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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第十八章 蘇りの乱
311/334

18.23.怒泥の強敵


 二人が同時に斬りこむ。

 怒泥はそれを大きく身を引いて回避し、拳に力を込めた。


「起きよ!! 化結晶!!」


 バッを手を開いて力を込めると、地面が大きく揺れ出した。

 それと同時に怒泥の腕が結晶に覆われていく。

 鋭い刃の形となった右腕は、だらんと振り下ろしただけで触れてすらいない地面が切れた。

 

 その腕を身に寄せる。

 ぐぐぐぐ……と力を込めた瞬間、二人は怖気を感じて叫ぶ。


「「全員伏せろおおおお!!!!」」

「化け腕円斬」


 二人の声にすぐさま反応した者たちは、頭上を通る何かに気づく。

 一泊の間をおいたその時、時が動き出したかのように木々やヤガニ衆、異傀儡衆の半身が吹き飛んだ。

 その数はすさまじく……ヤガニ衆、異傀儡衆共に半壊してしまうほどであった。


 超広範囲の飛ぶ斬撃。

 目に見えないそれはいとも容易く多くの魂を刈り取ってしまった。

 しかしこの攻撃は一度きりのものだったらしく、彼の腕に纏わりついていた結晶はボロボロと砕け散る。

 これだけの威力なのだ。

 やはり何かしらの制限があるのだろう、と思いながら早瀬は立ち上がる。


「……あれ……?」

「どうした早瀬」

「俺の付けた傷が……なくなってる」

「なに?」


 鍵城はすぐさま怒泥の腕を凝視した。

 すると確かに傷がふさがっており、血も流れていない。


「あいつ……治癒能力ねえんじゃねえのかよ……」

「誰がねえっつったよ!」


 ガヅンッ!!

 怒泥のこめかみに矢が飛んできたが、それは粉々に砕け散ってしまう。

 どうやら由海が放ったらしい。


「あらっ? さっき攻撃通ってたじゃない……」

「ええい鬱陶しい……!」

「ギュギュチ」

「油断大敵!」


 怒泥が舌を打ったと同時、布伝と津辻原が左右から迫った。

 双方が強力な一撃を繰り出したが、怒泥はそれを腕を上げて防ぐ。


 バギャヂインッ!!!!

 刃の当たった腕には結晶が作られており、それで攻撃を完全に防いでいる。

 銅巫女の守の御力があるとはいえ、彼の硬度は健在らしい。

 やはり……早瀬の日本刀でなければ攻撃は通らないようだ。


「分かった」


 危険なのは、早瀬の持つ日本刀のみ。

 先ほど傷を付けられたのは巫女の守の御力が原因ではないと気付いた怒泥は、二人の武器を腕で弾いた。

 弾かれた反動を利用しながら、二人はもう一度攻撃を繰り出したが……怒泥は防ぐ素振りすらしない。


 ギャギンッ!!!! ゴンッ!!!!

