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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第十八章 蘇りの乱
306/331

18.18.残り八、急に一


 魔生良と視線が合った雪野は咄嗟に結界を作り出す。

 その瞬間、結界に魔生良が激突してぶっ倒れた。


『痛った!!!!』

「!? 月芽! 何故異術を解いたのですかな!?」

「解けたのです! 私の異術が……弾かれます!」

「なんと!?」


 月芽の報告に全員が視線を向ける。

 ここで巫女を失うわけにはいかない、と一気に立ち上がって戦闘に参加した。

 だが少し距離がある。

 案山子夜は急いで急行して魔生良を攻撃したが、何か違和感があった。


 確実に攻撃は当たったはずだったが、魔生良は躱すことも、受けることもしなかったのだ。

 そのまま思い切り切り伏せてみたが、どうしたことか……“斬れない”。

 目を見張って驚きながらも、次の一手、二手を繰り出しても微動だにしなかった。


「貴様……耐性を……!?」

『んあ? お前聡いな。大当たりだ!!』


 ほぼ一瞬で繰り出された攻撃を、案山子夜は紙一重で躱しきる。

 引き切りで攻撃してみても結果は同じ。

 案山子夜の攻撃が、魔生良に一切通用しなくなっている。

 月芽の異術、案山子夜の攻撃が通じなくなっているという事は……つまり……。


「厄介な……! こやつ、死因に耐性を持ちますぞ!! 今、月芽とわての攻撃は通りませんぞ!!」

「なに!?」


 死因……というよりも、攻撃した人間からの永久耐性を得る、といったようなものだ。

 少なくともあと八回……。

 新しい人物が魔生良を殺さなければ、彼は完全に死ぬことはない。


 結界が消えた。

 やはり魔生良に結界術を封じられているため、持続時間が短すぎる。

 障害物がなくなった瞬間、魔生良は今一度雪野を攻撃しにかかった。

 月芽がもう一度異術が通用しないか試してみるが、やはり無駄だ。

 どうしても継ぎ接ぎが魔生良の足に上ってくれない。


「異術」


 雪野と月芽の隣からその言葉は聞こえた。

 声の主は魔蛇のものであり、己の鱗を一枚無理やり剝ぐ。

 彼女は印を結んで狙いを定め、異術を発動させた。


「異術凍結」


 キンッ。

 子気味よい音が周囲に響く。

 その瞬間、魔生良の表情が一気に曇る。


『き、貴様……何故……!?』

「異術とは、如何に見せぬようにすべきか思案するもの。異術の勝負は、異術の出し合いできまるからの」

『おぎゅ……ぐぉあああああ!?』


 魔生良の体に異変が生じた。

 曲がりくねっていた角が次第に真っすぐとなり、筋骨隆々だった肉体も少しずつ萎んでいく。


 魔生良の体は何十回、何百回と鬼人の体を乗り移ってその力を蓄えてきた。

 それこそが異術であり、武術、怪力など全ての力がこの異術によって保存されていたのである。

 しかし魔蛇の異術凍結は、文字通り異術を使えなくさせる異術。


 異術が使用不能になれば、魔生良の保存していた鬼人のデータは全て放出されてしまう。

 彼の異術は“記録”ではなく“保存”。

 何冊ものノートに書き記してデータを保管しているのではなく、パソコンの中に一括で保管しているのだ。

 今の魔生良は、その保存媒体が破壊されて中のデータがすべて失われた、といった状態である。


 その急激な肉体の弱体化に、体は激痛を伴う。

 魔生良が最も恐れていた異術であり、過去に何度か同じ異術を喰らってデータをリセットされたこともあった。

 あの時は金巫女が居なかったし、仲間もいたので何とでもなったが今回は違う。

 金巫女、術返し持ちが同じ場所に居り、尚且つ術返し持ちが異術凍結を使った。


 これがおかしいのだ。

 異術凍結を有する異形は術返しを使えない。

 その逆もまた然りであり、魔生良は魔蛇が異術凍結を使えないと高を括っていた。

 いや、考える事すらしていなかったかもしれない。


『ぐぉあああああ! 何故、なぜ貴様はああああ!! 異術凍結を使えるのだああああ!!!?』

「鍛え方ですな」

『ぐぼえぇええ……! 許さねえ……! 許さねえぞぉ……!』


 弱体化した魔生良の姿は、やせ細った鬼人だった。

 酷く弱弱しいが、それでも鬼人としての力は残っているようだ。

 だが……先ほどよりは弱い。


 ズザザザザザザザッ!!

