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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第十七章 禁術・御霊降ろし
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17.4.昔話


『当時……我は数多の渡り者より異神の話を聞き、この世が悪事に使われようとしておると見抜いた』


 幾度も降りてくる渡り者。

 初めの頃は帰す方法が解らず難儀していたのだが、ふと寄った神社で転機が訪れる。

 それこそが富表神社。

 鳥居を潜った途端、渡り者の姿が突然薄れて消えてしまったのだ。

 最初こそ驚いたが、神主曰くもとの循環に帰ったと教えてくれた。


 これを切っ掛けとし、渡り者を帰す方法を確立したのだ。

 この場所こそが代果城であり、神社を守り渡り者を帰すべく都市の発展に尽力した場所でもある。


 これを担ったのが葉桐家だ。

 現在に至るまで代果城の城主を勤めている一族で、恐らく最も長く続いている名字だろう。

 彼ら一族の尽力もあり、渡り者を帰す基盤は簡単に整った。

 人の上に立つという苦労もあっただろうが、それは他の種族が手伝い、長い平和を築いたのだ。


『葉桐隻宗。人間の上に立った男。そして鬼のガンラン。最初の異形、我。最強の妖怪、山本五郎左衛門。最後に……異形人、継矢海里守常治』

「その五人が時代を作ったんだな」

『最も良い時だった』


 異神の思惑を知り、地に立つ誰もがそれを阻止せんと尽力した。

 戦もなく、種族間の嫌悪もなかった時代だ。

 だが……思った以上に終わりは早かった。


 異神の思惑も阻止できたと一息ついたところだっただろうか。

 この頃から一部の人間が主魂に近づこうとしていた。


『人間は……やはり欲深い。上に立つ者が現れると、その権力を欲す者は少なくなかった』


 主魂の力は時を操る。

 これがどれだけ強力なのかは誰もが理解しており、畏れを抱くものも多かった。

 それと同時に他の者を出し抜こうとした者も多かったのだ。


 話していれば大体わかる。

 これは力を欲している人間だと。


『将門にはその面で助けられた』

「そうなん?」

『当時、俺は生きていた人間だったからな。怪しい連中は主魂に伝えていた』

「……将門が怨霊になった理由って?」

『主魂が……人間に奪われ、俺が殺されたからよ』


 主魂に目をやると、彼は小さく頷いた。

 怪しい人物には注意を払っており、気を付けていたつもりだったが、彼らは巫女を使ってきたのだ。

 当時の巫女は今よりも力が強く、多くのことを実現できた。


 ……主魂を魂蟲に変えることも、手順はあれど難しくはなかったのだ。


『我は、謀られた。人の中でも長い付き合いだった男に、宴会をと誘われたのだ。まさかあの者にまで魔の手が伸びておるとはおもわなんだ。部屋に入り、蝋燭が消えたと同時……我は縛られた』

「その男は」

『諏笠辰信(すがさたつのぶ)』


 諏笠は巫女を使い、主魂を縛って魂蟲にした。

 それを喰らうことにより、主魂の強大な力を得たのである。


『止めに入った将門は、そこで死んだ』

「まじ?」

『怨霊として再び目覚めたがな』

『フンッ』


 とはいえ、それでも諏笠を止めることはできなかった。

 この日から諏笠は己が力を見せつけるべく、見境なしに命を葬った。

 主魂は力を奪われたまま眠りにつき、それからのことはよく覚えていない。

 主魂が話せるのはここまでだ。

 それに気づいた将門が次の語り手となる。


『敵は多かった。元より主魂の強大な力を欲する者は多く、その庇護下に入ろうと人間の多くは敵に回った。あの時は人も強く、妖怪や異形を相手にしても対等にやりあえる奴らがいたものだ』