 明らかに強力な一撃が繰り出されたが、怒泥は微動だにしない。

 殺すべき相手が決まったようで、彼は他の攻撃を一切気にすることなく早瀬にだけ狙いを定めた。


「ま、気づかれるわな」

「どうする。僕たちは助太刀できないぞ?」

「今は人の姿してるんだ。やりようはある! 鍵城。お前らはヤガニ衆全部ぶっ飛ばしてくれ」

「ああ!? 何言ってんだ! 一人で戦うつもりかよ!」

「助太刀できねえなら居ても変わんねっての」

「山本殿とほぼ互角の相手だぞ!?」

「大丈夫。任せろ」


 軽くステップを踏んでから一気に姿勢を低くした。

 思考体術は己の限界ギリギリの中で出来る動きを見事に再現してくれるものだ。

 山本と同じ動きはできないだろうが、攻撃が通る今ならやりようはある。


 怒泥は、黒細と同じだ。

 異形の時はほぼ無敵だったが、人間になった瞬間弱点を晒す。

 身体能力、異術は向上しているだろうが、殺せる相手となるのだ。

 それに……早瀬は山本の戦いをしかと見ていた。


「津辻原さん! 守の御力は維持してくださいね!」

「ちょ、なにを……!」

「オラ怒泥! タイマンだコラ! 掛かってこいやあ!!」

「受けて立つ!!」


 拳に結晶を纏わせた怒泥は飛び込んでくる早瀬に狙いを定めた。

 同時に早瀬も日本刀の切っ先を怒泥へと向けている。


 拳が早瀬に向けて突き出された。

 これを紙一重で回避した早瀬はそのまま腕を切り裂く。

 痛みに腕をひっこめた怒泥の隙を見逃さなかった早瀬は、すぐさま次の一手を打ち込んだ。


 下段から素早く切り上げて脚を斬る。

 動きは遅いはずだが、怒泥が引っ込めた手によって死角が生まれた。

 ここに隠れるようにして動き攻撃を成功させたのだ。


「うぜえ!!」


 怒泥が腕を結晶化させて振り抜けば、やはり鋭い斬撃が飛んだ。

 流れ弾のように津辻原へ飛んできたそれを布伝が見事に防ぎきる。


 その間も早瀬と怒泥の攻防は続いた。

 津辻原の守の御力によって人間でも相手ができる速度となった怒泥は、早瀬とほぼ互角の戦いをしている。

 彼の硬度を完全に無視して攻撃できる早瀬。

 少し弱体化されている怒泥であれば思考体術を使えば対応できるようになっていた。


 あり得ないような動きが続く早瀬に追いつけず、怒泥は次々に傷を付けられる。

 結晶化した腕を振り抜けばその上に手を置いて腕で跳躍し、蹴りを繰り出せば日本刀で斬りながらスライディングをして回避した。

 アクロバティックな動きで怒泥を完全に翻弄させている早瀬は、遂に顔面へと傷をつけることに成功する。


「ぐっ!?」

「動きが単調になってんぞ!」

「じゃかあしい!!」


 乱暴に振るった腕が突風を生み出す。

 怒泥は地面に手をついて腕の結晶化を肥大化させた。

 巨大な刃のようになった結晶を作ったと同時に体も治癒したらしい。


 あれが来る。

 全てを切り伏せる鋭い攻撃。

 今度はこちらを狙っているので外すことはしないだろう。

 流石にこれを回避できる気はしなかったので、意を決して受け止めるために集中する。


「化け腕刺突!!」

「うっ!?」


 ボッと一瞬風を置き去りにした飛ぶ刺突が早瀬に迫る。

 全く反応できなかった。

 ヤバイ、と感じた瞬間に凄まじい金属音が鳴り響く。


 ギャヂイインッ!!

 反応できなかった早瀬の代わりに、黒い直刀がその刺突を防ぎきった。


「お前……」

「ギュチ」


 布伝が黒刀を振るう。

 先ほどの攻撃を弾いたとき、攻撃自体は防げると分かった。

 しかし布伝の攻撃は怒泥に一切効かない。

 奴を殺すことができるのはこの時点で早瀬のみ。


 であれば、己は彼を守るために動くべきだと判断した。


 布伝がこちらを振り向き、少しだけ首を動かす。

 その様は『行くぞ』と口にしているようであった。


「……んじゃ、任せるぜ?」

「ギチチ」


 二名はすぐさま構えを取って瞬時に怒泥へと肉薄した。

 布伝の速度は速く、彼の体から伸びる一本の布が早瀬の体を掴んで一緒に移動したのだ。

 早すぎて体が千切れるかと思ったが、勢いそのままに二人そろって強力な一撃を繰り出した。


 ジャギイイインッ!!

