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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第十八章 蘇りの乱
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18.20.泣き虫炎重


 高火力、広範囲な炎の柱を見て、全員が目を見張った。

 思っていた数倍とんでもない攻撃が来てしまったのだ。

 これは流石に防げない。


「月芽!」

「はいっ!」


 打打炎斬が向かって来る直前、月芽は地面に継ぎ接ぎを伸ばしてその場にいた全員を移動させる。

 これで炎重の攻撃は回避できた。


 少し遠くで再度出現した時、炎重の放った打打炎斬はぶつかり合って凄まじい炎を上げていた。

 炎重が結界を破った時とほぼ同火力だ。

 周囲に広がる熱波だけで草木が燃えそうなほどである。


「やばぁ……」

「旅籠様。大人数で立ち向かうべき敵ではありませぬぞ……」

「そうだね。案山子夜、月芽、雪野さん。任せていいかな」

「待て旅籠殿。三人で勝てる相手なのか?」

「妖怪である二人は任せられない。それに萩間さんたち結構ギリギリでしょ? 少し休んでもらいたい。久原さんは戦闘不能だしね」

「ぬぅ……」

「それに、魔生良は倒せた。魔蛇さんと雪野さんはこれから別行動ができる」


 今まで金巫女部隊には戦力が集中していた。

 それでもこの有様だったわけだが……今はそれを崩すことができる。

 次の問題はヤガニ衆。

 これを何とかしなければ、永遠に戦力を増やされて話にならないのだ。


「てことでこれからガガニを仕留めに行く! 赤雪! お前が要だ問題ないな!」

「なんとかね! 任せて頂戴!」

「よし。月芽! 私たちを別の場所に移動させてくれ!」

「分かりました! ご武運を!」


 月芽は継ぎ接ぎを伸ばして彼らを全員別の場所へと飛ばした。


 久しぶりの三人。

 互いに顔を見合わせるが、全員が人の姿となっていることになんだか違和感を覚える。


「この組み合わせ、久しぶりね」

「ですな」

「私たちならなんだってできますよ! 行きましょう、お二方!」

「ええ」

「承知しましたぞ」


 三人が頷いた後、月芽は今一度継ぎ接ぎを使って全員で移動する。

 再度出現したのは炎重の前だ。

 敵が消えたことで焦っていた炎重だったが、現れて怒りの矛先を再び向けてきた。


「参りますぞ」

「うわあああああ!!」


 叫ぶように泣いた炎重は、接近してきた案山子夜の攻撃を簡単に受け止める。

 やはりただものではないらしい。

 異術、武術共に卓越しているようだ。


「稲嵯虚心流」

「大大打打炎(だいだいだだえん)んん……!!」


 背後に量闘技天秤槍を回した案山子夜に対し、炎重は大刀を大きく振りかぶった。

 ぐるぐると回転させながら多連撃を打ち込む案山子夜。

 一方炎重も連続で攻撃を打ち込んだ。


「流流天!」

「打打大音(だだだいおん)!」


 ギャンッ! ギャヂガガガガギガギャギギャギャンッ!!!!

