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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第十六章 不落城夏の陣
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16.13.不落城夏の陣⑬


 曲音が四尺無霧丸を肩に担いだ。

 これに対して井東と鴨井が左右に展開し、鍔雉と鍵城は真正面から突っ込む。


 曲音の体は大きい。

 そして人の姿に近いため、四名はどのような攻撃が繰り出されるか警戒していた。

 腕が長く、持っている刀も長い。

 大きく振るうだけでも四人全員を吹き飛ばすことができそうだった。


 まずは様子見。

 左右に展開した二名は待機し、鍔雉が前に出た。


「氷閃刀術……枝落ちの粉雪」


 ババッと霞の構えに切り替えると、突き技からの連撃に切り替える。

 相手の間合いが広いので大きく飛び込む必要があったが、この技は足裁きを重視している。

 強く地面を蹴って肉薄すると、鍔雉の間合いに入り込んだ。


 だが、違和感。

 ゾッと背筋が凍ったのを感じた鍔雉は、攻撃から防御に切り替えた。


「異術……反響の音」


 ビョウと素振りをした瞬間、鍔雉の背後から斬撃が襲いかかった。

 背中に刃を置いて間一髪で防いだが、その威力は凄まじく転倒してしまう。

 隙を晒してしまったが、ここは鍵城が割って入って次の攻撃を防ぐ。

 今度は普通の斬撃だったが、四尺無霧丸は重すぎた。


 ギャギインッ!

 刀の重さだけで潰されそうだ。

 鍵城は気合いで攻撃を横に流してなんを逃れる。


「くっ……!」

「すまぬ鍵城……」

「なんで異術が使えるんだよ! 巫女ぉ!! 何とかしてくれえ!」

「無駄ですよ」


 ゆらりと構えた曲音が答える。


「私の異術は……音ですから。巫女が捉えられるものではありません。まぁそれでも流石と言いましょう。これでも少しは私の力を削っていますし」

「つまりほとんど削れてねえのか……」

「爪の先ほどですかね」


 そこでまた一振。

 危険を察した二人だったが、視界の端で鮮血が吹き出した。


「ぎゃ……」

「井東!!」


 曲音の異術、反響の音(ね)。

 彼は一度に二度の斬撃を繰り出すのだが、その内の一つは自由な場所に繰り出せる。

 視線を合わせている必要はあるが、戦いに支障は一切ない。

 至極単純な異術だが、単純だからこそ欠点がほとんどないものだった。


 そして巫女の守の御力ですら影響を受け付けないほど特殊である。

 恐らくこれは種族的な問題だ。

 曲音の顔面から流れている白い霧は、身を守るために使われている。

 原理などは本人ですら知らないが、特異の異形であることは間違いなかった。


 片膝を付いた井東に止めを刺すべく、曲音は再び刃を振るう。

 まずい、と感じた鴨井が飛び出して攻撃を繰り出した。


「ぜやあ!」

「ふん」

「ぐお!?」


 ガギンッ!!

 振り抜き様に振るわれた斬撃は重く、鴨井を簡単に吹き飛ばした。

 あの細腕のどこにそんな力があるのか。


 鴨井を吹き飛ばした曲音は、スッ……と四尺無霧丸を納刀した。


「……は?」

「鴨井! 防ぐのだ!!」

「ぐ……!」


 鍔雉が信じられないほど大きな声で叫ぶ。

 急に脱力した曲音が、低姿勢で居合の構えを取った。

 その視線は吹き飛んだ鴨井に向けられている。


 鴨井はようやく地面に着地した。

 この瞬間を待っていたのだろう。

 動き出した、と思った瞬間……曲音の行動は終わっていた。


「異合術」


 ジュバシッ……!

 鴨井の横っ腹が深く切り込まれた。

 大量の血液に加えて内蔵がまろびでている。

 何が起こったかは理解していたようだが、同時に助からない傷だと気づいたらしい。

 悔しげな表情を浮かべながら鴨井は倒れる。


「鴨井!!!!」

「おのれ……!」

「あと二人」


 霧が流れる顔がこちらを向いた。

 抜刀していた四尺無霧丸を納刀して再び居合の構えを取る。


「鍔雉さん……!」

「背中は任せよ」

「頼むぜ……!」


 二人は同時に飛び出した。

 一拍遅れて異合を繰り出した曲音の攻撃が飛んでくる。


 ……冷たい感触、角度は真横。

 カッと目を見開いた鍔雉が、その攻撃を受け止める。


「なに!?」

「進め鍵城!」

「応!!」


 その言葉を聞いて速度を上げる。

 これに鍔雉もぴったりと付いており、曲音の攻撃を三度防いだ。


 並外れた感覚。

 冬であればさらに研ぎ澄まされているのだが、それでも曲音の攻撃を防ぐくらいであれば可能だった。

 だが……消耗が激しい。

 ただならぬ集中力を必要とするため、一撃を防ぐだけで汗が噴き出す。

 そう何度も防げる攻撃ではなかった。


 鍵城が前を走り、鍔雉が背後で援護する。

 相手が二つの刃で応戦するなら、こちらも二人で対処すればいい。


 井東と鴨井がやられているところを、この二人が黙って見ている訳がないのだ。

 攻撃の速度、斬撃の間隔などをしっかり把握していた。

 そして怒りに燃えつつも冷静な頭で肉薄した鍵城の攻撃は……重い!


