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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第十六章 不落城夏の陣
272/334

16.22.捕虜


「いぃいっでえええ……!」

「あったりまえだろこの馬鹿師匠!」

「んだと馬鹿弟子!」

「菊音ちゃん! ちょっと手伝って!」

「無理に決まってるでしょうが! 状況見て判断しろや!」


 早瀬と鍵城は八角に手当てをしており、菊音は更に重傷の捌菅を手当てしていた。

 医術の心得は昔からあったようで、なんの迷いもなく自らの服を短刀で切り取ってから傷口に結びつける。


 しかし捌菅の腕の傷はそう簡単に塞がらない。

 力一杯縛ってみたが、無茶をしたせいで骨がめちゃくちゃになっていた。

 未だにボダボダと血は流れており、菊音の技量だけでは止血ができない。

 切り落とした方がいいくらいだ。


「いや無理! 鍵城さん! 捌菅様の腕を切り落として!」

「ふぁ!? んなことできるかあ!」

「じゃないと止血できないの! 早あああく!」

「ヒェ……女怖いよぉ……。ええい、ちゃんと説明してくれよ!」


 菊音が支えた腕を、肘で切り落とす。

 未だに冴え渡っている鍵城の一撃は、腕が切られたことに気づけなかったのか少しの間血が流れてこなかった。

 この間に菊音が素早く腕を縛る。

 血を流しすぎているので少し不安だったが、とりあえず手当ては完了した。

 あとは捌菅の気力次第である。


 一応確認してみるが、呼吸は浅いものの生きていた。

 これに安堵した菊音はようやく八角に向き直る。


「元気そうじゃないですか?」

「いや頼むて……!」

「とりあえず刀抜きますよ。早瀬さん、刀抜いたらこれを傷口に押し込んでください」

「よし」

「ちょっとま──」


 合図などない。

 すぐに刀を引き抜いた早瀬は、すぐさま傷口に布切れを押し込む。

 貫通していくので反対側にいた菊音も同じ様に傷口へと布を押し込んだ。


「いいいいいっっでえええええええ!」

「我慢してください!」

「一回死んだほうがましなんだが!!」

「死ねないでしょ! ハイ二本目!」

「うっそだろお──ギャアアアアアアアアアアアアアア!!」


 再び前後から布を傷口へと押し込み、ようやく止血の手当ては終わった。

 次は治療ができる場所でなければ処置ができないので、このままでいてもらう。


 完全に抵抗する気力が失せた八角は、その場に倒れた。

 時折ピクピクと動いているので、死んではいないだろう。


 とりあえず一段落だ。

 気を抜いた瞬間、早瀬も倒れてしまう。


「ええっ!? ちょ、早瀬さん!」

「どうした早瀬!」

「あー思考体術の後遺症でーす。体バッキバキ」

「んだよ……心配させやがって……」

「わりぃ……。こんなに長く戦ったの初めてだったからさ……」

「まぁいいさ。あーー疲れた!」

「私も……」


 菊音と鍵城も、その場に座って体を休める。

 もうこれ以上は戦えなさそうだ。


 遠くから歓声が聞こえている。

 どうやら鍵城たちが対応していた場所も一段落ついたようだ。

 鬼たちの大きな声がよく響く。


「……勝ったな」

「……勝ったけど……。ううん……」

「友の友を……とか考えてるか?」

「一番の懸念点だった。でも、飛田さんがね。旅籠を修羅に落とさせないためには、ここで勝つしかないって言ってくれて」

「へえ。やっぱり夏の風は熱いねえ」


 テンッ。

 二人の会話を聞いていた菊音が、笑顔を一瞬で消して驚愕の色に染まった。

 背後から凄まじい気配。

 なんだ……と思ってゆっくりと振り向いてみれば……。


「ご友人」

「……かっ……かか、しや……!」

「うそだろ……?」

 

