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和風異世界いかがですか  作者: 真打
第十六章 不落城夏の陣
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16.7.不落城夏の陣⑦


 旅籠の号令と共に弩を天に掲げた異形たちは、小さな的に狙いを絞った。

 形状が酷似している武器を見て、雪野は山本に伝える。


「山本さん! カラクリ式の弓です!」

「ほう」


 面白い物を作ったものだ、と関心したのも束の間。

 弩からトリガーが抜かれて矢が射出される。

 精度こそまちまちだが、異傀儡衆がこれを放てば相当な数になった。

 武器製作を常に頼んでいたため、異傀儡衆全員が手にできるだけの数がある。


 矢の雨がこちらに飛んでくると同時に、山本は小さく手を打つ。

 すると向かってきた矢が全て停止した。


「わお」

「旅籠様、わしの後へ」

「うん。全軍防衛姿勢!!」


 旅籠から土傀儡、土傀儡から全員にこれが通達された。

 その間わずが四秒。

 五秒後に異形たち全員が防衛姿勢を取ると、矢がひっくり返って異形たちに返ってきた。

 その威力は射出時の二倍程度だろうか。

 防衛姿勢だけでは防ぎきることが出来なかった異形もいたが、損害は軽微。

 盾をずらして顔を覗かせた異形たちの眼球が、山本に注がれる。


「伝達が異様に早い……。雪野殿。己を結界で守れるか」

「可能ですが、守の御力は使えません」

「不要。旅籠殿の前では無意味故な」

「えっ……?」


 山本は姿を見ただけで看破していた。

 あの気配は、守の御力を凌ぐ常神楽だと。


「旅籠殿は常神楽に目覚めておる。数多の異形を付き従え、信頼を得ている者にのみ発現する異形人の究極異術。あれを前に守の御力は無力」

「えっ……じゃ、じゃあ……」

「旅籠殿の側に居る異形は、異術を常に使用する。されど案ずるな。元よりその覚悟で参った次第故な」


 山本はすっと力を抜いて着地する。

 雪野もそれの続いて結界を下降させて地面に降り立った。


「では、任せます」

「うむ」


 雪野が手を鳴らせば、自分の周囲に三重の結界が出現する。

 今の彼女が作ることができる最高高度の結界だ。

 月芽にも同様の結界を施しているが、構造は少し違う。


 そもそも結界は片方面の強度は強いが、反対側は脆い傾向にある。

 つまり外からの攻撃に強い結界は内部からの攻撃に弱いのだ。

 月芽に施している五重の結界は、内部二枚の結界を内側からの攻撃に強く作り、外側三枚の結界を外部からの攻撃に強く作っている。

 これで外からも中からも破壊はできない。

 雪野が自分の周りに作った結界は外部からの攻撃に耐えられれば良いので、外側の攻撃に強い結界を作った。


 これで月芽はそう簡単に脱出はできないし、雪野も簡単には攻撃に晒されない。

 山本は何も気にすることなく戦いに挑めるのだ。


「流石金巫女」

「はっ!」


 一番槍を飾ったのは木傀儡だった。

 これに続いて多くの異傀儡衆が刃を向けて突撃する。

 遠距離攻撃が効かないのであれば、やはり接近戦に持ち込む他ない。


 木傀儡は小太刀で切りかかるが、半身で回避されて顔面を握りつぶされた。

 潰した木片を投げつければ、それは小さな刃となって迫ってきていた異傀儡衆を傷つけていく。


「ぎゃっ……!」

「うっぐ」


 一斉に倒れていく異傀儡衆。

 流石妖怪最強格だ。

 淡々と戦闘をこなしていく山本は、一切の隙が見えなかった。


 そこへぬるりと迫る一体の異形。

 地べたを這いずって近づいたこの異形は、一本の脚に大量の武器をまとめていた。

 タコに近い姿をしているテンレンは、武器の塊を置き去りにして肉体だけ接近した。

 伸びた一本の触手はゴムのように伸びており、ボッと火が着く勢いで山本へと武器をぶん投げる。


 異傀儡衆に紛れての攻撃だ。

 ほぼ不意打ちの一撃だったのだが……山本は横目で認識した瞬間、日本刀を一振して武器の塊をぶった斬る。


 バギャアアンッ!

