16.17.不落城夏の陣⑰
黒細の前に立ち塞がった黒霊衆が、数秒で斬り伏せられた。
突風がぶつかって来そうな一撃に早瀬はもちろん、黒霊衆も驚く。
大きく踏み込んだ捌菅は道を切り開くため、刀を力一杯握って殴り付けるように黒霊衆を切り飛ばした。
もはや両断だ。
死体に取り憑いて強化することができる黒霊衆でも、真っ二つになった死体を動かすことはできない。
これを見ていた早瀬は黒霊衆の弱点をまた一つ認識した。
「うぉぉおおおおおお!」
「「がああ!?」」
ズババシャスアガッ!!
真っ二つに両断しながら、ようやく黒細の目の前に到着した。
ここでこいつの刀を押し付ける!
「剛鼓流! 一打! 雷音!」
「赤笠……間に合わん!」
黒細も技で対抗しようとしたが、思った以上に捌菅が速い。
下段から強く振り上げてその攻撃を耐えようと振り抜く。
二振りの日本刀がクロスしたところで、捌菅の一撃が振り下ろされた。
ガヂンッ!!
捌菅の攻撃は黒細の防御を押しつけて、頭に被っている笠を直撃した。
しかし痛がる様子を見せることはなく、鍔迫り合いに持ち込んだ。
「ぬぉおおおお!」
「意味ねえでさよぉ……!」
「はっ!」
「お?」
捌菅の背後から早瀬が跳躍する。
思考体術で軽々飛び越えながら、狙いを定めて黒細の背後まで回った。
振り返ったと同時に大上段から思い切り日本刀を振り下ろす。
黒細は押さえ込まれていて動けないし、動くつもりもなかった。
どうせ斬ることができないのだ。
着地した瞬間を狩ろう。
そして、早瀬は刀を振るった。
その銘に込められている意味を一つ叫びながら。
「拒斬!! ちゃんと斬れよ!!」
ズバッス!
「ぎゃああああああ!? な、なああああ!?」
笠を斬り、そして白い肉体をしかと斬った。
真っ黒な血液がバッと出たが、異様な速度で止血する。
だが痛みはそのまま残っているらしく、防いでいた捌菅の攻撃も押しきられた。
これに乗じて捌菅も斬りかかったが、こちらは斬れなかったようだ。
黒細を救うため、すぐさま黒霊衆が向かってくる。
本体の危険を察知したのか、階段からも上ってきた。
「ちょっと、数が多いな! にしても何故斬れた!」
「これが本来の意味じゃないだろうけど、拒斬はあいつの刃を受け付けないっていう拒絶を無視したってことだと思う!」
「なんかわからんが……よくやった!」
ようやく一撃が入った。
攻撃が通ることが分かったことで希望が見える。
これが、こいつが突破口だ、と捌菅は笑った。
「捌菅様……! 背後はお任せを……」
「飛田さん! 無理しては傷が……!」
「ここで気張らず、どこで気張りましょう! 頼みましたぞ! お二方!」
菊音の制止をきっぱりと断り、飛田は残った片方の腕だけで黒霊衆に立ち向かう。
ギリと歯を食い縛った一撃は見事に黒霊衆の一体を斬り伏せた。
返事はせず、ただ前を見続けた捌菅は大きく踏み込んだ。
ドンと一際大きな音を立てたこれが返事となり、互いに小さく笑みをこぼして背を預ける。
早瀬は捌菅の背に隠れて再び奇襲を繰り出そうとしていた。
激痛に顔をしかめていた黒細だったが、すぐさま気張って刃を向ける。
ババッと構えを取った黒細に対し、捌菅は脇構えの構えでこちらに猛進してきていた。
その背後には早瀬がいる。
これにだけ気を付けておけばいい。
「行け早瀬!!」
「おうよお!!」
一歩手前で跳躍した早瀬は再び大上段からの攻撃を繰り出そうとしていた。
二度も同じ手が通じると思うな、と黒細は歯を食い縛る。
「なめんなでさ! 赤笠流・怒点血!!」
「上弦の構え! 剛破!」
早瀬は火力の出る一撃を黒細に食らわせた。
しかし二振りの日本刀がそれを阻止し、なんなら逆に吹き飛ばされる。
体制を崩したところで捌菅が迫ったが、もう遅い、と早瀬に止めを刺そうとした。
(……待つでさ。……こいつ、武器が違う!!)
