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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第十八章 蘇りの乱
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18.16.鏡の異術


 まずは天千を仕留めなければならない。

 理由は彼女が魔蛇を術返しで抑え込んでいるからだ。

 今は実力が拮抗して押し合っているようだが、魔蛇が負ければ術返しを使う事が出来ず、魔生良の憑依を剥がすことができない。


 魔生良を倒すには金巫女の守の御力で異術を封じ、術返しで憑依を剥がし、物理攻撃を与えなくてはならないのだ。

 その憑依を剥がす役割を担う魔蛇が封じられては元も子もない。

 押し切られる前になんとか天千を仕留める必要があった。


 それゆえの、この布陣。

 ブンブンと両刀斬天槍を回しながら走って行く案山子夜は、羽織を靡かせながら遠心力を十分に乗せた一撃を天千へと放った。

 しかし、彼女の近くに落ちている鏡が一斉に立ち上がり、案山子夜目掛けて飛んでくる。

 光の反射で小さな攻撃の塊が飛んできたことを察知した彼はすぐさま防御し、全ての鏡の破片と叩き落とした。


 人間の姿となった案山子夜の動きは異形の時よりも卓越していた。

 目に見えないほどの速さで両刀斬天秤槍を振り回し、こちらに飛んでくるはずだった攻撃も防いだのだ。

 これには天千もギョッとしているようで、体を構築している鏡の破片がパキリと大きく割れた。


「厄介ですな……?」

「今のを、よく……」

「結界」


 地面に波紋が出たかのように、小さな結界の集合体が走って行く。

 御代は先ほどと同様、地面に落ちている天千の一部を無力化しにかかったのだ。

 炎重は封じ込められており、再び己を攻撃させる事は出来ないだろう。


 すると、継ぎ接ぎの糸が地面から一斉に持ち上がった。

 細く黒い糸が鎌首をもたげたかのように出現し、天千を叩きつける。

 これに大した攻撃力はなく、彼女は微動だにしなかったが体にまとわりついた瞬間、この異術が継ぎ目移動のものであると直感した。


「これは……!」

「将門殿から聞きました。貴方は攻撃しなければよいらしいですね。ですがそれでは倒せない」


 天千の体に纏わりついた継ぎ接ぎが手首の方に伸びていく。

 三つの手で印を組んでいるそれを、月芽は一切ためらうことなくへし折った。


 バリャンッ。

 これによって術返しの効果が切れたらしく、魔蛇はようやく自由に動けるようになったらしい。

 一つ息を整えてから、魔生良へと視線を向けた。


「ああ、ようやっと折ってくださいましたか」

「……え?」

『……あん?』


 シャリ……シャリリ……。

 周囲から砕けた鏡が集まる音がする。

 それは次第に姿を成していき……平将門を作り上げた。


『なぬぅ!?』

「身を隠していたこの時間。鍛錬は、怠っておりませぬので」

「将門殿! あれは……!?」

『知らぬ知らぬ! そのような術、見たことすらないわ!』

「これは……厄介ですぞ」


 鏡の将門が日本刀を抜刀する。

 本人と同じ構えを取り……鏡の集合体ではあるが紫の火の玉も再現していた。

 それを見ていた旅籠がすぐさま反応する。


「ッ!!? おい皆! あいつに攻撃させるな!!」

『あん!?』

「なんですと……?」


 旅籠の言葉は確かに聞こえたが、理解が追い付かない。

 なぜ攻撃させてはならないのか。

 だがそれは……身をもって知ることとなった。


 鏡の集合体が地面に叩きつけられる。

 流石に平将門と同じ能力を有してはいなかったらしいが、問題は壊れた鏡の破片にあった。

 あれは元々何だったのか。

 そもそも鏡の将門はどこから出現したのか。

 これをなぞって考えていけば……旅籠がどうして攻撃させてはならないと叫んだのかがすぐさま分かるだろう。


 あの鏡の将門は……天千の体からできている。

 繋がりを切ったはずの鏡の破片が動いていることに、御代はもっと早く気付くべきだった。

 御代は目を見張って巨大な結界を一瞬で作り出す。

 間一髪といったところだろうか。

 結界が完成した瞬間、鏡の将門が割った鏡の集合体が結界に突き刺さる。


「わあっ!!?」

「なんと!?」

『分身も同じ異術を……!』

「攻撃は重くない……でも速い……!」