 わさ、と藁の髪の毛を大きく揺らした案山子夜が、彼らの背後に出現した。

 以前は持っていなかった新しい武器を手にしており、手持ち無沙汰の手でクルリと回す。


 その場にいた全員は凍りつく。

 戦った経験がある早瀬はもちろん、気配だけで今まで戦った異形とは一線を画す存在だと直感した。

 菊音がすぐさま守の御力を発動させるが、バチンと弾かれる。


「ええっ!?」

「ど、どうした!」

「守の御力が……効かない!」

「なん……!」


 それはそうだ、と早瀬は胸の内で呟く。

 金巫女の力を持ってしても全ての力を削ぐことはできなかったのだ。

 しかし、なぜ案山子夜がここに。

 継ぎ接ぎの異術が伸びてきていないのであれば、案山子夜の到着だって遅れるはず。

 いや、現に遅れたが……なぜ今日中にここへ来ることができたのか。


 いや、考えても仕方ない。

 この状況は非常にまずいが、未だに身体が言うことを聞かなかった。

 唯一動ける鍵城が前に出ると、案山子夜は武器を地面に突き刺す。


「……拘束せよ」

「……は?」

「聞こえませんでしたかな? 拘束せよ」

「なんで!?」


 案山子夜の言葉に鍵城が驚く。

 これは他の者たちも同じだった。


「ど、どういうつもりだ……案山子夜……!」

「……わてらは、負けたのですぞ」


 彼はゆっくりと黒細の亡骸を目にする。

 人の姿となっているが、すぐにわかった。

 あと少しでも早く到着していたなら共に戦っていたが……その必要はなくなった。

 これ以上……犠牲者を生み出すわけにはいかない。


 だが鍵城たちは意図を読み取れなかった。

 八角ですら案山子夜の発言に驚愕しているのだ。

 一つため息をつき、地面に座る。


「人間は鈍いですな。あまりわての口から言いたくはないのですがな……」

「はっきりしやがれ!」

「……人間は、和平を結ぶつもりはありますかな?」


 至極真剣な言葉。

 唯一刃を向けている鍵城にそう問うてみれば、眉を潜めて柄を強く握る。

 菊音は驚き、飛田も同様に目を見張っていた。

 八角は一瞬驚いたものの、すぐに目を細める。

 早瀬の反応も似たようなものだった。


「三名は、気があるのですな」

「……戦いがないことに越した事はない。だが、それがお前の口から出るとはな……」

「わてらとて死にたくはありませんぞ。ただ命を張るに値する主がおるだけですな」

「それで、なぜお前を拘束する必要がある」

「まだわからんのですかな……?」

「いや、分かった」


 傷を押さえている八角が口を挟む。


「異形最強はお前だろう。お前を捕らえればこちらにはそれだけの力があると思わせられる。これを手札に……和平を切り出す」

「んな簡単にいくかよ!」

「異形にも、和平を望む者が二名居りますぞ。その二名であれば、わてが捕らわれた意図を読み取るでしょうな」


 和平を求める者がいて、その受け取り手がいるならば……実現は可能だ。

 此度の戦いでは互いに損耗しあった。

 これ以上の犠牲は望まないし、出してはならないと案山子夜は本気で思っている。


「これ以上……旅籠様が傷つくは御免被る」


 覚悟の籠った言葉に、全員が口をつぐんだ。

 その強さも然ることながら、彼の意思も鋼のように強靭だった。

 揺らぐことのない一つ目の眼球が、鋭くこちらを睨んで訴えかける。


「……! 人間。しばし動いても良いですかな?」

「何をするつもりだ!」

「鍵城落ち着け……!」

「人間は傷つけませんぞ。少し、厄介なのが……」


 案山子夜が空を見る。

 その視線の先を追えば、小さな点がこちらに近づいていた。


「ッ! 矢だ!」

「結界はない……入ってくるぞ!」

「では、しばし動きますぞ」

「あっ待てこら!」


 武器を地面から引き抜いた案山子夜は、すぐさまその場から跳躍した。

 異術・年功を使って力を蓄え、由海が放ったと思われる矢に狙いを定めた。


「稲嵯虚心流」


 ヴォンッと音を立てて回転させ、狙いを定める。

 泳ぐ矢はこちらの存在に気づいたようで、案山子夜を迂回しようと起動を変えた。


「稲撫の風」


 シンッと美しく優しい音を鳴らした瞬間、由海の矢が木っ端微塵となって空中分解する。

 これで人間も守ったし、由海も気づくだろう。


「由海。任せましたぞ」



 ◆



 指を鳴らして放った矢の結末を見届けていた由海が目を見開く。

 だが彼女は案山子夜の行動の意図をすぐさま理解し、弓を下げた。

 これは……月芽に伝えなければ。


「ドウダッタ?」

「……負けね」

「……ソウカ……。デワドウスル」

「一度旅籠様に確認するわ」


 すぐさま文を書き、矢文を飛ばす。

 向こう側も大変だったようだが、死者はいない。

 ようやく全員が起きたようだし、これはすぐ届くだろう。


(……ここから忙しいわよ。月芽。案山子夜)


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