 強敵同士の戦いは本当に長く続いた。

 時折敵方へと流れる者もいたが、主魂の奪った男を止めるために鬼や妖怪、人や異形がこぞって戦い続けた。

 世代を越えるほどの戦いだ。

 妖怪や異形たちからすればあまり関係はないが、人は次第に戦う理由が薄れていったように思う。


 長く続いた諏笠辰信(すがさたつのぶ)との戦いに決着が着いた時。

 その場に立っていたのは将門と継矢海里守常治のみだった。


『……それから、どうなった』

『主魂の力を得た人間は四世代に渡って俺たちと戦った。主犯、諏笠辰信(すがさたつのぶ)は主魂の力を上手く使えてはおらんかった。そも武人ではなかった故な。しかし唯野開丹(ただのかいたん)は別格だ。知略を得手とし武芸にも秀でる。木っ端妖怪どもは尽く滅ぼされた。だが、団三郎が仕留めたか。……唯野開丹(ただのかいたん)が死んだ後は、大静巴(おおしずともえ)という女に力が渡った。武人ではなかったが、最も主魂の力を上手く使ったな。これは鬼共が長き時をかけて仕留めた。最後の継承者は角鎌天兼(かどがまてんけん)』


 ここまで語ったあと、平将門は息をつく。

 眉をきつく寄せて若干苛立たし気に腕を組んだ。


『……まっこと不服だが、最も強かった。前者三名に挑み続けた継矢海里守常治ですらそう口にした』


 角鎌天兼(かどがまてんけん)。

 多くの猛者が束になっても首を取れなかった男だ。

 倒すのに最も時間をかけた相手だったと同時に、これが主魂の力を有す最後の人間となった。


 そもそもこの時代、異形人は普通に認められており、敵にも多くの異形人がいた。

 しかし異形は味方に付けていなかったのが特徴だ。

 ただ長生きするためだけに魂蟲を喰らい、主魂の力を持つ者の配下に付き続けていた。


『まぁ、常治が相討ちという形で幕は閉じた。……同じ怨霊だった二人も死んだ。人間共が神社に奉ったりしてたがな』

「そうなんだ」

『俺のはねえらしい。ま、あの二人は人間によくつるんでたからな』


 懐かしそうにそう語る。

 怨霊だった二人が死んでたからあの時……狸が雷の技を使っていたことに怒ったんだ。

 仲間の、戦友の技を真似するなって。

 やっぱ将門っていいやつなんだな。

 改めて実感したよ。


 ……幾千幾万の犠牲を出しながら、彼らは主魂を救うことができた。

 敵方の異形人や人間は最後まで戦うことはせず、巻かれるものがなくなったことで大人しく降伏したらしい。

 無論忠誠心を最後まで貫いて戦い続けた者もいたが、そういう奴らは全員この世を去った。

 常治を失った異形たちが、最後まで戦いに付き合ったのだ。


『戦はここで終わった。されど、再び悪を出してはならぬ、と皆で決めごとをしたのだ』

「その内容は?」

『妖は人間の見張り。再び異形人が現れぬよう、その見張りを担った。異形は人の地を去り、どこぞへ隠れた。元より異形の魂が起こした一件。人の地より異形を遠ざける事で再来を防いだ。されど、いつしか変わった。……主魂』