 間一髪で体を結晶化させた怒泥だったが、早瀬の攻撃だけはやはり防げなかったらしい。

 結晶が砕けて肩口がぐっぱりと開いている。

 すぐさま足を地面に突き刺して治癒したのだが、早瀬の攻撃は続く。


 布伝と協力して攻撃していることもあり、先ほどよりも戦いにくくなった。

 布伝は異形たちの中でも屈指の強さを誇る。

 その剣術は落水ですら超えるかもしれない。


 しかし布伝の攻撃は効かない。

 なので無視して早瀬を攻撃しようとするのだが、その尽くを布伝に阻止される。

 邪魔な布伝を攻撃しようとすれば、それを読み取ってから早瀬からの攻撃が激化した。


「ぬぐぅううう……! おおおおおお!!!!」


 ついに怒泥が吠えた。

 この叫びは苦戦から来ている物であると誰が見ても分かるだろう。

 両腕が結晶化し、斬撃を飛ばしながらこちらへと攻撃を繰り出すが、そのどれもが二人には効かない。

 流れ弾となった斬撃は危険だったが、鍵城は津辻原を守るためにその尽くを叩き落とした。


 この流れを維持しているのは津辻原のおかげだ。

 彼女の守の御力がなくなれば……弱体化が解除されてしまう。

 それだけは阻止しなければならなかった。


「ギュチチ」

「いける!」

「させぬわああああ!!」


 攻防はさらに激化する。

 布の切れ端が宙を舞い、火花が何度も飛び散って鮮血も流れた。

 幾度となく回復する怒泥にいい加減嫌気が差してきた早瀬だったが、その終りも近い。

 攻撃は激化しているが動きが単調になりつつある。

 布伝もそれに気づいているようで、どこかでチャンスを作るつもりのようだ。


 肉体を構築している絞られた布が更にきつく絞られる。

 そこから発射された一撃は攻撃が効かない怒泥であっても思わず防いでしまうほどの威力であり、彼の腕にあった結晶が完全に砕かれた。


「ガッ!」

「今!」


 砕け散る結晶に紛れて、早瀬が一気に肉薄する。

 懐の中に入った瞬間、身に寄せていた日本刀を一気に突き出して喉へと差し出す。


 いける。

 遠くで見ていた津辻原と鍵城に笑みがこぼれる。

 間違いなく入る一撃に早瀬も安堵し、気合を入れてグッと押し込んだ。

 切っ先が怒泥の喉元に触れる。

 首の皮を貫かんとしたその瞬間……真横から強い衝撃が加わった。


「おげっ!? なっ、なん……」


 強い力で押し出された早瀬は、完全に攻撃のチャンスを失った。

 体勢を立て直して何が起こったのか見てみれば、そこには手を突き出して早瀬を押し出した布伝の姿がある。

 普通であれば文句の一つでも言いたくなるところだったが……。

 その布伝の体は、剣山の様に細い結晶が背中から突き出していた。


「クソガッ!!」

「布伝!!」


 遠くで由海が叫ぶ声がする。

 腕を剣山のような結晶を作り出した怒泥は、乱暴に布伝を投げ捨てた。

 布伝はよろよろと後退し、そのまま膝を突く。


「ああああああ! 最悪だ! さいっあくだ!! ふざけるな!!」


 そう叫ぶのは怒泥だ。

 何故敵を一人戦闘不能にしたのに喜んでいないのだろうか。

 それは異形だからわかることだ。

 なんなら己が実際に体験しているからこその、愚痴だった。


 布伝を構築していた布がほどけていく。

 脱力していた体が再び動き出し、布が腕や肩に乗ったまま立ち上がった。

 黒い直刀を地面から抜き、パキリパキリと指を鳴らす。


 布をバンダナの様にして額に巻いており、その結び目から伸びる布は地面に着くほど長い。

 少し濃い灰色の髪の毛は長く綺麗で艶があった。

 ほっそりとした顔に隈の残る少し悪い目つき。

 藍色と灰色の着物は少し汚れており、彼の異形姿の時の布が腕や体に巻き付いている。

 これらも自由に動かせるのか、自然と襷がけとなった。


 彼は己の手を見る。

 小さく笑うと、今度は天を仰ぎながら大笑いをした。


「ああっはっはっはっはっは!! やったああああああ!! 喋れるぞおおおおおお!!!!」

「え、ええええ……!?」

「ハッハー旅籠様のご友人!! こんにちはあ!!」

「こ、こんにちは……!?」


 とんでもなく陽気な男が出てきたことに、早瀬は困惑するしなかったのだった。


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