 案山子夜の扱う両刀切天秤槍は槍の左右に刃が付いているもので、攻撃速度は非常に速いはずだ。

 加えて異術・年功もあるので常人では防ぐことすらできない。


 だが炎重はそれをやってのけた。

 防ぐだけではなく攻撃すらする余裕もあるらしく、両者が切迫した戦闘を繰り返す。


 案山子夜が足止めをしているところで、継ぎ接ぎが炎重の足元へと迫った。

 その殺気を見破ったのか、すぐさま足をひっこめて案山子夜に強烈な一撃を叩き込む。

 この衝撃を使って空中へと非難したが、月芽の異術は持ち上がる。


 鎌首をもたげた継ぎ接ぎは空中にいる炎重へと向かって伸びていく。

 これに気づいた炎重はそれらを全て切り裂いた。

 継ぎ接ぎを切られるとは思っていなかった月芽は、流石に驚いてしまう。


「えっ!? 空中で全部切った……!?」

「あの刀……軽いのかしら……?」


 雪野がそう零したが、案山子夜の様子を見るにそんなことはないらしい。

 彼は手を少し震わせており、響いてきた痛みに耐えているようだった。

 恐らくだがあの刀は、見た目の二倍以上の重さがある。

 それを軽々と振り回すのだからとんでもない攻撃力となっているのだ。


 油断すると体ごと吹き飛ばされそうである。

 相手の攻撃に合わせて武器を振るうが、それでも若干押されてしまう。

 この炎重……やはり強い。


「いいぃい……!」

「んぬ……?」

「ヤダヤダヤダ!! ヤダーーーー! 速いの、嫌だー!!」

「おっぐ!?」


 途端に案山子夜の体が重くなる。

 踏ん張りを利かせて何とか耐えたが、その重量は凄まじく足が地面に埋まるほどだ。

 重力が炎重の異術なのだろうか?

 そんな考えが脳裏をよぎったが、案山子夜はこの重さに耐えるだけで精一杯で動けない。


「こ、これは……!?」

「案山子夜!」

「守の御力……!」


 雪野は炎重に守の御力を付与したまま、一度案山子夜へと向けた。

 敵味方を判別できる守の御力は案山子夜の異術を残したまま、付与された異術のみを解除することに成功したらしい。

 重力から解放された案山子夜は、大きく息を吸って体を持ち上げた。


「ぜぇー!! カッ感謝しますぞ……!」

「いいいいぃいいい……!」


 異術が解除されたことに気づいたのか、炎重は歯を食いしばりながら悔しがっている。

 炎重が炎と重力を扱うとなると厄介だ。

 この二つの異術のコンボを喰らってしまえば、動けないまま炎に焼かれてしまう。

 しかし初手でそれを使ってこなかったことに案山子夜は疑問を抱く。


 確かに彼の異術は強大だ。

 だが何かしらの弱点はあるはずである。

 案山子夜であれば草木が無ければ力を発揮できないし、月芽は巫女の結界を突破できない。

 強すぎる力は、何かしらの条件が必要な場合が多い。


(一度発動させたら暫く使えんのですかな……? だとしたら今が好機)


 案山子夜は背を低くして狙いを定める。

 炎重は目元を赤い布で隠しているので視点を把握できないのでやりにくい。

 それに姿は子供だ。

 背丈に差があり過ぎて戦いにくいのだが、体格差はこちらが上なのでこれを存分に活かす。


 タンッと一歩踏み込んで地面を蹴り飛ばせば、案山子夜は炎重へと直進していた。

 草木が彼を味方してくれている。

 遠心力を最大限にまで乗せた両刀切天秤槍を横凪にして振り抜けば、これに反応した炎重が手に持つ大刀で防ぐ。


 ギャヂイインッ!!!!

