16.9.不落城夏の陣⑨
怒涛の勢いで突き進む一軍がいた。
主戦力の彼らはその実力をこれでもかと発揮しており、道行く敵全てを薙ぎ払いながら猛進している。
暑苦しいまでに熱気のある夏の風たちは各々の武器を手に異傀儡たちを葬り続けた。
壁に隠れようが先回りして仕留め、団結すればたった一人で瓦解させる。
乱暴の限りを尽くすその戦い方こそが、夏の風の真骨頂だった。
巫女のおかげで門はとっくに突破した。
虎口門を通り抜けて場内に進入し、異傀儡衆たちの包囲網を発った数名で突破した後、二の丸へと向かうため階段を目指す。
この怒涛の勢いに夏の風以外の面々へ少しばかり引き気味だ。
敵が壁役すらも成していないのだから。
こちらにいるのは草傀儡だが、彼らの技術だけでは夏の風を止めることができなかった。
今は巫女もいるため、弱体化されている異形では歯が立たない様だ。
「な、夏の風ってこんなに強いんですか……?」
「その代わり、他の季節で力が大きく劣る。冬に戦ったのは本当に愚策なのだが……冬の風に負けたくなかったのだろう」
「負けず嫌いって感じしますもんね……」
早瀬が引きつった笑みを見せながら問うと、孫六が答えてくれた。
これ八角が割って入る。
「そういえば、早瀬は風の特徴を知っているか?」
「夏の風は今聞きました。秋の風は得意な得物が使えなくなるんですよね。春と冬はよく知らないです」
「春は長物の武器を卓越に扱える。これはほとんどの者が颪並みに強くなるな。冬は斬撃が鋭利になる。岩を斬るほどだ」
「夏は力、冬は鋭利さ、春は限定強化、秋は武器の開放……って感じか……」
「まぁ、そんな感じだ」
横から襲いかかってきた異傀儡を切り捨てる。
完全にコアを切ったことですぐに体が崩壊した。
ここまでの道中は予想以上に順調だ。
だが未だに黒い幽霊の兵士を見ていない。
あの不死身が出てきていないことに若干違和感を覚えたのだが、これは早瀬だけが思っていることではなかった。
「妙だ」
「最初から妙だったな。門の突破が楽すぎる。他のところもそうだ」
「城下町に兵士が少なかったこともな。誘われておる気がしてならぬ」
古緑が一体の異傀儡を切り捨てる。
と同時に八角が別の異傀儡に蹴りを繰り出して遠ざけた。
あまりにも城の内部に侵入したのが早すぎる。
いくら巫女がいたとしても、もう少し抵抗があって良かったはずだ。
ただ兵士の到着が遅れているだけかとおもったが……。
黒霊衆が未だに現れていない。
これつまり、隠れているということ。
話を聞いていた早瀬が後ろを振り向く。
孫六も何かを察したようで、バッと振り返った。
……黒い頭が、地面から生えている。
「ッッ!! 全軍!! 足元に気をはらえ!!!!」
孫六が吠えるとほぼ同時だった。
地面から飛び出した黒霊衆が、夏の風たちを串刺しにしていく。
陣形のど真ん中から出現した黒霊衆の奇襲は見事に突き刺さり、怪我をさせて動きを封じたところでゆっくりと仕留められる。
反応して攻撃を凌ぐ者も多かったが、攻撃を食らって命を落とす者も多い。
怒涛の勢いがここで止まった。
完璧な奇襲に隊列が乱れ、黒く細い腕で串刺しにされていく。
そしてこの黒い幽霊がもっとも厄介な敵であった。
ガギンッ!
