16.12.不落城夏の陣⑫
ギンッ! ギャヂンッ!
幾重にも重なる金属の音と、腹から声を出して気合いをいれる者たちの怒声が響く。
大量に雪崩れてきた異形たちの特徴に苦戦しつつあったが、矢が飛んでこなくなったことで戦いは楽になった。
とはいえ、冬の風たちは苦戦していた。
対峙しているのは氷、水、石、木の異傀儡と曲音という名を持つ異形だ。
異傀儡たちの個々の力はそこまで強くないのだが……曲音の指揮統率能力が抜きん出ていた。
「石傀儡」
曲音の言葉を聞いた土傀儡が、別の土傀儡に連絡をいれて石傀儡たちに伝達する。
すると上空に大量の石が投げられて冬の風たちを襲った。
彼らの投擲の命中率はずば抜けており、なにもしなければ確実に直撃する。
これを避けよう、防ごうとすれば……隙を見た氷か木傀儡が攻撃を仕掛けてきた。
そして厄介なのが……。
「水傀儡。子の刻だ」
曲音の視線の先は、冬の風が若干優勢になっている場所だ。
数名動きの良い人間がおり、異傀儡が数名やられたのを確認した。
曲音の指示が届いた水傀儡はすぐさま劣性の場所に水の壁を張る。
「くっそまたかよ!」
「鍵城! 奥の奴ら殺さねえと話にならんぞ!」
「突破口が開けねえのよ! お前らもわかってんだろ!」
この水の壁……。
劣勢の場所に定期的に出現し、異傀儡の再生と陣形の再編成を手助けしていた。
冬の風も陣形を整えるのだが、この時に必ず石が降ってくるのだ。
そして……異傀儡の再生と陣形の再編は異様に早い。
土傀儡が適切に連絡を通して再編を手助けしているのだ。
密集した陣形が薄い場所にぶつかると、冬の風は必ず崩れた。
「くっそがあ……!」
「どうしますか! このままでは……!」
仲間の悪態を聞きながら、飛んできた石を弾いて活路を探し出す。
敵の中で多いのはやはり戦闘を得意とする氷と木傀儡。
これらを突破しようとも、水の壁に阻まれて進むことができない。
そしてこの間に石つぶてが降ってくるのは確実。
これが冬であればもっとやりようはあったのだが、生憎の夏だ。
力が最も落ちる季節……。
戦力の分散を目的としていたので、ここまで強い敵と戦う事は想定していなかった。
なにより……未だに曲音が一切手を出していない。
指揮だけで冬の風を押し込んでいるのだ。
相手も相応の戦力を使っているようだが、まだ仲間は潜んでいるだろう。
それの対してこちらは全軍でぶつかっている。
明らかな消耗戦。
額から流れる汗を乱暴に拭い、今一度活路を探し出す。
(どこか……どこかにないか!?)
鍔雉の方も見てみたが、彼らも苦戦していることがよく分かった。
これでは前に進めない。
というより……冬の風だけではどうにもならない。
「やべえ……」
「石つぶてだ!」
「くっ!」
まっすぐ飛んできた石を全て弾き飛ばす。
そこを縫ってきた草傀儡が刃を向けてきたが、鍵城率いる若衆はそれらを全て弾き返す。
「鴨井! 井東!」
「こちらは無事です!」
「しかしこのままでは……!」
そこで井東が気が付いた。
ハッと顔を上げて遠くを見やると、曲音が困惑した様子で周囲を見渡している。
異形の陣営に何かが起きていることを悟った彼は、持ち前の観察眼で状況の把握に勤めた。
異傀儡が曲音に報告をしている。
土傀儡が数体……水傀儡が手を伸ばして困惑。
そして、曲音が後ろを振り向いた。
「あっ! そういうことか!」
「どうした井東!」
「鴨井! 鍵城様! どうやら増援です!」
「なに!?」
井東がそう叫んだと同時に、屋根の上に足をかけて見下ろす人物が出現した。
大きな薙刀をもって登場した桃色の羽織。
彼らはそれを何度も見たことがあった。
「冬の風ー! 手助けに来たわよー!」
「津辻原さん!」
「でもごめーん! こっちで戦ってた敵も連れてきた!」
「なにしてんですかあ!?」
「しょーがないでしょー!? 巫女がほぼ使い物になんないんだからあー!」
そう言いながら屋根から飛び降りる。
現在は津辻原がこっそり守の御力を使っていた。
これのより曲音率いる異傀儡衆は異術の使用ができなくなっていたのだ。
「巫女の手勢……。皆、異術は?」
「つ、使えません……! 相当強い力を持つ巫女かと……」
「なんと。だが……異端村異形衆! なにをしているのですか!!」
「ごめんよ曲音~!」
春の風たちの背後から現れたのは、比較的人に近い姿をしている異形たちだった。
それぞれが手に武器を持ち、えっさほいさと彼らを追いかけている。
「力が抜けて走れないんだ……! その中に手練れの巫女がいるぞ!」
「そちらは引き続きその人間を! こちらは足止めします! 挟撃してすり潰しますよ!」
「「合点!」」
曲音がそう叫ぶと、彼はようやく抜刀した。
長い刀身は彼にぴったりの長さであり、威圧感とともに前におどりでた。
「全軍武器を持ちなさい! 水と石傀儡は敵増援の対処を! 残りは引き続き私と共に!」
『『ローーーー!』』
この掛け声だけで、異形たちが一斉に動き出す。
春の風は挟撃されており、冬の風は足止めされた。
だが……津辻原の守の御力がここまで届いているので、先程よりも楽な戦いができていた。
冬の風が守る巫女たちも懸命に守の御力を使っており、更なる弱体化に繋がっている。
急ぎ春の風と合流しなければならない。
挟撃をし返すには、曲音を倒すしかなかった。
「っしゃ、ようやく本命の登場か!」
「慌てるなよ鴨井……。あいつは強い」
「ったくようやく活路が見えてきた……! さぁさぁ野郎共ここからが正念場だあ! 狙うは大将首ただ一つ!! 道を開けぇ!!」
「「「「おおおおおおお!!」」」」
若衆が叫ぶと、鍔雉の方でも同様の声が上がった。
敵が数段弱くなった事に気付き、攻めるは今だとして鍔雉が号令を発したのである。
見事な快進撃が繰り広げられていたが、あとは任せた、と言って鍔雉が離れる。
若衆に合流すると、鍵城に声をかけた。
「あれが本命であるな?」
「そうだ! 皆は邪魔が入らないように敵を押さえろ! 俺と鴨井、井東、そして鍔雉さんで仕留める!」
「「御意!」」
「良かろう」
ここを逃せば敗北が決まる。
春の風が来てくれたお陰で異形の異術は封じられた。
だが彼らは挟撃されており、放置していては潰される。
春の風が戦っている間に、勝負を決する必要があった。
四名は曲音に立ち向かう。
ゆっくりと構えを取った曲音が、ようやく手に力を入れた。




