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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第十六章 不落城夏の陣
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16.11.不落城夏の陣⑪


 二の丸への階段を上り切った。

 何度か邪魔が入ったが、異形たちは少数より多勢の方を優先したらしい。


 ……急がなければ手遅れになる。

 捌菅と飛田は目をきつくして黒霊衆を操っている本体を探すが、早瀬は未だ乗り気ではない。

 戦わなければならないとは分かっているものの、彼らは旅籠の友人だ。

 友達の仲間を……殺す勇気が出なかった。


「くそっ……どこだ!」

「はぁ、はぁ……! ちょっと、待ってください……!」

「ああ~そうだった! 今回は菊音ちゃんもいるんだったな。悪い……」

「ほんっと、守って、くださいよ……!? 私、戦え……ないんですから……!」

「ですが、休息している暇はなさそうです」


 飛田が構えを取ると、建物の陰から草傀儡が姿を現した。

 彼らは城壁上から横矢を掛けようとしていた異形たちであったが、結界によって阻まれていたので持ち場に留まっていたらしい。

 弓を捨てて武器を手にすると、こちらにゆっくりと近づいてくる。


 その数二十。

 四人だけで対処するにはいささか多い兵力差だったが、焦りはなかった。

 早瀬と捌菅が前に出ようとしたが、これを飛田が止める。


「お二方。ここは私にお任せを」

「えっ!? だ、大丈夫なんですか!?」

「早瀬殿の思考体術は限度が分かりませぬ。捌菅様はあの異形と戦うために温存ください」

「フンッ。では任せる!」

「御意」


 スッ……と倒れるように前に出た飛田は、地面を蹴飛ばして即座に肉薄する。

 真正面から接近してきたはずなので動きは分かりやすかったはずだが、草傀儡は反応できなかった。


「え──」

「飛褄一刀流。鷹狩り」


 ズバンッ!!

 見事にコアを破壊したのだが、ついでと言わんばかりに持っていた武器すらも両断した。

 振り抜いた姿勢からすぐさま腰を落とし、次の敵を狙う。

 これを七回ほど繰り返して七体の草傀儡を簡単に仕留めた。

 踏み込みの一歩一歩が大きく、すぐさま敵へと飛んでいく。


 これは飛褄一刀流だ。

 芸者の如く飛び回り、距離があったとしてもすぐさま詰めて敵を仕留めてしまう。

 ありえない距離を飛んでいくので、敵は一瞬困惑するのだ。

 その一瞬を逃がすことなく、飛田は敵を沈めていった。


 秒数にして約四十秒だろうか。

 最後の一体を袈裟斬りにして仕留めたところで、ようやく息を吐いた。


「ッフーーーー……」

「夏限定技。久しぶりに見たなあ」

「……捌菅様。悠長に構えている暇はないようですよ」

「あ?」


 飛田の視線の先。

 全員がそちらを見てみれば……黒い笠を被り、真っ白な色をした幽霊がそこに立っていた。

 背中には二本の刀を背負っており、以前より服装が豪華になっている。

 着物に袖を通し、細すぎる腰に帯で無理やり服を縛っていた。

 三日月の様に笑う黒い口が、不気味さを増長させた。


「久しぶりでさね」

「ほう。覚えていたか」

「女に叱られていたでやすからねえ。それと……そちらも」

「……」


 黒細は早瀬を見る。

 笑みを消して真面目な様子となったようだ。

 ゆっくりと背中に手を伸ばし、日本刀を抜き放つ。


「ま、待て! おい、お前……お前異形の中でも旅籠と仲いい方だろ! お前なら説得できるだろ!? これが旅籠の望んでることだなんて思えねえ!」

「は? 何言ってんでさお前。先に旅籠様を殺したのは人間。恨みしかねえでさ」

「そんなはずはねえ! そもそも旅篭は元の世界に帰りたいだけなんだろ!? だったら話だけで終わるだろ!」

「終わらんよ」


 捌菅が横から口を出す。


「なんで!?」

「お前、落ち着け。冷静さを欠くな。雪野ちゃんたちが必至こいて集めた情報、今までのこと、覚えてねえのか? 異形人は禁忌。禁忌を犯した人間を、神社の人間はもちろん、人間は歓迎しねえんだよ」

「だからそれは!」

「郷が間違ってる、だったか? お前らの物差しと俺らの物差しでは重さが違うんだよ。俺たち人間は今も異形を拒んでる。拒み続ける限り、異形はそれを突破するしかねえんだ。だから、こうするしかねえんだよ」


 彼は前に出る。

 早瀬は止めようとしたが……どうにも体が動かなかった。

 疲れたとか、思考体術の効果が切れたとかそういうことではない。

 捌菅の言葉を聞いてもうどうしようもない段階であると、今になって気付いたのだ。

 今早瀬が何をどうしようと、この戦いは絶対に止められない。


 自分ではどうにもできない。

 早瀬ならできると言ってくれた雪野の言葉が、どうしてか思い出してしまった。

 ぐっと歯を食いしばり、日本刀を持つ手に力が入る。

 これしかないのか。

 本当に、こうするしかないのか。


 早瀬が悩んでいる間にも、捌菅と飛田は前に出る。

 そして構えを取った。


「今度は名乗ってもらおうか? もう背を見せて逃げるなどせん! この場を離れるときは、どちらかが倒れた時のみだ!」

「はは、いいでさね」

「夏の颪、捌菅重隆!!」

「黒霊衆筆頭、黒細!!」

「「尋常に……勝負!!」」


 ギャヂィインッ!!!!

 ギチギチと鍔迫り合う音が響き、双方は笑みを浮かべて対峙した。


 激闘が繰り広げられようとしている最中、飛田が早瀬に視線を向ける。

 未だ悩み、決心がつかない彼は役に立たなそうに感じられた。

 だが……これではいけない。


 友の友が、他者によって討たれるのを待っていいはずがないのだ。

 傍観者になることだけは絶対に許されない。

 自分の足で、自分の意思でここまで来たのだから、覚悟はしっかり持っていたはず。

 そして戦いの中で黒細だけは必ず殺さなければならないと理解もしているはずだ。


「早瀬殿」

「っ」

「ここで負けては、旅籠殿の猛進を止められません。……スゥ……。彼が修羅に落ちるのを阻止できるのは、この戦のみなのだ!!!! しゃんとしろ!! 早瀬陸!!!!」

「ッッ!?」


 ズガンと強い一撃を喰らった気分だ。

 だが彼言葉のおかげで目が覚めた。


 修羅に落とさせてはならない。

 絶対に、その道にだけは進ませてはならないのだ。

 ここで止めなければ人間はもう異形を止められる力を失ってしまう。

 そうなれば間違いなく旅籠は修羅の道を進み続け、最終的には代果城を制覇する。


 取り返しがつくのはここだけだ。

 ギチチと柄を握ると、バッと顔を上げて素早く黒細に立ち向かった。


「お!」

「お前はここで止める!! お前を止めて……旅籠を止める!!」

「ハッ!! やって見せなせえ!! ご友人!!!!」


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