見事に入ったと思われる一撃だったが、それは硬い体表に阻止される。
そこからごり押しのカウンターが繰り出されるのだ。
夏の風たちは、黒霊衆と戦うのが二度目。
ある程度の攻撃は効かないだろうと思っていたのだが、巫女がいてこれである。
「巫女ちゃんよお! もうちょいなんとかならねえか!?」
「こ、これが精一杯です……!」
「硬すぎだろこいつら……!」
そこで早瀬と八角が前ので出た。
刀を逆手に持ち、柄頭をもう片方の手で押さえつけるようにして突撃する。
「早瀬!」
「了解!」
左右から同時に攻撃を繰り出す。
下段から切り上げられたそれは、黒霊衆に直撃した。
「「強土流、左弦の構え」」
ズバスッ……。
首に素早く侵入した刃が、反対から飛んできた斬撃に押されて通り抜ける。
黒霊衆の首がポーンと飛び、地面にゴツッと落ちた。
「「左脇構逆手下ノ段」」
「き、斬りやがった!!」
これには味方はもちろん、黒霊衆も驚愕している。
巫女のせいで能力が著しく低下している訳ではない。
ではなぜ斬られたのか。
「八角さんもう一回!」
「応!」
そこで再び二人が動く。
手の中でクルリと日本刀を回してから敵に肉薄する。
早瀬が繰り出した一撃は普通に防がれた。
全く攻撃が通る気配がしない。
しかし死角から忍び寄った八角が同じ対象に刃を振るうと、肩から脇にかけて袈裟斬りとなって切り捨てられた。
二人は確信した。
早瀬が息を大きく吸う。
「死角外からの攻撃が有効だ! こいつらは……認識した攻撃しか防げない!!」
これが……黒霊衆の弱点だった。
否、弱点が出てきたと言った方がいいだろう。
巫女がいなければこれすらなく、最強の兵士なのだから。
活路が見出だされた。
夏の風がニィと笑うと、黒霊衆を背後から切りつけた。
するとどうだろう。
先程まで頑丈すぎて効かなかった攻撃がすんなり通る。
倒し方が分かった途端、次第に勢いが戻ってきた。
再び蹴散らすように黒霊衆と戦っていく。
「はっはっはっは! 殺し方が分かればなんてこたねえ! いけいけいけいけ!! 斬りまくれええええい!!」
『『おおおおおおーーーー!!』』
彼らが再び暴れ始めたところで、二人は巫女の援護に入る。
御代が手を伸ばして懸命に守の御力を使ってくれているのだ。
これを維持しなければならなかった。
「これなら……!」
「良さそうだな! だよな萩間の旦那!」
「名持ちの異形が出てきておらん。気を抜くな」
「へいへい……」
八角は士気を下げること言うなよ……と小さく口にしながら頭を掻く。
それにはちょっと同意した生早瀬も苦笑いを浮かべる。
「萩間様!!」
「津留か。津辻原はどうした」
「無事です! しかし……城外から矢が掛けられております……! 御代様に城全体を囲う結界を……」
「なに……? 仕留められぬのか」
「遥か遠方から飛んでくる……泳ぐ矢にございますので……。このままではこちらも矢に晒されます!」
「致し方ないか……! 御代様!」
「しょ、承知しました!」
守の御力を解除し、素早く印を組んで力を籠める。
生成にしばらく時間がかかるため援護を求めると、古緑、孫六、津留が御代を囲んだ。
時間にして二分。
異傀儡衆と黒霊衆から御代を守っていると、城の外で結界が生成され始めた。
孫六が御代の様子を見る。
眉をきつく寄せて汗を流していた。
城一つを丸ごと囲う結界は銀巫女だからこそできる御業だが、相当な集中力を使う。
意識を反らさせてはならない、と直感的に感じ取った孫六は声を張る。
「御代様は結界の維持に注力なさる! 敵を近づけるな!」
「孫六。お主は進め。ここは私と津留、鈴殿で対処する」
「御意!」
悩んでいる暇など微塵もない。
古緑の提案に即座に頷き、孫六は素早くその場を後にした。
夏の風たちは黒霊衆と同等にやり合えているようで、このままであれば無事にこの場を突破できそうだった。
黒霊衆に対処できているという事実が彼らを奮い立たせているようだ。
だが異形の策がこれだけで終わるはずがない。
なにより……話に聞いていた白い幽霊の異形が姿を現していないのだから。
「くっ……! は、萩間、様……!」
「どうなされた」
「わ、私の結界……そう、長くは持ちません……! 敵の攻撃が……!」
ふと空を見上げる。
城一つが丸々囲われているが、四方八方から攻撃を受けているようだった。
大量の矢が結界の周囲を飛び回っており、それが定期的に攻撃を仕掛けている。
もし結界がなければ……その先は考えたくない。
矢を放っている異形はこの近くにはいない。
はるか遠くから射って来ているので、常に攻撃に晒されることとなる。
強制的に短期決戦を押し付けられたことに気づき、古緑は苦い顔をした。
「これでは、勝ったとしても……」
「萩間様。あれも異形の異術。御代様が守の御力に切り替えれば無力化されます。本来であれば向こうでも無力化できたはずなのですが……」
「巫女が怖気たか」
「はっ」
「致し方あるまい。我らは我らの成すべき事を成す。後ろは任せるぞ、津留よ」
「御意」
御代を背にして刃を敵へと向ける二人は、先に向かう仲間たちの後姿を見送った。
「……頼むぞ」




