18.8.部隊編成
鬼との勝負に勝ち、恐らく和平が約束されたであろう時から一時間後。
私は真剣に部隊編成を構築していた。
一応和平のために奔走していたつもりだったが、見る目線が違えばただ鬼と遊んでいただけなのでちゃんと仕事をしている様を見せておきたい。
サボってないですよ。
部隊編成もそうだが、今の妖怪たちはどうなっているのだろうか。
形龍という異形が妖怪を食い散らかしている、と芦山から聞いたきり音沙汰がない。
一応私たち異形はもちろん、人間や鬼とも敵対関係なので困ることはないのだが……。
味方になってくれるのであれば相当心強いんだよなあ。
まぁ無理か。
「さて……と。一応こんな感じでどうだろうか」
「拝見させていただきますね!」
「私にも見せて」
一緒に部隊編成を考えていた月芽と雪野に編成を書き記した紙を見せる。
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金巫女部隊。役割:敵最高主力の殲滅・指揮伝達。
雪野、山本、萩間古緑。
旅籠、月芽、魔蛇、案山子夜、主魂、土丹。
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銀巫女部隊。役割:敵主力の殲滅。
御代、萩間孫六、八角、秋の風。
無形、木夢、平将門。
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銅巫女部隊。役割:敵主力の殲滅。
津辻原、早瀬、鍵城、春の風。
布伝、由海、空蜘蛛兄弟。
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第一巫女部隊。役割:敵主力の殲滅・機動部隊。
八重、葉桐、葉桐家臣団。
壱成、氷進、雪道十八人衆。
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第二巫女部隊。役割:敵ヤガニ衆殲滅。
菊音、津留、夏の風。
落水、陰影、タマエキ。
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第三巫女部隊。役割:耐久・殿。
鈴、鍔雉、冬の風。
持壁、遠石、ニバニバ、国岩、不動衆。
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これを見た二人は、やはり金巫女部隊の戦力が過剰であることに気づく。
だがその理由もすぐに看破した。
「……旅籠様。継矢海里守常治と交えるおつもりですね?」
「うん。まぁ、状況によっては増援とか飛ばすから、この部隊編成も崩れるだろうけどね」
「だからこその土丹」
「ねえ、鈴ちゃんの部隊だけど……。役割が耐久ってどういう事?」
「絶対に潰れない部隊。怪我人とかを集められる場所が欲しいんだ。多分ヤガニ衆だけを相手にするなら絶対持ちこたえる」
「……てなると」
「そう。主力と戦う部隊は、敵主力と何戦もすることになる」
無論、複数戦も予想されるだろう。
そして未だに目覚めていない異形たちもいるかもしれない。
初見の相手が出てくる可能性も十分に考慮し、作戦を構築していく必要がある。
部隊と役割は大方決まった。
あとはこれを葉桐に見せて了承を得るだけだが、これであればいいだろう。
というかこれで推し進める。絶対に。
「あとは主魂と山本からの情報共有待ちか」
「あの二人に何を任せてるの?」
「異形の情報を思い出してもらってる。特徴は教えてもらったから、今は戦い方とかかな。……そうだ、月芽」
「はい」
「今の不落城の状況を教えてくれ」
「承知しました」
それから月芽は現在の状況について教えてくれた。
不安だった食料は少しずつではあるが改善してきており、民にも職などが割り当てられているようだ。
これほどにまで早く整い始めたのは、やはり葉桐の活躍があってこそだろう。
その家臣団も優秀で、方々を走り回って地盤を固めているらしい。
風たちは食料の調達をメインに活動しているらしい。
鬼の里へ出向いたり、不落城が過去に行っていた産業など跡地を見ては修繕したりと忙しくしている。
異形たちは相変わらず不落城守護をしているが、人間たちと喧嘩になったり、問題などは生じていないようだ。
それが聞けて一安心である。
そして私たちが鬼との勝負で持ってきた大量の米俵。
全て兵糧として使いたかったのだが、葉桐に話を通すと『戦に出払えば風共も居なくなる。故に半分は残すべきだ』と言われてしまった。
くそう……。だがこれは致し方ないので諦めて半分を不落城へ献上した次第である。
くそう。
だが移動には月芽の異術を使うのだ。
半分もあれば数週間は持つだろう。
「……行けそうだな?」
「はい! 私もそう思います!」
「雪野はどう思う?」
「この状況ならいいと思う。不落城に私たちがいなくても旅籠さんが持ってきてくれた兵糧でしばらくは何とかなる。その兵糧だけを頼りにすることもないだろし、鬼の里も協力的になった。うん、大丈夫だと思うわ」
「よっしゃ!」
二人からは良しを貰った。
まだ抜かりはあるかもしれないが、不落城のこの状況であれば葉桐も頷くだろう!
私は立ち上がり、早速完成した部隊編成を見せるために葉桐を探した。
暫く探したところで家臣の久原を発見する。
話を通して葉桐がいる場所へと向かい、手に持っていた紙を見せながら不落城の現状と、兵士が暫くいなくてもここは大丈夫であるという旨を伝え、出兵を促した。
「……ふむ。よく考えた」
「粗いかもだけどね。だけど準備は整えた。もういけるだろう? 武器も異形たちが保管していたやつを持ってきた。兵糧のあるし馬車もある。準備しようぜ!」
「ならぬ」
「……ええ……?」
……マジ?
「……理由を聞いても?」
「民の身を守る兵が居なくなることは避けたい。妖の脅威は未だ健在。それを無視する訳には……」
「次から次へと……!」
私が腕に力を込めると、案内をしてくれた久原が目を見張った。
白い煙が拳から上がっていたからだ。
「旅籠殿!」
「もういいわ! これ以上待ってられるか!」
スパンッ!! と力強く襖を閉めると、それは鴨居と敷居から外れて吹き飛んでいった。
思わず身を引いた久原は旅籠と葉桐を交互に見ている。
だがそのうち、大きなため息を吐いた。
葉桐は……保守的な人間だ。
放置していれば戦力を増やす敵の異形。
すぐにでも叩かなければならない、と焦る旅籠と、守りに重きを置く葉桐では相性が悪かったのだ。
だが今回……悪いのは葉桐だといえよう。
旅籠は何度も改善策を講じて提出してきたが、葉桐は何かしら理由をつけて首を横に振っていたのだから。
懸命に編成を考え、鬼を取り込み、短い期間で兵糧すらかき集めた。
その行動力は人間たちには真似できないものだ。
「殿……」
「……ならぬ」
「はぁ……。この戦を何と心得ますか」
葉桐は答えず、静かに久原に視線を向けた。
答える気がないことを悟った彼は小さく首を横に振る。
「民を守るための戦ですよ。……旅籠殿! お待ちを!」
腰に携えている日本刀を押さえながら、旅籠の後を追いかける。
一人残された葉桐は吹き飛ばされた襖を横目で見たのだった。




