16.19.不落城夏の陣⑲
三名が同時に走り出した。
早瀬と八角は同じ流派を同時に使う。
「「強土流剣術・上弦の型! 剛破!」」
「赤笠流・流血天昇ッ!」
バヂギギャアアンッ!!
けたたましく鳴り響く金属音。
叩きつけと切り上げは完全に相殺され、一歩下がって次の攻撃に切り替える。
「逆手下段!」
「刃返し!」
「連点血振るい!」
互いに技を出しあい、連続した音が響き渡った。
どちらもが一歩も譲らず、黒細が二刀流で攻撃を繰り出し続ける中、早瀬と八角はこれを弾きつつ見事な連携で攻撃まで繰り出している。
だがどれも届かない。
二人相手でも全く動じない黒細の剣術はやはり卓越していた。
ギンギンッ!!
黒細が二人を思い切り斬り、吹き飛ばす。
これを防いだ二人だったがあまりの威力に体勢を崩してしまった。
だが追撃は来なかったので、一度下がって構え直した。
それと同時に鍵城が隣へと来た。
どうやら黒霊衆を全て片付けたらしい。
「えっ速っ!?」
「なんか調子がいいんだよな……」
「おい鍵城。向こうは良いのか?」
「ああ、問題ない! ようやく鬼共がやって来やがってな! 冬の風若衆だけがこっちに来た!」
「助かる……!」
異端村異形衆は鬼と春の風、そして冬の風たちと戦っているらしい。
増援が来たことで余裕が生まれたようだ。
これでもうしばらくは持ちこたえられる。
しかし状況は芳しくない。
黒霊衆はどうせ湧いてくるだろうし、三人でも黒細を止められるか不安だった。
話しているところで、黒細が走ってきた。
直ぐ様戦闘態勢を整えて散開する。
真正面に陣取って戦うのは八角で、初っ端から猛攻を防ぐ。
左右に展開した早瀬と鍵城はすぐに攻撃へと転じたが、完全に見きられており素早い速度の黒細に弾き返される。
「くっ……!」
「強いな!」
だが……確かに防いだ。
早瀬の刀は黒細の硬度を貫いたが、他二人はそうであると限らない。
今のだって鍵城の攻撃を無視してごり押しできたはずだ。
それができなかったということは、やはり硬くはない。
つまり、攻撃は間違いなく通るということ。
しかしそこまでが遠すぎる!
二刀流の黒細の剣術は威力がある荒い剣戟だが、牙で噛みつかんばかりの迫力があった。
「氷牢轟! 氷獄門!」
「赤笠流……熱血」
凄まじく鋭い一撃を鍵城が繰り出した。
空気を甲高く斬るほどの鋭さで振るったが、熱気を発しながら大振りした黒細に攻撃を止められる。
しかし、鍵城は鋭すぎる一撃で黒細の衣服を斬った。
その衣服には、少量だったが血が付着している。
「なんでさ……?」
「なんっでか知らねえがあ……! 今の俺は冬と同等の力が出てんなぁ……!」
「わかりやした」
その途端、鍵城が顔を曇らせる。
すぐさま離れようとしたが黒細がこれを許さない。
肉薄して掬い上げるように刀を振るったのだが、それは全く届いていなかった。
狙いは鍵城ではない。
背後に迫っている早瀬に向けて、腕を回して斬りつけたのだ。
「おおっ!?」
「ちぇ」
「こいつの目玉後ろにもついてんのか!?」
「知らねえ!」
続いて八角が迫る。
手の中で刀をクルリと回し、多連撃を打ち込んだ。
器用な刀捌きだったが黒細には通用せず、その一切を防がれる。
同時に早瀬と鍵城も攻撃しようとするが、大きく回転して二振りの日本刀を振るわれると、その威力に圧されて脚を止めてしまう。
あの攻撃は食らってはならない。
「赤笠流……血喰らい」
刀を上段と中段に構えた。
ヘラクレスのような構えを取った瞬間、一気に距離を詰めて八角に攻撃する。
「「速っ!?」」
「はあっ!」
「ぜぇえい!」
今の一撃……二人は捉えることができなかった。
唯一反応できたのは八角だけで、二刀を見事に弾いて連撃へと持ち込んだ。
火花が出るほどの激しい打ち合い。
黒細の熱血と血喰らいが常に発動し、体の体温を上げて火力と速度を両立させていた。
血喰らいで傷がつけば、更に調子づく。
それらを全て弾いた八角は、隙を見て渾身の蹴りを繰り出す。
爪先を鳩尾に突き刺すような突き蹴りで、黒細を後退させた。
「ぜええー……! ぜぇえー!」
「っすーーーー……」
黒細が肩で息をしていた。
今の連撃と攻撃は堪えたようで、額から汗を流している。
しかし……八角の手は小刻みに震えていた。
全ての攻撃が致命傷になり得る黒細の技を全て受け止めているのだ。
むしろよく最後まで持ってくれた。
すぐさま二人が前に出る。
これを八角が止めた。
「待て……」
「っとととと……なんだ!」
「策がある……。多分、この三人では無理だ」
「じゃあその策ってのは!?」
「認識の外……。これをやる」
「「はい……?」」
何を言っているのかと思ったが……とりあえず話を聞いてみる。
三名がなにやら話し合いをしているところを、黒細は黙って見ていた。
黒霊衆からの連絡が入る。
曲音討ち死にに加え、鬼の参戦によって異端村異形衆第二陣は壊滅。
そちらは残党狩りが始められている。
しかし、こちらは未だ優勢。
黒細が倒れない限り、勝利は間違いないとのことだった。
「分かったでさ。こっちももう終わりやす」
戦って分かった。
あの三人では束になっても自分には勝てない。
であればここで必ず仕留める。
次だ、次で最後だ。
そう確信し、静かに息を吐いて呼吸を整えた。
ぎゅりと日本刀を握り込み、腰を落として脚を踏み鳴らす。
これに反応した三人が、話し合いを終えてこちらを向いた。
「ゆくぞ」
ドンッと地面を蹴り飛ばし、三人が一直線に突っ走る。
気でも狂ったか、と二振りの日本刀を肩に担いだ。
「赤笠流……」
「強土流!」
「氷牢轟!」
間合いに入るまであと数秒というところで、三名が技を呼び起こす。
八角はそのまま直進し、霞の構えを取って狙いを定めた。
「血笠拭い!!」
「刃返し!!」
肩に担いだ日本刀をハの字に振り抜く。
たったそれだけの技だったが、それは恐ろしいほどの殺気と鋭利さを有していた。
早瀬はこれを真正面から受け止める。
その途端、刀身をねじって小さく弾き、ギャリギャリと音を立てながら相手の刃を返した。
手首と握力を緩めてこれに対処した黒細は、次に迫ってきた鍵城へと視線を向ける。
「氷獄の徒花!!」
脇構えから繰り出される水平斬り。
かつてないほどに鋭く研がれた一閃が空気を凍てつかせながら振り抜かれる。
早瀬の刃返しを対処したことで安全に防御を行えた。
ただその一撃は随分重そうだ、と思いながら黒細は刀を身に寄せる。
バギャキィンッ!!!!
