17.10.敵だった味方
「代果城って……富の裏神社がある所だろ? そこが消えただって……?」
「じ、神社らしき場所は残っております……。が……それ以外は、何も……」
「どうなってんだ……! 黒霊城は!?」
「そ、そこは、多くの人間が……急に、増えました……」
「増えたあ!?」
話を聞いてもさっぱり意味が分からん!
代果城が消えて、黒霊城に人間が増えたってどういうことなのよ!
てか天狗が吹き飛ばされてきたのはなんで!?
急に分からんことが一気に増えて混乱してきたぞおい!
「とりあえずぅ……! 月芽! 天狗の容体はどうだ!」
「死んではいません!」
「話せそうか!?」
「それは無理です!」
「だったらこっちから出向くしかないな!」
パンッと手を打って異形たちに意識を向けさせる。
「壱成! 持てるだけの武具全部持ってこい! でも生産は継続!」
「承知!」
「由海はずっと座ってんじゃねえ! 立てい! こっからは情報戦だ! その要のお前が動けなきゃいる意味ねえぞ!」
「っ!? は、はいっ!」
大声を向けられて背筋を伸ばす。
すぐさま手を打ち鳴らした由海は周囲の探索を開始した。
「魔蛇さんと月芽は天狗の治療! 是が非でも生かして話を聞きだせ!」
「「はっ!」」
「由海! 何か分かったか!」
「……天狗が飛んできた方角。そちらに異形がいるようです……!」
「よし、布伝、無形、木夢! 落水さんと将門と一緒に調査を頼む!」
『……? ……俺!?』
「さっさと行くぞ」
背中を落水に叩かれた途端、木夢が鼻先で平将門を持ち上げて背中に乗せた。
布伝と無形はそのまま走り、木夢は落水が背中に乗ったところで走り出す。
あの五人に任せておけば天狗が吹き飛んできた原因はすぐに分かるだろう。
「空蜘蛛兄弟! タマエキと一緒に毒煙玉の制作を頼む! いつ必要になるか分からん!」
「「合点!」」
「土丹は土傀儡に広範囲を警戒させろ!」
「御意!」
「国岩! 不動衆の仕事だ! 月芽と蛇髪、天狗を守れ!」
「……! 承知……!」
「異傀儡衆! 気ぃ抜くなよ!」
旅籠の指示で全員がテキパキと動き、すぐさま防衛態勢を整えていく。
役割が決まった彼らの動きはやはり早い。
良い動きだ、と主魂すらも感嘆するほどだった。
「アハ」
途端、奇妙な声が聞こえた。
地獄の底から這い出してきたような、高いがどす黒い色彩を持つ声色。
その声を聴いた全員がぞわりと背筋を凍らせる。
反射的に攻撃を繰り出してしまう異傀儡がいるほどの凶悪さだったが、その攻撃は簡単に防がれた。
カンッ! ……シュボッ。
槍の柄で攻撃を防いだ刹那、火花が飛び散って攻撃をした草傀儡が一瞬で火達磨になる。
その火力は凄まじく、声も発せないほどの速度で燃やし尽くしてしまった。
地面は黒く焦げ、塵すらも宙を舞うことはない。
「……嘘だろ?」
薙刀が地面に振り下ろされる。
少し地面を切って埋まる程度の力加減だったが、そこから一気に炎が吹きあがった。
地面が解けて真っ赤に染まり、ぐつぐつと煮だっている。
周囲が赤色に染まっているその真ん中に、額に付けていた額当てがカランと落ちた。
切断された二本の角が見えたが、そこから新たな角が生えて完全に治癒される。
赤と青が混じったような不気味な配色。
絵具を指でなぞったような柄となっており、それは瞳にも反映されていた。
『ナハハハハハハハハ!! 起きたアァアアアア! 起きたぜエエエエ! ンナハハハハハハ!!!!』
「せ、赤雪……!?」
『貴様!!』
体を仰け反らせて高らかに笑ったのは、赤雪だった。
今までひっそりと話を聞いていたはずの彼女が、急に我を忘れたかのように笑い始めたのだ。
そして、声色が完全に変わった。
あれは……女の声ではない。
『魔生良!!』
『お~うおうおう! 久しぶりだな主魂よお~! ヒャハハハハ!』
『異術・時魂!』
『おおっと!』
主魂が放った青い弾は、魔生良に簡単に回避される。
しかし着弾した場所は近かったため、更なる追撃をかけた。
地面に着弾した攻撃は水飛沫のように跳ね、再び魔生良へと向かう。
それに気づいた彼は持っていな薙刀を大きく振るった。
『鬼術・地火飛沫』
カッ!!!!
