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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第十八章 蘇りの乱
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18.14.鏡の異形


「新手かよ……」

「やることは変わらぬ。構えろ」


 渋い顔をする落水に対し、久原は素っ気なくそう言った。

 だが未知の異形を相手のするというのは危険すぎる。

 何より彼らは……生き残りなのだから。


 天千と呼ばれた異形が片手を上げる。

 ジャラジャラと音を立て、時折パリンッとガラスが割れる音が聞こえた。


「異術・御鏡大蛇」

『妖術・得手の押し付け』


 天千が何かしようとしたが、何も起きなかった。

 伸ばした腕をそのままに、手首だけ脱力して面倒くさそうにため息を吐く。

 シャリリと音を立てながら平将門を見やれば、してやったりといった表情をしていた。


『お前の異術は知ってるぞ』

「でしょうね。術を封じられたのは久方ぶりです。居たのですか……将門」

『俺の妖術は……天敵だったなあ〜?』


 くつくつと笑いながら平将門は巫女の前に立つ。

 久しぶりにこの力を使った気がする。


 得手の押しつけは魔生良に使っても意味がない。

 なんせ死なないのだから、わざわざ手の内を晒す必要もないのだ。

 しかし天千は別だ。

 彼女の力は……あまりにも面倒くさすぎる。


『しかし、天千と魔生良の組み合わせは面倒だな』

「な、何故ですか?」

『天千は結界術を苦手とする』

「結界で閉じ込めれば天千の力は抑えられるけど……魔生良が結界を食うから厄介ってことですね」

『流石銀巫女。話が早い』


 とどのつまりそういうことだ。

 天千の異術は結界の外に出せない。

 無力化できる術は確立しているのだが、今の状況では魔生良が邪魔をしている。

 今は平将門が得手の押し付けで異術を防ぐだけで精一杯だ。


 そして……天千は斬ってはならない。


『天千は斬るなよ、人間』

「斬るなだと? どういうことだ」

『奴は鏡の異形だ。鏡であれば、操れる。肉体から離れた一部も同義』

「……肉体から離れた破片が、凶器となるということか」


 道理で大した構えも取らず平然としているわけだ。

 攻撃を受けなければ攻撃手段がないのも天千の特徴らしい。

 だが……これは対策してある。


「魔生良」

『おうよ!』


 魔生良が踵を返し、天千に向かって突っ走る。

 平将門が妖術を発動したので炎が使えなくなっているが、これは大した問題ではない。

 反応が遅れた三名は急いで魔生良を止めに行く。

 平将門も何をしようとしているか察したらしく、紫の火の玉を作り出して狙いを定めた。


 しかし、どうにも間に合わない。

 魔生良が薙刀を大きく振りかぶると、全力で天千へと攻撃を繰り出した。


 バギャアアアアンッ!!

 ガラスが大量に砕け散り、肉体から多くのガラスの破片が飛び出した。

 これに魔生良はニッと笑う。

 ガラスの破片は地面に触れる瞬間、ピタリと止まってゆっくりと持ち上がる。


「身斬り鏡」

『伏せろ人間!!』


 言葉が届いた瞬間、孫六と久原はその場に伏せる。

 すると次の瞬間、大量のガラスが頭上スレスレを通って周囲の草木を切り裂いた。

 落水にこの攻撃は効かないようで、彼だけはその場で全ての攻撃を防いでいる。


 一方平将門も巫女を守るために紫の火の玉を破裂させ、ガラスの破片をすべて防いだらしい。

 何もしなければガラスが肉体を切り裂いていただろう。

 そしてこの技の一番嫌なところを、平将門は知っていた。


『一人、落水を結界で覆え』

「え? わ、分かりました!」


 菊音が反応し、落水を結界で閉じ込める。

 何事かと驚いていたようだったが、すぐにその理由が分かった。


 落水の足元に、ガラスの破片が落ちてきた。

 体内にガラスの破片が残っていたようで、結界術でそれを摘出したのだ。

 天千のガラスは本人と繋がりが切れるまで操れる。

 結界でその繋がりを切れば、こうして出てくるのだ。


 天千が好んで使った戦法だ。

 敵をガラスの破片で殺し、破片を体内に留めておく。

 そして次の敵が近づいてきた瞬間、それを使って再び敵を仕留める。


 説明を聞いた御代は目を細めて地面で光る鏡を凝視した。

 未だ本人との繋がりが切れていないものがあるはず。


「であれば……!」


 五指を曲げ、力を入れてから払うように振るう。

 すると彼女の足元から波紋が広がるかのように、小さな結界が出現しては消えていった。

 攻撃にも何もならない小さな結界。

 今のはなんだ、と誰もが思ったが、天千だけは違う反応をしていた。


「私の一部を……すべて消した……」


 魔生良によって分離した肉体……もとい鏡の一部が全て動かせなくなった。

 これは己との繋がりが消失したことを意味する。

 砕け散った鏡を全て、一度結界で囲ったのだ。


 あの小さな結界は魔生良も喰らう事が出来ないし、一瞬で消えてしまったので触ることすらできない。

 巨大な結界を作るよりも難しいはずだが、それによってこちらの技を完全に封じた。


「魔生良! 今一度私を斬れ!」

『はあ!? いや今さっきやっただろうが!』

「今一度と言っている!」

「「させぬぞ!」」


 二人が言い合っているところで、孫六と久原が魔生良を押さえる。

 一方落水は大量の水を使って天千を閉じ込めた。

 肉体が鏡なので呼吸などはしていないようで、水に閉じ込めても平気で動いている。


 案外……弱い。

 これなら周辺で戦っているヤガニ衆の方が強かった、と落水は思った。

 遠目でその光景を見ていた平将門も『こんなに弱かったか?』と首を傾げている。

 予想外の展開だが、こちらとしては都合がいい。

 どちらも今は殺せない相手ではあるが、旅籠たちが合流さえすれば……。

 合流、さえすえば……。


『……妙だ』

「なにがですか? 凄く順調だと思うんですけど?」

『常治が何の策もなしにあの二人を送ってくるはずがない。なんだ? 何が狙いだ……?』

「! 継ぎ接ぎの異術です! こちらに来ます!」


 これに気づいたのは御代だった。

 どうやら旅篭の部隊がこちらの現状を確認して向かって来たらしい。

 継ぎ接ぎはすぐさま御代たちが居る場所の足元まで伸び、地面がグバッと開いて異傀儡衆が飛び出してくる。

 防戦気味になっていた異傀儡衆だったが、旅籠本陣の率いる仲間たちが参戦したことにより一気に押し返した。


「待たせたな将門~!」


 指揮を飛ばしながら旅籠が叫ぶ。

 笑みを浮かべて登場した姿に若干安堵するが、彼の背後に合った物を見て驚愕した。


 結界に……炎の塊が入っている。

 それには巨大な日本刀が突き刺さっていた。

 平将門はその異形を知っている。

 目を見張り、なぜ相性の悪い天千をこちらに仕向けてきたのかここで理解した。


 常治は分かっていたのだ。

 炎重を封じた旅籠の部隊が、魔生良を倒すためにこちらへと向かってくるはずだ、と。


『旅籠ぉおおおお!!!! そいつを今すぐ殺せえええええ!!!!』

「え?」


 バリィイインッ!!

 旅籠が振り向いた瞬間、結界が大きな音を立てて破壊された。


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