 やはり炎重の持つ大刀は重い。

 叩きつけるようにして振り抜かなければ、炎重の体勢すら崩すことができなかった。

 それに復帰速度も速く、瞬きの間に反撃をしてくる。


「はっ!!」


 一瞬の隙を見て、月芽が継ぎ接ぎを伸ばす。

 ビビッと音を立てながら炎重の足へと継ぎ接ぎが伸び、ようやく拘束することができた。

 これであとは継ぎ接ぎを開けば……勝負が決まる。

 この際足だけでもいい、と月芽はすぐさま継ぎ接ぎを開こうとした。


「ヤダ」


 炎重がそう口にした瞬間、継ぎ接ぎが固まった。

 違和感を感じた月芽は継ぎ接ぎを開いて致命傷を与えようとするが、どうしたことか継ぎ接ぎが開く気配がない。

 力を込めてもそれは同じであり……何もできなかったのだ。


「な、なんで!?」

「カエ、帰って!」


 再び炎重が叫ぶ。

 すると足に伸びていた継ぎ接ぎが……素早く地面へと戻ってしまった。

 これは月芽がやったのではなく、彼女の異術が勝手にそうしたのである。


「月芽ちゃん、どうしたの?」

「わ、私の継ぎ接ぎが剥がされました……。間違いなく拘束したのに……!」

「……炎に重力、それに継ぎ接ぎに耐性……? いや、違うわね……」


 雪野は炎重の異術を考えてみる。

 元の姿が炎の塊というだけあって、彼の素の異術は炎に関するものだという事は分かった。

 その火力も大概おかしいが、こちらはまだわかりやすいので対処のしようがある。


 しかし案山子夜にかけられた重力。

 そして今見た月芽の異術への耐性。

 異術発動のタイミングは……炎重が言葉を発した後だった。


「……もしかして。……あの子の異術って……」


 いや、そんな異術……あるはずがない。

 と思ったがあり得ないことができるのが異術である。

 あり得ないかもしれないが、一応月芽に伝えてみることにした。


「……我儘?」

「え? わが……え?」

「さっき案山子夜さんに重力の異術が乗った時……。術を描けるなら『重くなれ!』とかいうのが普通じゃない? でも『速いの嫌だ』だったよね?」

「……確かに」

「我儘を無理やり通す異術……とか?」


 雪野の言葉に月芽は難しい顔をする。

 もしそれが本当であれば、一瞬で三人を倒すほどの力を有しているという事になるのだ。

 何処まで無理を通せるかにもよるが、重力で我儘を通した先ほどの力からするに、大抵のことは出来てしまうかもしれない。


 照の異術に似ている。

 歌を現実にする異術と炎重の異術は非常によく似ているが、照の場合は結界で何とでもなった。

 しかし炎重の場合……結界は通用しないのでは、と雪野は感づいていた。


「試してみるわ」


 キンッと一瞬で炎重は結界に閉じ込められた。

 魔生良が死んで結界を自在に操れるようになったので、完全に力は戻ったようだ。

 金巫女の結界術。

 異形の姿だった炎重は結界から出られなかったが、異術が発現した今の炎重はというと……。


「ヤダ!! 出して!!」


 バリリャアアンッ!!!!

 予想通りの結果であった。


 精神年齢が幼いという事だけが唯一の救いだ。

 単純な我儘しか口にしないので、こちらに直接ダメージが入るような異術は発動しなかった。


 だがそれも状況によるだろう。

 数で押し寄せれば『邪魔!』と言って吹き飛ばしてくるかもしれないし、数名で掛かれば『一人ずつ!』などと言って強制的に一対一に持ち込まれる可能性もあった。

 最悪攻撃パターンも指定される可能性がある。


 炎重都の戦いは、如何に“我儘を口にさせない”かが鍵になるようだ。


「めんっどくさいですなぁ……」

「長期戦になるほど不利です。拘束もできませんし、倒すしかないかと……」

「雪野様。もし炎重が『死にたくない』と口にしたらどうなるのでしょうか」

「……考えたくないわね」

「……です、ね……」


 倒せない相手になりうる可能性があることに、三名は流石に苦い顔をした。

 だが気を取り直し、やるしかないのだと己の胸に言い聞かせる。


「参りますぞ」

「何とかしましょう。要は口を封じればいい訳です」

「なるほどね。あと、炎重は一つしか我儘を言えない。つまり二種類の攻撃を当てられれば……」

「わての攻撃に、月芽の異術。もしくは雪野殿の結界術、ですかな」

「ええ、そうなります。案山子夜さん、前を頼みますね」

「任されましたぞ。月芽、援護を」

「はいっ!」


 三名は再び構えを取る。

 その敵意に反応した炎重だったが、雪野に異術を封じられているので自動で燃やす事は出来なかった。

 これに再び地団太を踏み、歯を食いしばって怒りを露わにする。


「ぅぅうううううううーーーー!!!!」

「その首、貰いますぞ」


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