 鋭くとがった水の棘が地面から急に出現した。

 それはすぐさま人の形を取って攻撃を続行するも、魔生良に辛うじて躱され、防がれてしまう。

 落水の攻撃に案山子夜も攻撃に混ざり、魔生良を吹き飛ばした。


「それが貴様の素の力か!」

『わりぃかクソぼけえ……!』

「押し切りますぞ!」


 二名が一気に押し込み、魔生良は防戦一方となった。

 これに古緑も参戦し、遅れて孫六も助太刀へ入る。

 四対一となって不利となった魔生良は距離を取ることで何とか維持していたが、それも限界が近いだろう。

 更に旅籠や平将門がようやく近づいてきたことによって、魔生良の戦況はどんどん悪くなる。


 遠目で見ていた旅籠と平将門も、今の状況に笑みを浮かべた。


『はっ! 力抜かれて弱くなっておる! 魔蛇だな?』

「マジ!? じゃあなんとかなるかあれ!」

『俺が助太刀するまでもなかろう』

「では、そちらは任せてもよろしいですか? 結界の維持を任せた二名が心配なので」

「うん! ありがとう御代さん! 助かった!」

「……では」


 御代が居なければ天千との戦いは苦戦していただろう。

 というかあの異術は卑怯というほかない。

 この状況は御代と平将門、そして月芽が居て作り出せた状況だ。

 彼女には感謝しかない。


 案山子夜の攻撃が見事魔生良を捉えた。

 腹部を深く切り裂き、大きな隙を生じさせる。

 これを見逃さなかった落水はすぐさま肉薄して喉仏を貫いた。

 その場に縫い付けられたかのようにして硬直した魔生良を、萩間親子が更に両腕を切り飛ばす。


 勝負あった。

 魔生良は異形鬼であるため、異形の様に復活することはない。

 魂の残機も、四度の攻撃によって消えてしまったらしい。

 元より愛想を尽かされていたのか、致命傷以外の攻撃でも魂は抜けたようだ。


『ボゴ……グゾガ……』

「終いだ」

「それは私が頂く!!!!」

「あ? ハッ! 生きてたか!」

「当たり前!!」


 バッと飛び出してきたのは、ようやく肉体を治癒しきった赤雪だった。

 彼女もまた異形鬼なのだ。

 復活することができた赤雪は、渾身の恨みを込めて一撃を繰り出す。


 ズバンッ!!

 赤雪は容赦なく首を斬る。

 ゴドッと地面に落ちる鈍い音が、ようやく戦いの終結を知らせてくれた。


 と、思っていた。


「ヴォヴェアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」

「んっぐ!?」

「うるっ……!!」


 轟くような甲高い声が戦場一帯に響き渡った。

 結界越しでのこの音量。

 炎重は体の炎を更に燃え上がらせており、周囲にいた二人の巫女を声だけで怯ませた。

 これにはもしもの事があった時のために待機していた山本も目を見開く。


「なん……だ……?」

「ヴェヴェヴァアアアアアアア!!!!」


 こんな炎重を見たのは初めてだ。

 彼もこの長い間、なにかしら研鑽していたのだろうかと思考を巡らせた。

 が、炎重の精神年齢は低く、己から修行に取り組むような奴ではない。

 だがこの反応は……ひどく嫌な予感を湧きあがらせた。


 結界の中が太陽の様に真っ赤に染まっている。

 結界を維持している二人が怯んだことで、罅が入りはじめたらしい。

 中でドゴドゴと暴れている音がする度に揺れは大きくなり、入った罅も大きくなる。


「いかん」

「ヴァヴィヴァアアアアア!!!!」


 真っ赤に燃えている結界の中から、一本の大刀が突き出してきた。


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