ッボオオオンッ!!!!
周囲が見えなくなるほどのまばゆい光の直後、地面が大爆発を起こした。
その凄まじい破壊力で異傀儡衆が幾らか吹き飛ぶ。
こちらにも余波が飛んできたが、魔蛇が結界を張って防いでくれた。
「~っぺえ! おい主魂! なんだあいつ! 赤雪はどうなった!?」
『……魔生良……! 鬼人に憑りつく異形鬼なり……! 実体は霊体!』
「えっ幽霊なのお!?」
そんなのどうやって相手にすればいいんだ!?
てか外から来るもんだと思ってたけど……まさか内側から敵が出てくるとか思わんて!
魔生良は爆発の勢いに乗ってその場を離れ、薙刀を振り回しながら着地する。
不気味な笑みで余裕の表情を浮かべていたが、途端に表情を引き締めた。
首がゆっくりと傾いていく。
何かに耐えるように腕で首を戻そうとしており、力が拮抗したところで停止した。
すると、赤雪の片目の色が元に戻る。
「出……て……け、こらあ!!」
『はっ! 嫌なこった! お前鬼人の槍術修めてんだろ! 使いやすくて仕方ねえ!』
「絶対追い出してぶち殺す!!」
『やってみろ~! そいっ!』
指で頭を弾くと目の色が汚い色に切り替わった。
体の主導権を取り戻したらしく、パキパキと音を立てながら首を回す。
いつ、どうやって憑りついたのかさっぱりわからないが……。
赤雪はまだ生きている。
彼女の体を傷つける事は出来なかった。
「主魂! どうしたらいい!?」
『魔生良の異術は肉体の奪取……。得た肉体の知恵は己の糧となる。仕留めるには……金巫女の力と術返しが必須なり……』
「そうか! 異術自体が乗っ取りってことは、異術を無力化すればいいってことか!」
『金巫女の守の御力で剥がし、異形の術返しで実体を出し、刃で斬ればよい』
「……ちょい待ち。乗っ取った体の知恵が糧になるってのは……いままでのか?」
『今までだ』
……マズくね?
そう思った時には、魔生良は既に攻撃の構えを取っていた。
『鬼術』
「月芽ええええ!!!!」
「はいっ!! 異術!!」
タンッと手で地面を叩き、継ぎ接ぎを魔生良へと伸ばす。
薙刀で地面を叩こうとした瞬間、継ぎ接ぎがちょうどよく伸びて開き、その中に魔生良が落ちていく。
『んのおおおおおおぉぉぉぉぉ……──』
バチンッ!
開いた継ぎ接ぎを素早く閉じた。
月芽は魔生良をはるか遠くへと移動させたらしい。
名前を叫んだだけでやってほしいことを一瞬で理解してくれたことに感謝しつつ、私は大きなため息を吐いた。
さっきの一撃、地面を殴られていればヤバかった。
魔生良が今まで何人の鬼人の体を乗っ取ってきたのかは分からないが、知らなくてもヤバい存在であることは誰もが理解したらしい。
異傀儡の中には腰を抜かしている者すらいる。
いや、あれだけの殺気と圧倒的な実力差。
そうなってしまうのも無理はないだろう。
なんにせよ……今の魔生良は倒せないということが分かった。
金巫女の守の御力と異形の術返し、そして魔生良を仕留めるだけの実力を持った攻撃役が必要なのだ。
倒し方が分かったとしても、どうしたって今の段階では倒せない。
「……人の力が必要だ」
「旅籠様! 先ほど駆けた五名、戦闘中です!」
周囲の索敵を行っていた由海が声を張る。
天狗を倒したと思われる存在を発見した養田。
「敵は何か分かるか!」
「……おそらく……ですが……」
歯切れが悪い。
由海は小さく舌を打って、眉を顰めた。
「……ヤガニ衆……!」
「は?」