「氷牢轟(ひょうろうとどろ)!! 氷獄の咆哮!!」

「ぬぐっ!?」


 下段からの切り上げ。

 斬撃が水色に光り、氷を生み出さんばかりの強い斬撃が曲音を襲った。

 地獄の大八寒地獄から届く咆哮のように唸り声を発した鍵城の一撃は……曲音の服だけを切る。


「……!」

「異術……反響の音!!」


 四尺無霧丸が振り下ろされる。

 大技のあとのため、防ぐことが出来なかった。


 ザシュザザッ!

 ……前と、背後から鈍い音。

 四尺無霧丸が前から斬り、反響の音の斬撃が背後から襲ってきたのだ。

 どうしたって防げるものではなかった。


 ……しかし、痛みはない。

 逆に驚きに駆られて見開いた瞳が痛いくらいだ。


「ぐぬぅ……!」

「ぐぶ……」


 鍔雉が背後を、井東が前を守っていた。

 井東はすでに刀を握れず、手にはなにも持っていない。

 鍔雉は神経を尖らせて曲音の技を防いだ反動で、動きが鈍くなっており背後から飛んでくる攻撃を防げなかった。

 であれば、と体を差し出して守ったのだ。


 鍵城の目が、井東と交える。

 既に言葉にはできないが、彼が言っていることがよく分かった。

 胸に親指を立てて笑っている。

 確かに……それしかない。


「氷牢轟!!!!」

「まずっ……! ん!? こいつ……!」


 井東が四尺無霧丸をしっかりと握っていた。

 死んでも離すものか、と口から血を吐き出して笑っている。

 この間に鍵城が牙突の構えを取った。

 無駄にしてなるものか、と腹の底から轟かせた咆哮が耳をつんざく。


「氷獄……!!」


 絶対にこの一撃で仕留める。

 怒りに体を燃やしつつも頭はひどく冷たく冷静。

 恨みを籠めるかのような低い声で、その名を呼び起こす。


「魔詞鉢特摩(まかはどま)!!!!」


 鍵城の繰り出した一撃は井東を貫いた。

 それでいい、と笑みを零したまま……今も尚四尺無霧丸を握り続けている。

 人一人を貫いたはずの刀身は勢いを止めることなく、曲音の肉体に突き刺さった。

 急に飛び出してきた刃を避けることは叶わなかったらしい。


「ごぁああああ!? つ、冷ッ……!?」


 突き刺さった刀を抜くべく、井東の背中を蹴り飛ばす。

 流石に支えきれなかったようで、鍵城たちはこれにより転倒した。


 普通であれば追撃を入れるところだったが、それどころではない。

 傷口が焼けるように……否、酷く冷えるのだ。

 氷でも詰め込まれたかのように体を凍らせていく。


「なん……! グァ、こ、これは……!?」

「俺の、流派だ……! 獄門共の……技だがな……!」

「んぐぬぅうう……!!!!」


 マズい。

 体が冷え、指先が動かない。

 四尺無霧丸を握ることすらできなくなった。

 普通の人間が使うことのできない術を繰り出したことに、曲音はひどく驚いていた。


 だが、最も驚いていたのは鍵城だ。

 そもそもこの技は冬でしか使うことができない。

 だというのに……ほぼ同等の力を発揮した。

 不思議ではあったが、今の状況からしてみれば些細な事だ。

 鍵城は日本刀を握りなおして曲音に向かう。


(無理か……!)


 体が凍る。

 己だけは死んではならない、と自らを鼓舞してみるが一向に力が入らなかった。

 これは流石に無理だ。

 時間経過で術が解けるとしても、鍵城が近づいて刀を振るう時間は容易にある。

 このままでは……この、ままでは……。


(旅籠様が……!!)

「生け捕りは……なしだ」

「ッ……!」


 異傀儡衆が異変を察知してこちらに向かってきている。

 だが冬の風がそれを全力で阻止していた。

 あともう少しで勝てるのだ。

 そう信じて死力を尽くし、全力を出せない体に鞭を打っている。


 助けも来ない、刀が振り上げられた。

 もはやこれまで。

 ……などと諦めてなるものか!! 何かないか、何か……!

 

 必死に目を動かして探すが、何も見つかることはなかった。

 もう時間がない。

 己にできることはなんだ、と何度も何度も問いかけて考え続ける。

 そして……一つの案が浮かんだ。


「我が名はマガリネ(・・・・)!! 貴様の名は!!」

「鍵城天満」

「我が名は捨てられた! 今は、マガリネなり!!!!」


 ザンッ。

 高らかに声を上げたマガリネは、その首を簡単に両断された。

 首を斬られても意識はしばらく残るというが、それは誠だったようだ。

 ぐるんぐるんと回る視界の中で彼は安堵する。

 それと同時に、これを他の仲間に伝えられなかったことを悔やんだ。


(……ああ、旅籠様。申し訳ございません。名を、捨ててしまいました。私は嫌われてしまうでしょうか。……そうだとしても、貴方様を……守ることが、できて……よかっ、た。できる、こと……なら……他の……者に、も……)


 大きな体が、ゆったりと傾いた。

 派手な音はなく、ただ静かに寝そべるように倒れた彼は……もう二度と動くことはなかった。


「「曲音!!!!」」

「この戦……勝たせてもらう!!」


 鍵城はマガリネを飛び越え、春の風たちの増援に向かった。


 その背を見届けた者がいた。

 背中を斬られたが、辛うじて立ち上がった鍔雉が刀を杖にする。

 そこで肩を宇代に支えられた。


「無茶しなるな怪我人。傷は深いのだぞ」

「歳だな」

「全くだ」


 敵が押されていく。

 異形の将を倒したことでこちらの士気が高くなり、敵の戦意が喪失しているようだ。

 これは伝播しており、勝利への道筋がようやく見えたのだった。



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