 平将門が視線を向ける。

 黙って話を聞いていた主魂はまっすぐ彼を見た。


『これが、貴様が眠った後のすべてだ。人と妖が争うようになったが、喰らうという形で阻止はしていた。魂蟲となり得る故、意味はなかったかもしれぬがな』

『そうか』

『旅籠。これを聞いてどうする』


 平将門はこちらに視線を向けないまま聞いて来た。

 ……二人の話を聞いて、過去から現在に至るまでの概要はおおよそ把握できたと思う。


 全種族が力を合わせ、異神の思惑を阻止し続けた平和な時代。

 主魂の力が奪われたことにより戦争が起きた八百年。

 戦争が終わり、渡り者による科学の発展を阻止して文明の発展を押さえ続けた二千二百年。

 その中で妖怪は渡り者を喰らうようになり、人とは敵対してしまった。


 最も良い時代から、明らかに遠ざかっている。

 私の一番の目的は元の世界に帰ることだが、その中には異神への嫌がらせをしてやろうという魂胆が未だに燃えていた。

 これが異神の思惑を阻止するどころか、元の世界の安全にも繋がるのだ。


「……主魂。一つ聞きたい。異神、あのナテガが私の元居た世界に手を出すとどうなる」

『我が聞き及んだ話にはなるが、別世の富ノ裏神社より、魔の手が伸びる』

「つまり裏世界の扉か」


 この世界にいる住民が、向こうの世界に渡れるようになるってことだ。

 渡るのが人間であればいいだろうが……妖怪や鬼、ましてや異形などになると話は変わるだろう。

 元居た世界の人間が異形たちを見て正気を保っていられるはずがない。

 すぐさま自衛隊やら何やらが出てきて即刻戦争に発展する。


 重火器と異能……。

 これがどう転ぶかはわからないが、戦車も吹き飛ばせるほどの異能が異形たちにはある。

 もし本気でぶつかり合ったら……世界が終わる。


「……和平か……」

「旅籠様……?」


 ナテガに力を渡さないために必要なことは、渡り者を現世に返し続けること。

 これを実現させるためには……過去と同じ状況を作らなければならない。

 できなければ、私が帰ったとしてもいつの日かナテガは向こうの世界に魔の手を伸ばす事だろう。


 だが……異形たちは背中を押してくれるだろうか。

 和平に積極的な者もいることは承知している。

 とはいえ先ほど大切な仲間を失ったところであり、今和平を推し進めるとなれば負けを認めるようなことになりかねない。

 正直自分もまだ黒細の死から立ち直ったわけではないのだ。

 あいつを殺した相手を見た時、どうなるか想像はできない。


 それでも、もう仲間を失いたくはない。

 このまま戦い続ければ、双方癒えぬ傷となる。

 なにより……この戦い自体が私を元の世界に帰ることを遠ざけているような気もした。


「……皆。聞いてくれ」


 私の言葉を土傀儡が伝達し、全員に伝え行く。

 少し失望させてしまうかもしれないけど、あのナテガの思惑だけは全部阻止してやりたい。

 いや、阻止しなければならない。

 この世界も、元いた世界も大切な場所だし、大切な人がいる場所なのだ。


 小さく俯き、目を閉じる。

 重鎮たちも次の言葉を今か今かと待つように、背を伸ばして待っていた。

 一つ大きく深呼吸をして、決めたことを口にする。


「和平だ」

「旅籠様……!」

『……フン』

「旅籠、その意味わかっているな」


 ここで食らいついたのはやはり落水だ。

 異形たちは今回の戦いで敗北を期した。

 そんな時にこちらから和平を持ちかけるということは、敗北を認める事となる。


 今、私は皆の顔を見ることができなかった。

 どんな顔をしているか不安で仕方がなかったのだ。

 落水の言いたいことはもちろん理解しているし、これが敗北を認めるような行為だとも重々承知している。

 大切な仲間たち……黒細、曲音、異端村からずっと付き添ってくれていた異形衆。

 彼らの弔い合戦をしたいと思う者もいるかもしれない。


 ……わかってる。

 分かってはいるんだ、人間は許せないって。

 妖怪だって長い間異形たちを追いやっていたし、実際に何度も戦って多くの仲間が死んだ。

 だが、それでも、私は……。


「……私は、皆が死んだとき……。笑顔で別れを告げたくはない。ここまでよく生きたって称える異形たちの死別のやり方は美しい。でも、私は……二度とお前らを失いたくはない!」


