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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第十六章 不落城夏の陣
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16.8.不落城夏の陣⑧


 山本五郎左衛門。

 妖怪の頭目で、魔王の座をかけて賭け事をしたとされる妖怪だ。

 結局賭け事の内容である百人を驚かせる事はできず、その座を諦めた。

 その後のことは分からないが、それ以降異変が起こることはなかったのだとか。


 しかし賭博と言われただけではどのような妖術なのかさっぱりわからない。

 全員が首を傾げていると、山本が懐に手を伸ばす。

 そして取り出したのは、二つの賽の目だった。


「見せた方が早いか?」

『ッ!? 魔蛇!!!! 結界!!!!』

「む!?」

「耐えるか見物だな」


 しゃり、と擦れ合う音が手の中で聞こえると、山本はそれを地面に転がす。


「四の目、化けの皮」


 コロンコロンと軽く転がった賽の目は、それぞれ一と三の目が出たようだ。

 口にした四の目は出ておらず、外れかと思ったが……。

 山本の口元は笑っていた。


「外れだ」

「え……?」


 本人も『外れ』と口にした。

 だったら大丈夫か、と思った数名の異傀儡が立ち向かう。

 その途端、多くの異形たちが横殴りにあったかのように吹っ飛んだ。


 ッドオオオオオンッ!!!!

 爆音に続いて地面が揺れる。

 ただ山本がサイコロを振っただけで、大きな被害を被った。


「ぐぐぐぐ……!」


 魔蛇が張った結界にもヒビが入る。

 名付けで強化されているはずだったが、それでも歯を食い縛って耐えている様を見るに相当強力な一撃であるとわかった。


 何が起こったかさっぱりわからない。

 山本は本当にサイコロを振っただけであり、それ以外はなにもしていなかった。

 腕を振るうこともなければ、指一本動かしてもいないのだ。

 

 ようやく勢いが落ち着いたところで、多くの者が顔を上げる。

 被害は大きく怪我人が多く転がっている。

 ただ異傀儡衆のコアを破壊することはできなかったらしく、彼らは再び立ち上がった。

 しかし再生能力を持たない異形は、スゴスゴと後退している。


「~ッなんだおい! 今のなんだ!?」

『山本の賭博は負ければ発動する! 四の目であれば四のゾロ目のみが当たりだ! それ以外は外れ!』

「んん!? ええっ!? ほぼ外れじゃねえか!」

『故に厄介なのだ! 賽の目を振らせるな!』

「うっそん!」


 なんっだその妖術!

 ってことはあと五つ何かしらの攻撃を残してんのか!

 あんな攻撃バンバン撃ち込まれたらまずいぞ!


「てか今のなにい!?」

『山本は今化けておる!』

「ああああそういうこと!? あいつ人間に化けていて、技でそれを解放する感じ!?」

『大方合っている!』


 山本は今、人間に化けている。

 正体は毛むくじゃらの大男のようだが、私も古い絵しか見たことがないので詳しくは知らない。

 輿から飛び出している脚しか見たことがないからだ。


 ……もしそれが妖術によって不可視で顕現するとなれば……。

 木夢がでかくなった時と同じくらいの敵と戦っていることになる。

 いや……やばくない……!?


