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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第十六章 不落城夏の陣
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16.16.不落城夏の陣⑯


 ジャギンッ!!!!

 枝のように細い腕で日本刀を二振り持った黒細が、三人を相手に善戦していた。

 三日月の様に笑う黒い口が不気味さを強調し、低空飛行を続ける彼の素早い動きに翻弄される。


 三人の中で最も戦えているのは捌菅だ。

 力強い攻撃は日本刀を片手だけで持っている黒細の腕を簡単に弾く。

 更に一撃を与えられる余裕すらあったが……。


 硬い。

 やはり黒細は硬く、生半可な攻撃では致命傷を与えることができなかった。

 黒細が三人相手に善戦している理由はこれだ。

 ごり押しの戦法を使って肉薄し、相討ち覚悟で刃を振るう。


「ぐっ……!」

「赤笠流! 捨て血潮!」


 ギュルッと回転して二振りの刀で飛田を殴り飛ばす。

 かろうじて防ぐことができたが、体勢を崩して大きく後退してしまう。

 その間に早瀬を攻撃し、振り抜いた片方の日本刀を捌菅に向けて攻め込んだ。


 標的をコロコロと変える黒細の戦法。

 四方に目があるのではないかと勘繰ってしまうほど動きに無駄がない。

 刀もただ適当に振るっているだけではないのだ。

 必ず敵がいる場所へ向けて力強く振るっている。


「強土流右弦の型! 刃返し!」

「赤笠流・血乾き!」


 二刀が左右から迫ってきたが、それを一度受け止めて押弾き返す。

 胴が晒されたのですぐさま切りつけたが、素早く後退しながら捌菅に攻撃を仕掛けたため躱されてしまった。


「剛鼓流・連打! 刻み小太鼓!」

「赤笠流・揺れ打ち乱舞!」


 ガギギギギャギンッ!!

 拘束で打ち合う三本の刀が火花を散らした。

 あまりの勢いに早瀬と飛田は入る隙を完全に見失い、ほんの少し離れたところで息を整えた。


 止まらぬ連撃に終止符を打ったのは黒細だ。

 急に二振りの刀で捌菅の刀を無理くり叩き落とし、下に弾く。

 この瞬間に一気に肉薄し、間合いに入った。


「流血……天昇ッ!!」

「んぐっ!?」


 ギャギーンッ! バシッ!!