早瀬の持っていた武器は……捌菅の日本刀だった。
ここでようやく怖気だつ。
ギョッとして捌菅を見れば、早瀬の拒斬を持って今まさに斬りかかろうとしていた。
あの時か、と黒細は気づく。
二人が縦に並び、捌菅の背の後ろで武器を交換したのだ。
まともに連携したことのない二名だったが、早瀬の機転で捌菅は武器交換の意図に気づき、見事な連携が炸裂した。
「貴様は俺が斬る! 剛鼓流! 一打!」
「ぐ──」
「雷音!!!!」
強く踏み込んだ脚が地面を叩き、それと同時に横凪の一閃が繰り出された。
腕で防ごうとした黒細だった、その細腕は簡単に両断されてしまい、首元に刃が侵入する。
首皮一枚で繋がった黒細の頭部は重さに耐えられずブチリと千切れ、地面にゴヅッと鈍い音を立てて転がった。
早瀬を守り、黒細を斬る。
浮遊していた肉体が静かに着地し、静かに倒れていく。
ガシャシャンと騒がしい音を立てた二振りの日本刀が、決着の合図となった。
「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!」
「「!?」」
「いでええええええええええ! いでえええあああああああ!?」
首だけになったはずなのに、黒細はゴロゴロと転がって痛がった。
まさか、と思い捌菅が後ろを振り向くと、未だに動き続けている黒霊衆が飛田を串刺しにしたところだった。
「飛田ああ!」
「ブグッ……! ごの……」
力を振り絞って黒霊衆を切り伏せる。
だがこれ以上は戦えなさそうだった。
黒霊衆は本体である黒細がやられたことに気づいて動きを止めている。
そのため飛田は辛うじて捌菅の側まで撤退することができた。
……まだ終わっていない。
早瀬はすぐに直感し、捌菅から拒斬を奪い取って黒細に向かった。
頭部はその場で転がっているのですぐに近づける。
いざ突き刺そうとしたところで、黒細が叫んだ。
「死ねぬうううう! 死ねんでさああああ! 死んでええええ! しんでええええ!! 死んでたまるかああああああああ!!!!」
カッ──!
「え──」
ボウッ!!!!
爆風のごとく凄まじい風圧が早瀬を襲い、簡単に吹き飛ばされた。
「ぬおおおおおお!? どぅ!?」
「おい無事か!」
「た、助かった!」
吹き飛ばされたところを捌菅が受け止める。
彼は体幹が強いのかこの爆風でも微動だにしていない。
しばらくすると、風が止む。
顔を庇っていた腕を避けて見てみれば、そこには……。
「……は?」
「……なんだと……!?」
「なんで!?」
人が立っていた。
真っ赤に汚れた笠を被り、ボサボサになった髪の毛が肩まで伸びている。
捌菅のような体格ではないが、細く引き締まった体つきは兵のそれだ。
飛脚のような格好に加え、ボロボロで穴だらけの羽織を一着羽織っている。
その背中には赤笠という刺繍が入っており、これも真っ赤に染まっていた。
落ちている日本刀を、屈んで手に取る。
力強く握られた日本刀を持った男が顔を上げると、鋭い瞳がこちらを睨んだ。
相変わらず真っ黒な口は不気味だったが今回は笑っていない。
必ずここで仕留めるという、恐ろしいまでの殺気がぶつかってきた。
「殺すでさ」
人の姿となった黒細が、両肩に日本刀を担いだのだった。