 だが魔蛇の結界は山本の攻撃を耐えた。

 これならなんとかなるかもしれないが……。


「ふぅー……」

「……厳しそう?」

「あと二発ですな……」

「分かった」


 やはり何度も防げる攻撃ではないようだ。

 直撃すればただでは済まない。

 あれを掻い潜りながら懐に飛び込む方法を考えるが、まず山本の剣術も相当なものだ。

 この鉄壁の二段構えをどう攻略するか……。


 なにより長く生きているだけあって、異形の異術をよく知っている。

 手の内が把握されている中での戦いは、やはり難しい。


「ね~落水~……。これは分が悪すぎない~?」

「やるほかあるまい……」

「くそ~こんなところで貧乏くじか~! でもまあ……あいつ倒せば今後は敵なしってことでしょ?」


 異形鬼である赤雪が山本を指しながら確認する。

 確かにそうだ、と落水も納得したらしい。

 鼻で笑ってから身体を起こし、横たわっている木夢を起こした。


「みなでゆくぞ」

「そうこなくっちゃね~! さーさー異形たち~! こいつ倒せば他の妖怪なんて目じゃないよ! やったろうじゃないの!」

「旅籠! 良いな!」

「了解!」


 許可も得た。

 落水は周囲に水を展開し、赤雪は炎を出現させる。


「将門の策に乗る! 名持ちは前へ! 他は巫女と結界を何とかせよ!」

『参るぞ』


 旅籠の隣にいた平将門も本気で戦うらしい。

 足下に文字が浮かび上がり、それを掬い取ってボリボリと貪り食った。

 紫の火の玉がボボッと出現し、彼の周囲を周回する。


 楽と角は一度準備のために姿を隠し、壱成率いる名のある異傀儡が共に前に出た。

 木夢も回復したようで脚を生やして地面を踏みしめる。

 唸るようにジャリジャラと木材の毛を揺らして威嚇した。


 これがここにいる名持ちの全戦力。

 壱成たちは力を発揮するため普通の異傀儡も控えさせているようだ。

 あれも異傀儡の中では屈指の指に入る強者である。


「旅籠様はわしの後ろへ」

「いや、隣でいい」

「しかし……」

「皆が命張ってんのよ。私だけ後ろにって訳にはいかない」

「御意。では、指揮を」

「勿論」


 司令塔の役割をになった私は、盤面を確認する。

 空蜘蛛兄弟の準備が整うのは少しかかる。

 タマエキをこっちに用意していなかったのはいたかったな。

 いや……それよりも布伝と無形、案山子夜を分断された……。

 勿論それでも勝つつもりで戦うのだが、こちらは足止めをしつつ月芽を救出する方がいいかもしれない。


 となれば……どうする。

 敵は一人だが今まで戦ってきた中でも最も強い。

 数で勝るこちらを完全に圧倒しているし、未だに一撃も与えられて……。

 いや、木樹が……となれば……!


「将門! 前衛任せた! 落水さんと赤雪はそれに続いて!」

『よし!』

「何か策があるのだな……? したらば任せよう」

「あいあい!」


 三名が同時に前に出ると同時に、次の指揮を飛ばす。


「木夢は撤退! 壱成ー! 氷進と陰影貸して! 残りは三人の援護!」

「承知!!」

「魔蛇さん、危ない味方を援護できる?」

「やって見せましょう」

「頼んだ! よし、木樹。ちょっと来て」


 旅籠がこそこそと何かをし始めた途端、山本に刃が届く。

 平将門が大上段からの一撃を繰り出したのだ。

 強化した一撃だったが、片手で軽々受け止められる。


『久方ぶりに死合うぞ山本!!』

「……貴様が異形に付くとはな」

『そも俺は人間が好かん! この戦、敗けはせぬぞ!!』


 平将門の背後左右から落水と赤雪が飛び出した。

 そこからの攻撃はやはり速い。

 素早く接近して突きを繰り出す落水と、身体を捻って遠心力を付けながら薙刀を振り抜く赤雪。

 左右からの同時攻撃だったが、山本はこれを三歩下がって回避した。


 そう、回避したのだ。

 これに落水は活路を見出だす。


「将門。あいつは何故避けた」

『己の内で縛りでもあるのだろう?』

「そうは見えなかったけど……ねっ!!」


 突如、赤雪が落水に斬りかかる。

 彼はそれを理解していたようで、小さく跳躍して薙刀に足を掛けた。

 異形鬼の力はやはり凄まじく、落水を簡単に吹き飛ばす。


「ぬ!」

「紡ぎ流……端縫い!」


 素早い四連撃。

 斬撃と突き技を交互に繰り返した攻撃だったが、山本は急なことに驚いたのか防ぐことなく回避した。

 やはり避けた。

 あれほどの技量を有しているのに、なぜ避ける必要があるのか。


 落水が静かに構えを取ると、背後に紫の火の玉がゆらりと近づく。

 どうやら攻撃を補助してくれるようだ。

 少し遅れて他二名も合流する。


「旅籠の策が整うまで耐えるぞ」

『その前に殺してしまうやもしれぬがな』

「やってみろ」

「んー楽しくなってきたあ!」


 四つの刃が風を斬る。

 ひょうという音が激闘の始まりだった。

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