16.10.不落城夏の陣⑩
二の丸階段前。
本丸に近づくにつれて兵士が多くなってきた。
黒霊衆はもちろん異傀儡衆もわらわらと参戦し始め、黒霊衆に至っては人間の死体から数体が生まれている。
だが、これが夏の風を怒らせた。
「ぶち殺す!!!!」
「ぜええええやああああ!!!!」
野太い怒号が轟き、それが黒霊衆を切り伏せる。
真正面からの一太刀だったが、怒りに任せて振り抜いた斬撃は小細工なしでも黒霊衆の命を狩りとった。
一人でも倒せるようになったことで処理速度が一気に上がり、更に士気が高まって熱気が籠る。
夏の颪、捌菅重隆とその側近である飛田十次郎も一刀の下で黒霊衆を切り伏せられるようになっており、夏の風たちの先頭を切って戦い続けていた。
「剛鼓流! 連打! 刻み小太鼓!!」
「飛褄一刀流! 稲雀!!」
二人は連撃技を繰り出し、一切勢いを止めることなく無数の敵を切り伏せていった。
捌菅は一撃ごとに小さく足を鳴らして踵を返し、飛田も軽やかな足捌きで重心を移動させ、器用に日本刀を操っている。
戦い続けて体の調子が良くなってきたのか、体からは夏だというのに湯気が上がっていた。
逞しい筋肉が汗によって輝き、その肉体から振るわれる斬撃は今までにないほど豪快だ。
暑苦しい男どもの中に交じって、早瀬、孫六、八角も戦っていた。
早瀬と八角は見事な連携で敵を屠り続けており、孫六は単身で黒霊衆を集中的に仕留めている。
この先陣に付いてきている巫女を率先して守っているようだ。
八重、菊音、鈴は懸命に守の御力を行使し続けており、敵の弱体化を常に行っていた。
その動きを横目て見ていた早瀬は驚く。
(秋じゃないのに孫六さん強くね!?)
と、いうより以前よりも一層強い気がする。
夏ではあるが秋に近づいてきているからだろうか?
二刀流使いであるはずなのに、たった一振りで硬いはずの黒霊衆を豆腐のように切っている。
あれが二振り持つとどうなるのか……。
「早瀬! 合わせろ!」
「っす!」
二人はババッと上段に構える。
数体の黒霊衆と草傀儡の群れに突っ込むつもりだ。
「「強土流、上弦の構え」」
振り上げた日本刀を全力で異形たちに叩き込む。
黒霊衆に防がれたと思ったが、ズッ……と腕を切り落として頭部に直撃した。
「「剛破!!」」
ズガアアンッ!!!!
夏の風にも負けない強力な一撃は異形たちを簡単に吹き飛ばした。
本気で放った一撃に、早瀬も驚く。
こんなに力が出せるとは思っていなかったからだ。
横では見事な一撃を繰り出した早瀬を見て笑う八角がいた。
どうやら師匠である彼も今の火力に驚いていたらしい。
「やるようになったじゃねえか」
「俺こんな強かったんですね……」
「馬鹿め。技が強いのだ技が。お前の力ではない!」
「ってことにしておきます!」
あまりにも怒涛の勢いで進んでくる人間たちに、異形たちもようやく焦りを見せ始めたようだ。
巫女がいるだけでこの有様。
何とかしなければならない、と全員が獲物を構えて敵を待つが、怪力で簡単に吹き飛ばされる。
異傀儡衆は体が小さく、尚且つ軽い。
草傀儡であれば尚の事であり、攻撃を防ぐだけで簡単によろめいた。
怪力相手では、自慢の武を中々生かすことができない。
こんな弱点があったのかと草傀儡は知り、と夏の風たちから一歩身を引いた。
「ど、どうする……! 増援はまだなのか!?」
「それくらい気付け。由海さんの矢が飛んでるってことは、既に連絡は行ってる。でも増援が来てないってことは、月芽さんになにかあったんだ」
「つまり、増援は来ないと……」
「来ないが、作れる。黒霊衆!! そろそろいいだろう!?」
草傀儡がそう叫ぶと、状況を確認した黒霊衆の一体が大きく頷いた。
「皆さんの死、無駄にはしません! 黒細様ああああ!!」
背後を振り向き、大きく手を振った。
すると……黒霊衆の様子が一変する。
