18.22.再挑戦
展開した部隊の一つ、銅巫女部隊。
土傀儡が何度も警告を放っており、それは異形たちはもちろん人間たちの耳にも届いていた。
しかしここで引き下がるわけにはいかない。
この部隊が飛ばされた後、最も近くにいた存在こそが……山本と互角に渡り合い、早瀬たちに格の違いを見せつけたあの二体の異形だったのだから。
妖怪最強の山本と互角に渡り合うことができる相手に勝てるはずがない。
そういう反対の声もあったが、相手が強いからという理由で逃げていいはずもなかった。
飛ばされた場所で誰と当たるかは運次第。
弱い相手でなければ戦わないなど……それこそ弱者の考えである。
そして当たり前のようにヤガニ衆がそこにいた。
土傀儡からの情報で何がいるかは把握していたが、その数は情報よりも多かったようだ。
というより、こちらが近づいてきたことに気づいて急遽数を増やしたと言った方が適切だろうか。
この分裂……早く何とかしたかったが、その役目はこの部隊ではないらしい。
「よぉよぉよぉよぉ!! また会ったな人間!! よく逃げなかった褒めてやるぜ!!」
「え~……来たの~……? め~んど~くさ~……」
「ああ!? やっぱてめえとは馬が合わねえなあ! んなら帰れ帰れ!」
「主に任せられてるんだから逃げるわけないじゃん馬鹿なの?」
「おおん!?」
怒泥と照が喧嘩をしている時には既に戦いは始まっていた。
ヤガニ衆が長い脚を動かしてガサガサと前進し、銅巫女部隊に配属された異傀儡衆へ襲い掛かる。
津辻原、津留、早瀬、そして鍵城は異傀儡衆と共にヤガニ衆へと対抗するが、津辻原の守の御力は強力だった。
銅巫女は守の御力を得手とする。
それは金巫女の守の御力でも死ななかったヤガニ衆を、一撃の下に殺すことが可能だった。
「おおおお!? 死んだぞ!? 炎がないと死なないんじゃなかったか!?」
「僥倖って奴だ! 死んだなら難しく考えるな! 異形たち!! 今ならこいつら殺せるぞ!! 足止めなんてしなくていい! 思い切りやってくれ!!」
早瀬が腹から声を出せば、返事はせずとも理解した異傀儡衆が攻撃頻度をあからさまに変える。
ヤガニ衆ももちろん強いが、彼らは知能がない。
連携によって次々にヤガニ衆を討つことが出来るようになった異傀儡衆の快進撃が始まった。
「ギュチチ……」
「あんたはこっちよ布伝。雑魚相手にしたって意味がないでしょう?」
「「僕たちは雑魚相手にしてもいいでしょうか」」
「さっさと毒煙玉作って頂戴」
「「あ、ハイ」」
「ニィー……」
戦闘向きではない空蜘蛛兄弟がはせっせと毒煙玉を作り始める。
タマエキの力は未だによくわかっていないが、今回は分かっている範囲で活躍させておきたいので空蜘蛛兄弟に付き合ってもらっている。
ここの主戦力は由海と布伝だ。
ギリリ……と弓を引いた由海が狙いを定めたのは……怒泥である。
ヒョウッ!!
まずは小手調べとして、泳ぐ矢で怒泥の硬度を確かめる。
未だに喧嘩をしていた怒泥だったがその矢を認識する事は出来なかったらしい。
このまま何事もなければこの一撃で倒せるのだろうが……。
「んだからお前はよ!?」
パキンッ。
「もうちょっと年上をだなあ!!」
泳ぐ矢は怒泥のこめかみに直撃したが、微動だにすることなく喧嘩を続けていた。
小手調べとはいえ、矢に当たったことにも気づいていない様子に由海は眉を寄せる。
「硬っ……」
「ギチチ……」
「私はあっちをやった方がよさそうね。布伝、あの堅物お願いできる?」
「ギュリリ」
「よろしくね」
次に、由海は照を狙った。
怒泥の側にいる照は空中をふよふよと動き回って狙いがつけにくいが、泳ぐ矢の前では何の意味もなさない。
狙いを定めて手を話そうとした瞬間……由海は全く別の方向へと矢尻を向けた。
「ひょえっ!?」
「ああん? なんだ気持ちわりい声出しやがって」
「本体がバレた!!」
「は?」
由海の索敵範囲とその精度は……恐らくこの世の中でもぶっちぎりで一番だろう。
数百キロ先ですら音と同じ速度で索敵することができる。
尚且つその情景すらも頭の中に入ってくるのだ。
遠くでこちらに視線を向けながら、照と同じ姿をしている異形が居れば目立つことこの上ない。
表に出てきているのが分身で、隠れているのが本体。
なんともわかりやすすぎる。
「て、て~るて~るぼ~うず~、て~るぼ~う……間に合わない!!」
戦場の遥か彼方。
草木の影から急いで飛び出した照だったが、由海の泳ぐ矢に簡単に捕まってしまう。
布をガブリと食いちぎられ、そのまま矢は木に突き刺さる。
それでもなおバタバタを暴れまわるそれを見て、照の本体はゾッとした。
「う、嘘でしょ……?」
「もう、手加減はいらないわよね?」
照が異術を使うよりも、由海が矢を放つ方が早い。
