且つ異形の時に有していた異術もまた強化され、異術の境地へと足を踏み入れるのだ。


 だがいい事ばかりではない。

 布伝は布を体に纏う事で体力の回復を図ることができるのだが、人の姿となった彼はその力を手放した。

 故に無茶な戦い方は今後一切できなくなるのだが、それを捨てて余るほど異術・身体能力は向上する。


「はっはっはっは~!! おう由海!! さっさとヤガニ衆潰してくんな! お前ならできるだろう!」

「味方もろともならね」

「ハハハハ! したらば却下だ! あの銅巫女を死守しろ! こっちはご友人と共にやる!」

「早瀬だっつの! ご友人言うな!」

「おう、そうかそうかい! したらば早瀬!」


 布伝が黒い直刀を振る。

 体に巻き付いている布が意志を持ったかのように揺れ動く。


「足、引っ張んじゃねえぞ」


 笑みをスッと消し去り、鋭い眼光で怒泥を睨む。

 その気迫は怒泥以外の者たちにも届いたようで、ぞわと背筋が凍った。


 刹那、怒泥の腕が吹き飛んだ。


「……はッ!?」

「ハハハハ! 柔い柔い!!」


 布伝はすぐさま首を狙う。

 だが怒泥はその攻撃に辛うじて防御を発動させたらしく、喉元を結晶化させて己が作り出せる最高硬度の結晶で守った。


 ギャゴヂンッ!!!!

 岩が体全身を叩きつけたかのような凄まじい衝撃が首一点に集中する。

 分厚く結晶を作っていなければ骨が折れていたことだろう。

 あり得ない速度で流れていく景色を認識した瞬間、地面に激突して転がった。


 腕を地面に突き立てて無理やり静止する。

 これだけで腕の骨が折れたが、同時に回復させて何とか立ち上がった。


(あいつ……強え……!!)


 圧倒的だった。

 そもそも見えないし、腕を斬られている。

 首を守った鉱石も深い傷がつけられており、守れたとしても二度が限度だと直感した。


 怒泥もそうだったが、布伝を昔からよく知っている由海もその攻撃力に驚きを隠せていない。

 名を与えられたときも相当なものだったが、人の姿となったことで以前の数倍の力を手に入れているようだ。

 黒い直刀も彼の攻撃によく付き合っているな、と思わず呆れてしまう。


「戦いはまだ続くぞ早瀬! だが、それは今ではない!」

「ああ!? どういうことだ!」

「こんな雑魚すっ飛ばしてさっさと次の戦場へ行くべきって事さ!!」

「お前がおかしいんだよ!」

「したらば参るぞ!」

「聞けよ! ってぬぉおああああ!?」


 布伝が布で早瀬を掴み、凄まじい勢いで移動させた。

 移動先はもちろん怒泥の背後であり、何かが背後へ回ったことに気づいた彼は反射的に腕を振り抜く。

 布伝はそれを見越していたのか、今度は布で早瀬を軽く下がらせて危なげなく回避させた。


「こっち見ねえとあぶねえぞ~!?」

「ガゥッ……!!」


 大上段からの叩きつけ。

 怒泥はその攻撃を鉱石を纏わせた両腕で防いだ。

 ズンッと重い力が加わって一拍おいた瞬間、怒泥の立っていた周辺の大地がへこみ、爆風が周囲を襲った。


 腕を守っていた鉱石は一瞬で砕け散ったが、両断されることは間逃れたらしい。

 しかしその刃は深々と腕にめり込んでおり、今にも骨すら切られて頭蓋に叩きつけられそうだった。


「きっ……さま……! 布王玉ではないな!!」

「ご明察!! こっちがなぜ貴様を切れるか分かるか~!? 我が異術、布王玉・魂(こん)! 魂を切る異術なりぃ!!」

「布だけにしとけやくそがぁ……!」

「そうもいかん。こっちは主様待たせてんだ。悪いが殺させていただく」

「キュラッ」


 布伝が力を込めて腕を斬り飛ばそうとした刹那……可愛らしい声が聞こえた。

 なんだ、と足元を見て見ると……小さなビー玉が転がっていた。

 それはぴょんと跳ねて怒泥へと近づく。


 異形か? 異術か?

 布伝はそのビー玉を見て思考を巡らせた。


「薄玉!! 喰え!!」

「キュララッ!!」

「!?」


 小さなビー玉が返事をした。

 こいつも蘇った異形だったか、と布伝は驚いて撤退する。

 早瀬を再び振り回して大きく後退したのだが、距離を取ったというのにどうしてか警鐘が止まない。


「嘘だろ……!」


 布伝は布を伸ばす。

 津辻原、鍵城、由海を掴み、更に後方へと大きく跳んだ。


 ズッ……バグンッ!!!!