真っ黒だったはずが、少し白色が混ざって灰色になった。
ぶるぶると震えていたが次第に収まり、大きな笑みを作って……死骸の中に飛び込んだ。
「は──」
声を発する前に、人間の腹部に日本刀が突きたてられた。
人の死体に入り込んだ黒霊衆は素早く立ち上がり、人間の姿で戦い始める。
更にその体から新たな黒霊衆を生み出したのだ。
これだけではない。
コアを破壊されて死んだはずの異傀儡衆にも乗り移り、体をもたげて武器を構えた。
だが体が小さかったため、数体を集めて人間程度の大きさになったようだ。
人間に憑りついた黒霊衆は人間の口から顔を出しており、異質さが際立った。
異傀儡の体を集めて憑りついた黒霊衆は、砕けたコアを集めて自らの力へと変換する。
草傀儡を集めた分と同じ数の武器を手に取り、五刀、六刀を構えた。
「なんだと……?」
誰かがそう口にした瞬間、肉体を得た黒霊衆が一気に襲い掛かってきた。
仲間の姿で攻撃してくる奴と、武器を数本持ってブンブンと振り回す草の異形。
これに加えて敵はその肉体からさらに黒霊衆を生み出していた。
「マズい……!」
「これは俺でもわかる! マジであの白いの殺さねえとやべえ!」
捌菅の発言に、早瀬がすぐさま反応する。
「だっ……! 生け捕り!」
「「無理だ」」
これに首を横に振ったのは八角と飛田だった。
以前戦った時と様子が随分違う。
ただ硬かっただけだったが、今は死者すらも利用して仲間を増やす軍勢となっていた。
まだ味方の数は多いとはいえ、これを相手し続けるのは不可能だ。
消耗戦となり戦意が削れる前に……本体を叩き潰さなければならなかった。
生け捕りは不可能。
生きているだけで数が増えるのであれば、流石に実行できなかった。
「捌菅! 飛田! 早瀬殿! 三名は先に行け!」
「分かった! 行くぞ二人!」
「「了解!」」
孫六が吠える。
道理だ、と八角が踵を返して背後から迫る黒霊衆に立ち向かう。
「菊音殿! 付いて行けるか!?」
「は、ええっ!? 私ですか!?」
「本体と戦うに巫女の力なしでは勝てぬ! 頼む!」
「~~! しょ、承知しましたあ!!」
喋りながら黒霊衆の攻撃をかいくぐって体を細切れにし、大きく後退して巫女を守るようにして前に立ちはだかった。
ここに残ったのは八重だ。
懸命に片腕を伸ばして守りの御力を行使している。
額から汗を流しているが、戦いが終わるまでは絶対に力を途切らさせないと誓った目をしていた。
三名の巫女の中で最も力が強いのは彼女だ。
これが初陣だが……しっかり戦ってくれていた。
古緑の方に残った鈴もそうだ。
今も御代の側で懸命に守の御力を使い続けているだろう。
巫女が一人いるだけでここまで戦いが楽になったことで、夏の風たちは感謝していた。
これが本来あるべき戦い方である。
そしてこの一戦は必ず勝利を収める、という強い意志が彼らの士気を向上、維持させていた。
「八重殿、まだいけますか!」
「はい!」
「よし! 八角! 余裕ができ次第増援を送るぞ!」
「分かった!!」
五本の刀を凌いで一撃を入れた八角が、黒霊衆にとどめを刺す。
操っている本体が仕留められれば活動を停止するようだ。
しかし体を乗っ取った瞬間更なる黒霊衆が生まれるので、とにかく死者を出してはならなかった。
「夏の風共死んじゃねえぞお! 死んだら敵の餌食になる! 手前の死が仲間を殺すんだ! 気張ってけよ!!」
「「言われずともわかっとるわ!!」」
「「黙ってろ!!」」
「あ怖~!これだから夏の風って嫌だわ~!」
手の中で日本刀を回して握り、逆手にもって突撃する。
ここにいる夏の風たちも精鋭揃いでそう簡単には死なないだろう。
だがここからは持久戦だ。
仲間が死ねば、敵が増える。
この連鎖を止めるには……やはり本体を殺す必要があった。
「頼むぞ三人!」
そう叫びながら、一体の黒霊衆を仕留めたのだった。