なんでも叶う異術ではあるが発動速度が遅いのが欠点の照。
先ほどまでの余裕はどこへやら、焦りに焦って逃走を図ってしまう。
その様子も由海にしか把握されていない。
怒泥が見ていたのであればすぐさま戦いに引き戻してきただろうが、今、逃走する照を止められる者は誰一人としていなかった。
「喰らいつくしなさい。髄矢」
番えていた一本の矢が、急に五本へと増えた。
それを放てば一度は自由な方向へと飛んで行ったが、飛びながら軌道を修正して本体である照へとまっすぐ向かっていく。
逃走しているためこの攻撃にも気づけないだろう。
五本の矢が全て照に突き刺さる。
それを反映しているのか、分身体も同じようにのけ反った。
「照!?」
「ぐぎょえ……」
照の肉体を貫通した一本の矢が、急に肥大化した。
残り四本の矢も肥大化して照の肉体を切り裂く。
そして……飢えた魚の様に千切れた肉体を喰らい始めた。
鮫の頭ほどの大きさになった矢は、あっという間に照を食べきってしまう。
それらは再び自由に空を舞った後、地面に深く突き刺さる。
「封」
由海は同じ異形と二度戦うつもりは全くなかった。
一度殺せば人間の姿で蘇り、尚且つ更なる力を得て復活する。
こちらの手の内を見せた以上、今までの戦い方では勝つことが難しくなってくるので、封印という選択肢を取ったのだ。
歌を現実に持ってくる異術が更に強化されたらどうなってしまうのか……。
そんなことは考えたくもなかった。
さて、本来であれば怒泥も同じように封印するつもりだったのだが、如何せん攻撃が通らなので封印は難しそうだ。
ここは……人間たちと布伝に任せるしかない。
由海の攻撃で完全に封印されてしまった照の分身は、怒泥の前で消えてしまった。
結界を使われずに消えたという事は、本当に本体の方で何かがあったという事。
しかし先ほどの分身の行動……。
あれは本体が攻撃されたことを意味する。
「っきっさまらあ……!!」
「おっと!? 本命か!?」
「その様ね! 気を付けなさい二人とも!」
「「応!」」
津辻原の言葉に早瀬と鍵城は返事をする。
怒泥が硬いという事は、先ほどの由海の攻撃を見てわかった。
普通に攻撃してもまるで歯が立たないだろう。
……普通ならば。
早瀬が真っ先に攻撃を繰り出せば、怒泥は腕でそれを付け止めようとした。
だが刃が迫ってくるにあたって、体全身が『危険だ!』と警告を発し始める。
その直感に従おうとしたが、どうにも遅すぎたらしい。
ズチュッ。
硬いはずの怒泥の腕に、深々と早瀬の日本刀が入り込んだ。
両断するつもりで斬ったのだが、どうやら太い骨に止められてしまったらしい。
しかし、入った!
「なんっ……!?」
「俺ならば斬れる!!」
早瀬の握る日本刀……拒斬。
名を知った時は不穏だと感じたが、この名の意味は悪いものでない。
斬れぬを、斬る刀。
銘の刻まれた日本刀は……捉え方によって変わるのだ。
思わぬ激痛に顔をしかめながらも、食い込んだ日本刀を無理やり振るって早瀬を吹き飛ばす。
とはいえ思考体術によってどんなに無茶な体勢からでも美しく着地した。
地に足を着けて膝を曲げ、再度攻撃を繰り出すために突撃する。
これに鍵城も続いた。
気を落ち着かせて冷たく睨み、鋭い一撃を繰り出す。
横一線に振り抜かれた攻撃を怒泥は思わず躱してしまった。
本来であれば躱す必要のない攻撃だったが、今しがた手傷を負わされたばかりであり全ての攻撃に過敏に反応した。
ギョロと目玉を動かし戦況を把握する。
味方であるヤガニ衆は銅巫女の守の御力の前に再生能力を失っているらしく、異傀儡衆に尽く殺され仕留められていた。
元より死体を無理やり動かしているのだ。
死の恐怖を失った彼らが手傷を気にすることはない。
これにより思った以上に数を減らしていた。
とはいえ捨て身で飛び掛かるヤガニ衆には異傀儡衆も手を焼いている。
攻撃すればその部位が動かなくなったり、完全に死んだりするのだがそこに至るまでに数名が攻撃を受けてしまう。
もとより異傀儡衆よりもヤガニ衆の方が強いのだ。
こればかりは当然の結果だった。
しかし戦況としては銅巫女部隊が優勢だ。
後方では大量の毒煙玉が作成されているらしく、これを喰らったヤガニ衆の動きが明らかに鈍った。
死に至ることはないようだが、身体能力が著しく低下するらしい。
(マズいな……! 増援は……暫く来ねえ……。俺も無茶に動けやしねえ!)
早瀬が付けた傷が、相当効いている。
肉体的には大したダメージになっていないらしいが、精神的な面では非常によく効いた。
再生能力はない。
一番厄介だった照は由海によって仕留められた。
「次は勝つ!」
「応よ!」
早瀬の声に鍵城が応え、二人は同時に足を踏み込んだ。