 地面が一瞬歪んだ瞬間、その空間が切り取られたかのように無くなった。

 喰らう対象を選択できるようで、ヤガニ衆と怒泥はそこにいたが、範囲内にいた異傀儡衆は消えてしまう。

 地面が半円状に抉れ、怒泥と薄玉はその中に落ちていく。

 が、そこまで深い穴ではないのですぐに地面に足が付いた。

 その後に続いてボドボドとヤガニ衆が落ちてきた。


「い、今のは何!?」

「わっかんねえ! だがこっちは小さなガラス玉の異形は見たぞ!」

「ガラス玉の異形!? 新手ってこと!?」

「一応そういう事になるが……。こりゃ近づけんぞ……?」


 最初に着した布伝が、他の面々を丁寧に下した。

 急に掴まれた津辻原と鍵城は腹を押さえて痛みに耐えているが、早瀬は何度も振り回されたせいでグロッキーになっている。

 片膝を突いて必死に吐き気に耐えていた。


「てめっ……布伝んん……! うぉえっ……」

「助かったけど……あれは一体……。私の守の御力も効いてないわ」

「てことは結界術で閉じ込める方が利口ですかね?」

「だったら鈴ちゃんの方がいいわね。私が結界張ってもそんなに強くないし。守の御力に集中していたいわ……」

「なるほど」

「いや……お二方? それ以前の問題よ」


 津辻原と鍵城の会話に由海が口を挟む。


「そもそも攻撃できない。巫女の力があっても私たちが攻撃できなければ意味がないわ。今のも布伝が居なければ危なかった」

「そ、それはそうだが……」

「おまけに、あいつの強みは硬さだった。つまり守りの異術。だけど今出てきたのは何が強みだと思う?」

「明らかな攻めの異術ね。攻撃範囲は広く、攻撃対象も選べる。ただその攻撃は不可視……」

「奴に傷を負わせられるのはこっちと早瀬のみ。だがガラス玉のせいで近づけん。

「私の攻撃も怒泥に防がれて終わりでしょうね」

「しらたば……どうする」


 怒泥は薄玉を手放さないだろう。

 脅威となる二名の接近を許さないはずだ。

 となれば最初に薄玉を倒さなければならない訳だが、あの攻撃範囲は脅威なので遠距離攻撃で仕留めるのが理想。

 とはいえ怒泥が薄玉を守るはずなので、一筋縄ではいかない。


 おまけに薄玉を殺すという事は、布伝のように人の姿となって顕現するという事。

 ただでさえ出鱈目な攻撃と攻撃範囲なのだ。

 それが強化されたらどうなるのか考えたくもない。


 打つ手、なし。

 怒泥と薄玉は、二人そろって完璧な矛と盾になった。


「助かったぜ薄玉……。お前が来なきゃマジで死んでたわ」

「キュラララッ!」

「……あん?」

「キュラ……?」


 二人は上空を見上げる。

 妙な気配が空から降って来たからだ。

 明らかに味方の物ではないし、今現在対峙している者たちの異術でもない。

 ただ……空の色が変わっていた。


 長い間大人しく過ごしてきた彼ら二人もその違和感には敏感だった。

 周囲のヤガニ衆も動きを止め、上空を見上げる。

 妖術ではない。異術でも、巫女の術でもない。

 あれは……。


「来た」

「キュラ」

「来た来た……。来た来た来た来た!!!! キタアアアアアア!!!!」

「キュラララララララッ!!!!」


 急に騒ぎ始めた怒泥は、空を力強く指さした。

 何かの到来に歓喜しているようで、二人してとにかく喜び始める。

 そんな様子に早瀬たち一同は困惑するばかりだ。

 こちらへの敵意を完全に霧散させ、ただ空を見上げて喜んでいる。


 無論、彼らも空を見上げた。

 何を見つけてそんなに興奮しているのか確かめるべく、視線を上へと持ち上げる。


 そこには……観音扉が薄っすらと浮かび上がっていた。


「……はっ?」


 早瀬はその扉を見たことがあった。

 なぜこんな所に、というか上空に出現しているのか。

 あれは富ノ裏神社あったものだ。


 だが怒泥と薄玉は知っていた。

 あれはこの場にいる誰の術でもない。

 あれは……。


「異神術だああああああ!!」


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