 覚悟がなかった。

 戦うと決めた瞬間、多くの死が待っているということは理解していたはずなのに。

 実際に直面してみるとそれが如何に覚悟の必要なものだったことか理解した。


 主としては失格だろう。

 覚悟がないのに皆に任せ、このような結末に辿り着いてしまったのだから。

 私一人の意見に振り回される身にもなってみろってんだ。

 でも、もう……あんな思いはしたくない。


「旅籠様。顔をお上げください」


 その声は、土丹のものだった。

 不思議な安堵感があったことに違和感を覚えつつ、ゆっくりと顔を上げる。

 若干涙でくすんだ瞳を拭い、クリアになった視界で皆の顔を見た。


 全員が笑っている。

 表情が分からない者は動きで機嫌をよくしている様を現していた。

 思っていたのと違う様子に、私は目をぱちくりして驚いた。

 落水ですら笑みを零しているのだから、これが現実なのか疑いを持ちたくなるほどだ。


「え、いい……いいのか……?」

「私と由海はもちろん! 私は、旅籠様が修羅の道から外れたことに喜んでおります……!」


 月芽と由海は手を合わせてこの結果に喜んでいた。

 魔蛇を見てみれば目を閉じながら笑みを零しており、同様にこの結果に満足している。

 他の異形たちも、私の決定に喜んでいるようだ。


「な、なんでえ……?」

「もちろん黒細や曲音の死は悲しいです。今まで僕たちをいたぶり続けてきた妖怪や、旅籠様に酷いことをした人間には許せない部分もあります」

「でも、正直に言うと僕たち異形は、死別に慣れてしまっているんです。悲しい気持ちがないわけではありませんが……」

「旅籠様が苦しむ姿の方が、私共からすれば何よりの苦痛なのでございまする」


 空蜘蛛兄弟の言葉に、壱成が続いた。

 長年死が真隣にあった異形たちは、そういう面では諦めている部分もあった。

 生き続けるため、泣いてなどいられなかった時間があまりにも長かったのだ。


 だが、そんな自分たちを旅籠は心配をしてくれた。

 怒られたときもあった。

 優しい彼が自分たちのせいで苦しい思いをするのは許せなかったのだ。


 黒細が死んだとき、旅籠はひどく苦しんでいた。

 これがどれだけ胸が張り裂けるほどの想いだったことか。

 そんな旅籠が自らの意思で仲間が死ぬ可能性が最も低い道を選んだのだ。

 これを喜ばずにはいられない。


 異形たちにとって旅籠は大の大恩人。

 彼の言葉であれば何があっても遂行しようとするし、守ろうとする。

 旅籠の意思を尊重するし、その目標に最も近いことを遂行し続けるのだ。


「旅籠」

「……落水さんはなんで?」

「俺にとってもお前は恩人だ。もう今更、復讐なぞ考えてなどおらん。そも、もう居らぬだろうしな。それに……お前の決定は、間違ったことがない」


 落水は謎に自信の満ちた様子でそう言い切った。

 そうだっただろうか?

 私としては……いろいろ間違えていた気もするが……。

 まぁ褒められているんだから素直に受け取っておくか。


 なんだか拍子抜けだ。

 結局私が決めたことを、彼らは全員が肯定してくれる。

 私の方が皆を信じ切れていなかったのかもしれないな。

 ともなれば、やることは決まった!


「よし……! 月芽、案山子夜がいないってことは向こうで何かしてるんだよね?」

「はい! これは由海から聞いた方がいいかもしれません」

「そうね。どうも案山子夜は自ら人質となったようです。案山子夜の力は人間もよく知るところ。恐らく、和平交渉へと持ち込む腹積もりかと」

「ちょっと不安だな……大丈夫?」

「案山子夜であれば問題ないでしょう。自ら人質にならなければ、一体で城を落とすほどの力がありますから」

「人間もそう簡単には手出しできないか」


 案山子夜が和平に向けて推し進めてくれるのであれば、こちらとしてもやりやすい。

 あとはその場を設けることか。

 こっちで決定したとしても、向こうとも協力していかなければ意味がないのだ。


 ここら辺のことについて煮詰めよう。

 そう提案しようとした瞬間、魂の一体が代表して声を上げた。


『伏せろ!!』

「!? 全員伏せろ!!!!」


 魂の声を復唱し、全員に危険性を伝える。

 瞬時に身をかがめた次の瞬間、私たちが集まっていた部屋の天井に何かが着弾した。

 竿縁天井をバリバリと破りながら隣の部屋まで飛んでいき、襖や欄間、鴨居などを思い切り破壊してようやく止まったらしい。


「なっ!? なな、なんだ!?」

「由海!」

「分かってるわ!」

「無形と空蜘蛛は確認を!」

「「合点!」」


 由海が強く手を打ち鳴らし、無形と空蜘蛛兄弟がすぐさま飛んできた物を確認する。

 全員がすぐさま戦闘体勢に入り、外で待機していた異形たちも集合して警戒し始めた。


 私を守るために結界を張った魔蛇は、目を凝らして遠くを見やっている。

 平将門と主魂も同様に戦闘態勢を整え、同じように遠くを見ていた。


「何が飛んできた!?」


 私が空蜘蛛に問うと、二体は声を揃えて答える。


「「妖怪です!!」」

「妖怪ぃ!?」

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