 鏡の破片は結界から勝手に離れ、ふよふよと浮かんで次の攻撃に備えている。

 あの分身は自らを削って攻撃手段を作っていた。

 天千はその真逆なのでよかったが、彼女は今大量の武器を自在に操ることができる。


 だがやることは同じだ。

 御代は攻撃を防いだあと、直ぐ様分身と本体の繋がりを断ち切るため、分身を結界で閉じ込めた。

 ついでに天千も閉じ込めて繋がりを絶つ。


 だが分身は消えない。

 更に分身が出した鏡の破片も未だに自由に動いていた。


 ギラッと破片がこちらを向き、一斉に攻撃してくる。

 案山子夜の的確な攻撃と御代の結界でこれらもすべて防いだが、脅威は未だに残っていた。

 しかし……これ以上戦う必要はない。


「月芽! 飛ばせ!」

「はいっ!」

「……飛ば……? ……あっ!?」


 地面に継ぎ接ぎが伸び、天千の足元がぐばりと開く。

 彼女の異術を知った旅籠は、仕留めることをやめて前線から遠ざけることにしたのだ。

 自力では絶対に帰ってこないだろうし、浮遊できる異術があるわけでもない。


 なんなら魔蛇に向けられていた地元返しが解除されただけで目的は達していたのだ。

 勝てない相手の対処は今でなくていい。


「もう一体!!」


 月芽に指示を出すと、今度は鏡の分身をこの場から遠ざけようと継ぎ接ぎを伸ばす。

 本体が近くにいなくても行動できる事は分かっているのだが、どうやら自分の意思で動くことができるようだ。

 本体である天千が継ぎ接ぎに落とされたことを知っている分身は、伸びてきた継ぎ接ぎから大きく距離を取った。


「将門殿! 足止めをお願いします! 案山子夜も!」

『いいだろう!』

「攻撃させてはなりませぬぞ!」

『厄介だな……』


 これが分身体の厄介な特徴だ。

 平将門を模しているようだが、紫の火の玉の分身は新たに作り出せないらしい。

 だが己を破壊して攻撃手段を増やす事は出来る。


 分身が刀を大きく振り上げた。

 誰かに向けるわけでもなく振り上げられたそれは、地面へと向けられているようだ。


『二文字・斬』


 平将門の武器ごと切り裂く二文字・斬。

 それは分身に向けられたのではなく、彼が今まさに攻撃しようとした地面へと向けられて放たれた。

 地面が大きく抉れたと同時に、分身も太ももを両断されて体勢を崩す。

 この攻撃は飛ぶ斬撃なので、距離があっても問題はない。


 これによって分身の攻撃は空振りに終わった。

 足を両断されてしまった分身だったが、本体と同じような身を削った攻撃はできないらしく、鏡の破片は地面へと散らばるだけに留まる。

 だが分身もこれだけでは終わらない。

 倒れながら己の腕を地面へと叩きつけようとする。


「稲嵯虚心流・芯・上!」


 倒れそうになった分身の鳩尾を両刀斬天秤槍で突き刺し、起き上がらせる。

 そのまま一気に力を込めて胸部から顎目掛けて一気に切り上げた。


「──!?」

「月芽! 今ですぞ!」


 案山子夜がそう叫んだ瞬間には既に継ぎ接ぎが伸びてきており、地面が大きく開いた。

 案山子夜の攻撃によって空中に浮遊していたがために動くことができず、分身はそのまま継ぎ接ぎの中へと落ちていく。

 ビッ……と閉じてしまった継ぎ接ぎを見たところで、対処に当たっていた二名は一つ息をついた。


 平将門は心底ほっとした様子だ。

 天千を前にしては、彼の妖術が無ければ本当に危なかった。


『二度と出て来るんじゃねえぞ……。お前だけで一城落とせる力があるんだからな……』

「それは誠ですかな?」

『あいつは鏡の異形。異術・御鏡大蛇は鏡の破片で蛇を作り出すだけだが、蛇の鏡に映った人間の部位を破壊すれば、人間も同じように砕ける』

「……誠ですかな……?」

『俺が居ない時に出会ったならばすぐさま逃げろ。わかったな旅籠』

「えぐぅー……」


 この戦い、相性が良かったと言わざるを得ないだろう。

 因みに天千は石積村へ飛ばしているらしい。

 あそこであればここに戻っても来られないだろうし、主魂たちが居る場所からも離れているので問題はないだろう。


 とりあえずこちらは片付いた。

 別の場所へ向かわなければならない。


「よし、魔生良仕留めに行くぞ!」


 ボォオオンッ!!!!

 旅籠がそう口にした途端、こちらにまで熱波が飛んでくるほどの大爆発が発生した。


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