 下段から強引に振り上げられた斬撃が、捌菅の肩を掠める。

 少量の血液が宙を舞い、黒細の被っている笠にポチャリと落ちた。


 間合いが近すぎる。

 捌菅は一気に後退して息を整えた。

 過去に一度対峙して理解はしていたが、やはり生半可な攻撃では傷もつかないし、何より以前よりも剣が鋭くなっている。

 明らかにあの時よりも強い。


「菊音ちゃんもっと力強くできねえかなあ!?」

「無理です!!」

「ハハ! 居ても居なくてもかわりゃんせんねえ!」

「んだとこの野郎」

「「「菊音さん!?」殿!?」ちゃん!?」


 ピキと額に青筋を走らせた菊音が、ババッと腕を上げて力を籠める。

 細い腕に力を入れると骨がくっきりと浮かび上がった。


「てか私のせいにすんな馬鹿颪! 黒い奴は視界の外から斬れば斬れてたでしょうが! ほんっと男って馬鹿ね!」


 これにはぐうの音も出なかった。

 確かに黒霊衆たちはその方法で仕留めていた。

 途中から関係なしに切り捨てていたので、黒細もそうだと勝手に勘違いしていたらしい。


 だが……もし視界の外からの攻撃が有効だったとしても、黒細の動きに無駄がなさ過ぎて攻撃を当てられなかった。

 なんとかこれを突破数る必要があるが……早瀬にはそのビジョンがなかなか浮かばない。

 それに視界の外と言っても、黒細が予見している箇所も防がれる可能性があった。

 いや、恐らく防がれてしまうだろう。

 なんせ黒霊衆及び他の異形たちも硬質化させる異形なのだ。


「飛田さん……」

「ええ、このままではいけません。しかしどう突破すべきか……」

「あのごり押しの戦法も厄介です。相討ち覚悟で戦ったら俺たちは確実に斬られる」

「然りですね」


 二人が眉を寄せて考えている時に、黒細はゆらりと傾いて迫ってきた。

 今回の狙いはこちらだ。

 瞬時に反応して斬撃を防ぐ。

 一度に早瀬と飛田が押し込まれてしまい、鍔迫り合いでなんとか堪える。


「ぬぐ……」

「大したことないでさねえ! そろそろ本気だしやすぜ~?」

「なに……?」

「そも、あっしは一人で戦う必要なんてないんでさよ」


 地面から黒い頭が出現する。

 黒霊衆が七体ほど姿を現し、細い腕を尖らせて武器にした。


「飛田さん!」

「承知!」


 黒細の刀を押し退け、飛田は黒霊衆の対処に当たる。

 早瀬も同時に刀を押し退けて距離を取ったが、すぐさま踏み込んで攻撃を繰り出した。


「強土流剣術、左弦の型! 左脇構逆手下段!」


 左手で日本刀を逆手に持った早瀬は、すぐさま斬りかかって連撃を繰り出す。

 その速度は異常に速く、黒細も二振りの日本刀を使ってようやく防げる程だった。

 これは基本的に片手だけで振るう型なのだが、振り抜いたところでもう片方の手で握り直し、すぐさま振るう少し特殊なものだ。

 逆手、正手に持ち替えたろするので器用でなくてはならず、思考体術を使わなければならなかったが、再現は可能だった。

 

 途中で黒霊衆一体を斬り伏せた捌菅が背後から奇襲を仕掛ける。

 だが黒細は分かっていたのかすぐに距離を取って事なきを得た。


「くっそ!」

「駄目でしたか……! そっちに押し込んだんですけどね……」

「こいつ、何処に目玉がある!」

「分かりませんねえ……」


 そこで黒霊衆が襲いかかってきた。

 これは捌菅が対処し、早瀬はすぐさま後退して菊音に近づこうとしていた黒霊衆の対処に当たる。

 すると死体に入り込んだ黒霊衆が立ち上がり、四つの腕で立ち向かってきた。


「くそがあ! これでは……! あいつに届かん!」

「黒い奴は仕留められます! あとは……」

「てめえ! 正々堂々勝負しやがれ!」

「断る! お前ら人間の物差しで戦う気などはなからありゃんせん!」


 黒細はそう言うと、飛田へと向かった。


「飛田ああ!」

「っ!」


 背後からの攻撃。

 咄嗟に身を翻して回避したのは良かったが、黒霊衆の攻撃が腕を貫通する。


「ぐっ……! こんの!!」


 無理くり腕を押し曲げて黒霊衆の頭を掴み、地面に叩きつける。

 顔を上げると、黒細が次の攻撃を仕掛けてきていた。

 地面を転がってなんとか回避したが、腕がズタボロとなってしまう。

 腕に空いた穴からぼだぼたと血が流れ落ちる。


 早瀬と捌菅はようやく黒霊衆を仕留め、飛田へと駆け寄った。

 黒細は更に黒霊衆を出現させて兵力を強化する。


「やばいやばいやばいやばい……!」

「飛田! 無事か!」

「なんとか!」


 懐に仕舞っていた襷を取り出し、腕をきつく縛り上げた。

 完全に止血はできなかったが、これでまだ戦える。

 少し遅れて菊音も駆け寄ってきた。

 守の御力を使いながら、飛田に手当てを施していく。


「……飛田さん」

「言わないでください。分かっております」


 左腕の感覚がない。

 ぴくりとも動かない指先からして、もう二度と腕は動かせそうになかった。


「どうするんですかこれぇ……」

「弱気になるな! ここで奴を仕留められなければ……」

「分かってるけどさあ! どうやって勝つんだよあんなの!」

「ぐぬ……」


 あまりにも不利だった。

 傷すら付けられない。

 だが相手は仲間を呼ぶ力がある。

 無限に湧く兵士に対抗し続けられる者など、人間にはいないのだ。


 対処法がない。

 黒細に攻撃が通ればまだやりようはあったかもしれないが……。

 攻撃を通す手段も、試せないままでいる。

 視界外から攻撃を仕掛けることが不可能なのだ。

 一行はただ消耗しているだけであり、敗色濃厚だった。


「なんかねえか……! なんか……!」

「くそ……!」


 キチリ。

 ふと、早瀬の持つ日本刀が音を発した。

 普段であれば気にならなかったが、今回ばかりは妙に気にかかって思わず見やる。


 変わらない刀身が早瀬の顔を反射させていた。

 特に変わっている様子はない。

 なんだったのだろうか、と視線を黒細に戻そうとしたとき……思い出す。


「……あっ……!」

「なんだ!」

「もしかしたら……いけるかも……」

「……賭けていいか」

「じゃあ……俺があいつを斬る。道作って」

「いいだろう!」


 これが失敗したら本当に打ち手なし。

 二人が背を低くして地面を蹴り、今一度黒細へと猛進した。


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