案の定火力のある一撃だったが、防げないほどではない。
数歩下がって体勢を立て直せるだけの余裕があった。
「歯ぁ食いしばれええええ!!」
「は!?」
顔を上げた瞬間眼前に飛び込んできたのは、握り拳を固めて殴りかかってくる八角だった。
咄嗟に刃を引いて突き刺す。
避ける、もしくは防ぐかと思ったが、八角はそんな素振りを一切見せることなく猛進してきた。
二振りの日本刀が、八角の胸部と腹部を貫く。
「は!? 八角さん!?」
「なにを……!」
「やれえい!!」
肉体を貫かれた八角は、黒細の両手をしっかりと握る。
絶対に動かさん、という強い意志を持った握力に、黒細はようやく焦った。
「なんて野郎でさ!!」
「褒め言葉だな!!」
黒細の視界の中に、二人が出現する。
左右から飛んできた攻撃をどういなすかなど考えている余裕もない。
腕に持っている日本刀を無理やり動かし、二人の攻撃をかろうじて防いだ。
これによって八角の体がめちゃくちゃになるが、それでも手を離さない。
黒細はすぐに両手を離して早瀬と鍵城の腕を掴む。
ありえないほどの握力に骨が悲鳴を上げ、日本刀を動かせなくなった。
膠着。
このままでは腕がへし折られそうだ。
それほどにまで強い握力が二人を襲う。
「ググギ……!!」
「くそ!」
「ゴブッ……! お、押せええ!!!!」
八角の言葉に二人はすぐさま反応した。
三人の力で押し込めば流石の黒細も抵抗はできなかったらしい。
どんどん壁際へと追いやられていき、遂に背中を付けた。
「ぐっ……!」
「「「捌菅ぁああああ!!!!」」」
「なっ!?」
黒細の真横。
視界のギリギリで、バッと立ち上がる何かがいた。
驚いてそちらを見やれば……壁に手を当てて体を支えながら、割られた腕を持ち上げている捌菅がいる。
「やはり俺が……お前を……!! 殺す!!!!」
割られたことによって鋭利になった骨が、黒細の喉元を貫く。
捌菅は既に痛みを越えていた。
意識が朦朧とする中で、気力だけで起き上がってこの一撃を最後の最後で繰り出したのだ。
八角はこれを狙っていた。
遠くに倒れている捌菅を見つけてはいたのだが、まだ生きておりこちらの様子を常に伺っていたのだ。
黒細の意識の外……。
つまり倒したと思っていた奴が急に動いたのならば……確実に一撃が入る。
黒細に真正面から戦い続けるのは不可能だった。
それゆえの作戦。
ボギリと音を立てながら折れた首。
驚愕に目を見開いた黒細は、四名の顔をしかと見る。
「い、やだ……!」
腕の拘束が緩んだ。
早瀬と鍵城はすぐさま手をひっこめて距離を取る。
「な、ら、ん……!!」
八角もようやく黒細から離れた。
体を貫通している日本刀を支えながら、その場に座り込む。
「死ね、ん……で、さ……! 死、ね……ん、で……さぁ……!!」
「剛鼓流」
体を支えていた腕で握り拳を作る。
自力で立ち上がった捌菅が、最後かもしれない一撃の名を呼び起こす。
「剛鼓の拳」
メキャ。
拳がめり込む速度に、顔が動く速度が追い付かなかった。
顎が吹き飛び、頭が横向きに一回転する。
直後、黒霊衆が霧散した。
死体に憑りついていた者たちも完全に消え失せ、急に静寂が訪れる。
攻撃が空振りに終わった者たちも幾らか居り、困惑した様子を隠せていない。
気配が完全に消えたことを確認した者たちは、思わず城を見上げる。
先に行った者たちが本体を倒したと気付いたのだ。
他の風たちも次第に理解し始めたらしく、歓声がゆっくりと湧きあがった。
「ガボ、ブグブググググ……」
黒細は肺の中から空気のみを吐き出して何か訴えていた。
膝を地面に突き、小さく腕を伸ばす。
誰も手を取ってくれない空虚な時間が数秒流れた後、彼はようやく肩から崩れた。
遠くから聞こえ始めた勝鬨の声が勝利を教えてくれたが……。
この場にいる者たちは、どうにも喜ぶことができなかったのだった。