 まとめられていた武器が木っ端微塵になったと同時に、それを持っていたテンレンの脚も細切れになった。


「ヌチチ!?」

「単調。む、名付けられた異形でなしか。ならばよく考えたな」


 この直後、地面から木の根が大量に飛び出した。

 数体の木樹が山本を拘束しようとしたのだが、片腕を振るわれただけでバキバキにへし折られる。


 続いて氷進が走った。

 地面を凍らせて跳躍し、山本の側に着地した瞬間強い冷気を放つ。

 周囲の空気を完全に凍らせて結晶化し、氷の刃で肉体を貫こうとしたが……。

 鋼の肉体に阻まれる。

 腹部に直撃したと思われたが、氷の方が悲鳴を上げた。


「ジャラララララ……」

「ぬ──」


 ガギォオンッ!

 肥大化させた尻尾を刀のようにして殴り付けた木夢。

 山本は瞬時に反応して片腕だけでこれを受け止めた。


「ジャララ……!?」

「ほう。貴様、材万化の異術か。獣がこれを有するとはな」

「よそ見とはいい度胸だな」


 スッ……と木夢の陰から姿を現したのは落水だった。

 体を水に変えて一瞬で近寄ったらしい。


 木夢が尻尾を掴んでいる山本の腕に食らいつく。

 片腕を拘束したことで行動が制限された。

 さらに姿勢を崩すために頭を思い切り下にねじ込む。


「……!?」


 だが、微動だにしなかった。

 まずいと感じ取った木夢は、すぐさま口を離して落水に食らいつく。


「おっ!?」

「不変の一刀」


 ぼそりと山本が口を動かした刹那、ズィンッ……と空気が振動する斬撃が繰り出される。

 落水は木夢に庇われたので無事だったが、木材の脚が宙を舞った。


「!? 木夢!!」

「何をしておるのだ! 俺は水の異形人で不死身だぞ! 庇うなど……!」

「ジャラララララ……! ジャジャジャジャララ……!」

「……ぬ……?」


 落水が異変に気づいた。

 木夢も木材の異形で、コアとなる心臓部を砕かなければ死にはしない。

 それに変形を得意としている。

 だが……何時まで経っても脚が生えてこなかった。


「木夢……まさか……!」

「流石獣といったところか。勘がいい。貴様もよく見ておるようだ」


 少し太い刀身を軽々と振るった山本。

 異形たちの中でも速い速度を誇る木夢が止められ、更に傷を付けられた。

 あいつはなんだ、と異形たちがざわめきはじめる。


『くそが……。まだ衰えてねえじゃねえか……!』

「なんか知ってんだな将門!」

『伝え忘れていた。山本は不死を斬る』

「はい?」

『不死を殺す術だ! 不変の一刀は一時的に再生を不能にさせる!』

「ちょい待ち……! 今落水さんが斬られてたら……」

『死ぬる』


 これを聞き、全員が動きを止めた。

 むやみやたらに襲いかかっていい相手ではないと気付いたからだ。

 

 不変の一刀。

 平将門が口にした通り、その一撃は不死身の力を持っていたとしても致命傷を与えられると死に至る。

 仮に腕に浅い切り傷を付けられた場合、傷は回復することなく激痛を伴う。

 これは一時的な症状ではあるので時間が経てば回復するのだが、その一時を敵に晒すとなれば死が間近に迫るだろう。


 これは山本が編み出した最も得意とする技だ。

 久しぶりにその効力を見た平将門だったが、未だ衰えることなく扱いこなしていることに驚いた。

 これだけ強い力を扱うには、何かしら代償が必要なはずだ。

 だというのに素の力であの強さ。

 異形たちの攻撃が尽く失敗し続けている現実に、格上の差を見せつけられた。


「魔蛇さん」

「術返しは常に……。だというのに、あの力……」

『否、山本に術返しは効かぬ。あれは……どちらかといえば『斬り方』だ』

「そんなことあるう!? えっあれ妖術じゃないの!?」

『山本の妖術はこんなものではない!』


 平将門が腰に携えている日本刀の鯉口を切り、前に出る。


『聞け! 名持ち以外は下がり月芽の救出を優先させよ! 束では勝てぬ……!』

「将門! 山本の妖術はなんだ!」


 木夢を庇いながら剣先を山本に向けている落水が吠えた。

 これには全員が耳を傾ける。

 ただの剣術だけでこれほどの実力を持つ彼が、普通の妖術を扱うはずがない。

 未だに妖術の一端すらも開示していないため、本来の実力は未知数だった。


 しかし平将門は知っている。

 忘れすはずもないあの妖術は、奇天烈ではあったが実力は確かだった。


『賭博だ』



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