18.12.炎刀
ヤガニ衆から距離を置きながら移動していた一行。
先の襲撃をなんとか切り抜け、少し移動した所で月芽に合図を送る。
すると急に浮遊感が襲ってきた。
足元に継ぎ接ぎが開き、その中へと全軍が落ちたのだ。
継ぎ目移動に慣れている異形たちは、綺麗に着地したが人間たちは少しタタラを踏んだらしい。
巫女は完全に転倒しているが、ワタマリがクッションになって大した怪我には至らなかった。
本当であれば継ぎ目移動をもう少し後で使いたかったが、敵に場所が捕捉されている以上、奇襲は刺さりにくいと思っていいだろう。
由海曰く、今もこちらに続々とヤガニ衆が迫ってきているらしい。
土丹たち土傀儡衆も警告を鳴らし続けている。
このまま団体で動き続けるのは良くない。
敵戦力を分散させるため、ここで軍を六つに分ける。
「月芽! ここで分散しよう!」
「承知しました!」
土傀儡が即座に連絡し、仲間を一気に移動させる。
部隊ごとに分かれたところで、一つずつ月芽が異術で移動させた。
相手はすでにこちらを把握している。
これはヤガニ衆の動きを聞いてわかることだ。
ただ問題は……。
「相手は乗ってきますかの?」
「そこなんだよね。でも大丈夫」
「ぺしょぺしょ」
側にいたワタマリが一生懸命舌を動かし続けている。
音と気配を喰らっているのだ。
これにより相手はこちらの気配を、姿を辿ることができない。
土丹によれば、明らかにヤガニ衆の動きが鈍ったとのこと。
つまり敵がこちらを見失ったということだ。
ワタマリが気配を食い始めたのが分散後。
相手はこちらが分散したことに気づいているはず。
いつ、どこから来るか分からない状況を与えた事により、そう簡単に主力を大きく動かすことはできないはずだ。
全六部隊の大展開。
相手がどう出るかは……土傀儡によって連絡が取れる由海と土丹にかかっていた。
「どうだ?」
「……相手にも動きがあったようです」
「てことは気配を辿ってるのは本陣の主力か。ヤガニ衆自体に索敵能力はないんだな。で、どう動いてる?」
「主力と思われる数体の異形ですが、こちらに一体向かっております。ほかの異形は四方へ散り、二体のみがその場に残っております」
「んじゃ、一体仕留めるぞ」
ヤガニ衆の増援はない。
一体だけであればなんとかなるだろう。
そんな思考が読み取れたのか、山本が待ったをかける。
「まて、妙だ」
「妙?」
「ああ。常治が一体だけ送り込んでくるはずもなし。一体……つまり」
「それだけで事足りる異形ってこと?」
山本はあいつか? と思考を巡らせていたが、如何せんはっきりしなかった。
姿を見るまでは分からないのだ。
とはいえ何が来ても倒すのみ。
こちらには戦力となる者たちが多くいる。
ヤガニ衆の介入がなければ集中砲火を見舞うことだってできるだろう。
「来ます!」
「え?」
はやくね?
すると遠くでぼんやりと揺らめく炎が見えた。
なんだあれは、と目を細める異傀儡衆。
じーっと見ていると、それはいつの間にか真横を通り過ぎていた。
ゴオオオオオッ!
