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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第十七章 禁術・御霊降ろし
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17.12.海の死兵


 ギザギザの槍がこちら目掛けて飛んでくる。

 ヤガニ衆は体が大きくなったことで移動速度も素早くなり、瞬く間に間合いを詰めた。

 落水がこれを正確に弾くが、刃を交えたところで目を見張る。


「っ!? こやつら……!」


 弾き、切り返して二度目の攻撃を再びいなしたところで切り伏せる。

 声も発することなくその場にガシャと倒れたヤガニ衆だったが、目玉がグルンッと回って立ち上がった。


「死んでいる!」

『ああん!?』


 質量を無視した肉体の変化。

 これに小さなヤガニ衆が耐えられるはずもなく、彼らは既に事切れていたのだ。

 当然と言えば当然だし、先ほどから声も発さないので違和感はあった。

 だが、まさか本当に死んでいるとは。


 ガシャ、と体を揺らしたヤガニ衆。

 手に持っている槍を握りなおした途端、数百匹が五名に襲い掛かった。

 その物量に目を見張ったが、この程度のことでくたばる彼らではない。


「紡ぎ流異術」

『一文字』


 互いに脇構えから日本刀を斬り上げる。

 シンッ……と小さな落ちが鳴ったと同時に、目の前に迫っていたヤガニ衆がぴたりと止まった。


「逆波(さかなみ)」

『弧(こ)』


 地面から水の刃が連続して発生し、ヤガニ衆を細切れにしていく。

 それとは別に小さな斬撃の集合体がヤガニ衆にぶつかり、小さくなった肉体がさらに小さくなった。


「ガコロロ!」

「ギチチ……」

「……」


 木夢はその素早さを活かし、布伝は馬力で敵を吹き飛ばしていく。

 無形は多くの武器を出現させて手数で相手をしているようだ。


 各々が飛び掛かってくるヤガニ衆を何度も何度も仕留めていたが、どうにもキリがない。

 体力の限界はまだまだ遠いとはいえ、これでは本体に刃が届かないのだ。

 なんせヤガニ衆が強い。

 死んでいるはずなのにどうやって動いているのだ、と叫びたくなるが愚痴を零したとしてもこの状況が解決するわけではなかった。


「どうする将門!」


 四体の一斉攻撃を回避して懐に潜り込んだ落水が二体の胴体を両断する。

 すぐさま振り返って攻撃してきた槍を弾き、肘を打ち込んでから再び振り返って一匹の頭をかち割った。


『どうもならぬぞ! されど止めねばなるまい!!』


 紫の火の玉を作り出しながら、一振りで三体を切り伏せる。

 だが死なないことは分かっている。

 であれば体をバラバラにすればよいので、火の玉を握って拳をぶつけた。


 ッカアアアアアアアアアアンッ!!!!

 高威力の衝撃波がヤガニ衆を遥か彼方まで吹き飛ばした。

 流石に脚の甲殻が破壊されれば立つことはできないようだ。


 ピキ、パキキ。

 落水が半身を両断したヤガニ衆の体が、再生していた。

 上半身からは下半身が、下半身からは上半身が再生され始めており、暫くすると二体の目玉がグルンッと回って立ち上がる。

 細切れにしたヤガニ衆は更に時間をかけて再生していた。

 一体から二十、三十に増えたことに気づいた二人は、思わず舌を打つ。


「布伝! 無形! こいつらを両断するな! 増えるぞ!」

「「!?」」

「ああ~? おお、気づいたか。見つからんよーにしょーたんだけどなあ。んま、いいか」


 ガガニが笑いながらおどける。

 海水に浸ってガッサガサの髪の毛を掻きむしったあと、不敵な笑みを浮かべて舌を出した。


「異術・海異の打ち上げ」


 襲い掛かっていたヤガニ衆の動きが止まる。

 なんだ、と思った瞬間……頭部のある貝殻についている眼球が高速でぐるぐると回転し始めた。

 頭部や揺れ動き、ヤガニ衆はひどく痙攣している。

 何が起こるのかと警戒していると、眼球だけが破裂して周囲に飛び散った。

 ドタドタと倒れていくヤガニ衆の異様な光景に目を丸くしていると、落水と平将門はその真意を理解する。


「……まさか……」

『あやつ……! 仲間を、なんだと……!』


 倒れていたヤガニ衆はすぐに眼球を再生して立ち上がる。

 ここまでは簡単に予想できた。

 だが、ガガニがやったのは……再生能力のあるヤガニをわざと殺し、眼球という肉片を飛び散らせた事。

 それもご丁寧なことに、すり潰したかのような姿に。


 地面で小さな肉片が肥大化していく。

 死んでいるはずなのに、まだ姿を形どってすらいないのに、最初に再生した眼球だけがこちらをしっかりと向いていた。


 妖怪である平将門ですら、この光景を悍ましく感じた。

 斬っても死なず、体を両断すれば二体に増えるし、動けなくさせれば勝手に再生し、何もせずとも量産される。

 この敵は……“数を減らすことができない”。


「『撤退だ』」


 これには他三名も頷いた。

 木夢が変形して胴体を長くし、落水と平将門、布伝を回収する。

 無形だけは靄の中に沈み込んで隠れて移動するらしい。


 ヤガニ衆は木夢の速度には追い付けないらしく、あっという間に逃がしてしまう。

 ガガニと磯丸は機動力に長けておらず、彼らを追いかけるのは不可能だった。


 逃げられたというのに二名は慌てる様子を見せない。

 常に落ち着き払っており、彼らの背中を見送った。


「磯丸はどうすっだあ」

「……」


 ゴゴ、と岩礁が蠢く。

 岩から体が浮き出し、岩礁で作った人間の彫刻が浮き彫りになった。

 それはゆーっくりをガガニの方へと顔を向ける。


「……」

「あっそ。んだらば、いっぺん帰ろか! シシ、主様に久しくお会いすっけなあ!」

「シシ」


 ダン、とガガニが地面を踏みしめる。

 すると足元の地面がグバッと開き、その中へ二体は落下していく。

 ヤガニ衆はそのまま待機するらしい。

 死んだまま突っ立っている彼らは、次の敵が来るまでここで見張りを続けるのだった。



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