それは旅籠率いる異形衆本陣を突っ切り、最後尾まで走り抜いた。
大きな日本刀の刃を地面に突き刺して急停止し、ボッボッと興奮気味に燃える炎が彼らの目の前に現れる。
「おいなんだ今の!?」
「炎重か!」
「誰それ!」
「奴と目を合わせるな! 陽炎の異術だ! 揺ら目を見れば死ぬるぞ!」
「揺ら目って何ぃ!?」
途端、再び私たちの陣を通り過ぎた。
これにより直線上にいた異傀儡が真っ二つに斬られる。
ご丁寧に火属性も付与されるようで、ゴウゴウと激しく燃えていた。
「雪野殿! 八重殿!」
「「はいっ!」」
古緑の叫び声にすぐさま反応した二人は守の御力を使用する。
巫女二人の合わせ技だ。
炎重もこれには違和感を感じたらしく、ガクッと姿勢を崩してしまう。
「ヴェヴァヴャヴェヴォ!?」
そこでようやく姿を見た。
本体らしき大きな炎の塊に、巨大な日本刀が刺さっている。
奇妙な姿だ。
日本刀が刺さっているということは、あれは気体ではないのだろうか。
ゾワッ……。
炎重の姿をみた直後、総毛立つ。
なんだこれは、と疑問符を浮かべたが、その答えは目の前にあった。
炎重が、唸っている。
喉の奥から絞り出すように、だが力強く発された声は誰もを不愉快にさせる嫌な音程だった。
力を封じられたことに怒っている。
憎悪すらも感じさせるその声を聞き、この場にいた全員が直感する。
──あれは殺してはいけない。人の姿にしてはならない異形だ。
「魔蛇さん! 術返し! 雪野と八重さんは結界!」
「「「はっ!」」」
魔蛇が素早く印を組み、術返しを相手に付与した。
その直後に三重の結界が炎重を覆う。
「ヴォヴェ!?」
結界に体当りして脱出しようとしていたが、どうにも全く刃が立たない。
これを見てほっと息をつく一同。
雪野が結界を浮遊させて持ち運びを可能にした。
「……ワタマリで見えてなかったはずだよな……?」
「炎重の異術は勝手に発動する。敵意に反応し、あの大刀で斬り伏せる」
「オート攻撃かよ……。てか、やっぱり出てきたな」
「ああ」
把握していない異形。
やはり時間経過で目を覚ます異形はいたのだ。
懸念していたことが現実になった。
「だから早く出陣したかったんだ」
「人間は異形のなんたるかを知らぬ。致し方ないこと」
「そりゃわかってるけどさ〜」
「旅籠さーん! これどうしたらいい!?」
「連れて行こう! 結界張りながら他のことできそう?」
「大丈夫。でも結界は使えない」
雪乃は今使っている結界を維持するために、他の結界は出せないようだ。
だが守の御力は使用できるらしい。
「護衛は私と山本殿に任せよ」
「じゃあ遠慮なく!」
古緑の言葉に山本も頷く。
あの二人が守ってくれるのであれば、こちらは戦闘に集中できるだろう。
とりあえず一体は仕留めた。
拘束できただけでも大儲けだ。
明らかのヤバ目の異形なので、仕留めることは考えず交渉材料にでも持ち込められれば御の字だ。
だが旅籠はふと思い出す。
「しまった!」
「え、どうされました!?」
「魔生良こっちきてねえ! 土丹! 魔生良を探せ! あいつはこの部隊じゃないと仕留められん!」
「承知しました! しばしお待ちを!」
相手が動く以上、誰が来るかは賭けであった。
あんな性格なので、魔生良は本陣から動こうとするだろう。
とにかくアレを仕留められるのは巫女と魔蛇がいるこの部隊だけ。
一人を探すとなると時間がかかると思ったが、由海と土丹の連携は見事なもので、すぐさま見つかった。
「丁度報せが入りました! 銀巫女部隊と接敵! 交戦中です!」
「兄様のところです!」
「戦況は!」
「……芳しく、ないようです」
それもそうか、と思い舌を打つ。
魔生良は死なないのだ。
そんなやつが対峙するとなれば、劣勢になるのは必然。
「増援に向かう! まずは赤雪を取り返すぞ!」
『『『ロウッ!!』』』
「月芽!」
「はいっ!」
地面を強く踏み、継ぎ接ぎを伸ばして開く。
金巫女部隊が継ぎ接ぎの中へと落ちて消えた。
ジーーーーっと音を立てて閉じた地面。
全員が移動したあと、その地面がグバッと抉れた。
クレーターとなった大地の中央に、ポロリと何かが転がった。
それはふらふらと動いていたがようやく止まる。
ビー玉のよう小さいガラスの球体。
ゴリリゴリリという咀嚼音が聞こえていたが、土の味しかしないことに気づいてペッ吐き出す。
「キュララ」
朝ごはん……逃した……。
ビー玉にそんな文字が浮かび上がったところで、その異形はコロロロと移動したのだった。




