16.5.不落城夏の陣⑤
真っ暗な空間の中で松明を燃やしながら進んでいる二人の女性がいた。
夏ではあったがこの空間は非常に涼しく、水が滴る音もどこかしらから聞こえてくる。
こんな所から侵入するのはあまり好きではなかったが、背に腹は代えられないし勝つために少しの我慢はしなければならなかった。
先頭を津留が進んでおり、その後ろを津辻原が歩いている。
ここは不落城に入る裏口であり、この道を知っている人物はほとんどいない。
津辻原は元銅巫女でこの通路の存在を知っていたのだ。
洞窟の中を進んでいると、外から小さな声が聞こえ始めた。
恐らく城攻めが開始されたのだろう。
こちらも急がなければならない、と津辻原は少しだけ津留を急かした。
「急いでも変わりませんよ」
「ほら、余裕は持っておきたいじゃない?」
「早く到着しすぎて敵にばれる事だけは避けたいのですが……」
「まぁまぁ。私がいるから大丈夫よ」
そう言って背中を押していく。
困った様子を浮かべていた津留だったが、諦めて少し足早に進むことにしたようだ。
人数は少ないが、この二人が担っている作戦は非常に重要だ。
作戦の要はもちろん津辻原。
津留はその護衛を担っている。
二人はまず不落城の裏口から侵入し、天守閣に出る。
それから敵のいる場所を探して隠密行動を取り、密かに守の御力で敵の異術を無力化する予定だ。
これは遠距離型の異形を警戒しての作戦。
成功すれば遠距離攻撃を気にしなくてもよくなるし、弓兵の攻撃などであれば近くにいる巫女が結界を張って守ってくれるだろう。
もし何も居なければ、どこかしらの増援に向かう予定だ。
洞窟の中を移動していると、外から差し込む明かりがこぼれている場所を発見した。
そちらへと進んでみると、小さな門が鎮座している。
これを慎重に開けて外に出てみれば、無事に天守閣へと到着した。
松明の火を消した津留が先に出て周囲を確認したが、敵の気配はないとのことだったので津辻原も外に出る。
天守閣は綺麗さっぱり燃えており、瓦礫も片付けられていた。
残っているのは石垣だけだったが戦況を把握するには十分な高度を保っている。
できるだけ目立たないようにしゃがんで見下ろしてみれば、やはりというべきか……秋、春の風が担当している場所が劣勢だった。
「あれは……私たちが戦った異形ですね」
「よく見えるわね。えっと、てことは……。あそこで暴れている異形は小さな異形じゃないのね?」
「はい。大小様々な異形です。冬の風がいる場所は拮抗。主力である夏の風は優勢ですね。どんどん進んでいます」
「御代ちゃんや菊音ちゃんが頑張ってるのね」
あくまでも夏の風たちを誉めない姿勢に笑いそうになった津留だったがなんとか堪えた。
小さく咳払いをしてから一度深呼吸をする。
「向かうべき場所は決まりましたね」
「じゃ、そっちに向かう前に……」
テンッと地面に薙刀の石突きを突く。
反動で持ち上がったそれを急にぶん回し、背後から飛んできた矢を全て打ち払った。
ぱらぱらと地面に転がる矢尻と棒の音を聞きながら、矢を飛ばしてきた存在を確認する。
そこには五体の草傀儡と、一体の異形がいた。
下半身は四足で足先は鋭く、上半身は根っこがねじれて育ったような姿をしていた。
足回りは岩石で覆われているようで簡単には刃が通りそうもない。
この異形は見たことがないが、明らかな敵意を持っているので敵であることは間違いない。
上半身は人の形に近いようで、腰に携えていた日本刀をゆっくりと抜刀した。
「……侵入者。いつの間に」
「戦、始まってますからね?」
「……いつの間に……!」
草傀儡は一度呆れたが、すぐに弩を捨ててこちらへ武器を向けた。
津留も腰に携えていた二振りの小太刀を鞘から抜いて逆手持ちに構える。
「津辻原様」
「まぁ、余裕でしょ」
途端、ズン……と体が重くなった。
異形たちは目を見張って驚き、すぐさま異変に気付く。
草傀儡は自分の体から追加の腕を伸ばすことができなくなっており、もう一体の異形は足を覆っていた岩石がボロボロと地面に落ちた。
「な、なん……!?」
「私は元銅巫女。守の御力に特化した巫女で、なおかつ戦える巫女よ」
「こ、こいつだけは、仕留めねば……!」
「脅威と感じてくれてるのかしら? あら意外と嬉しいものね」
「津辻原様……」
「はいはい」
津留が一つ注意すると、口を尖らせてから姿勢を低くする。
一足先に前に出た津留は、一瞬で一体の草傀儡のコアを破壊した。
「ギュ……!?」
「一つ」
「!? はっ!!」
真横に来た津留へ刃を振るった草傀儡だったが、小太刀で完全に受け流された。
次の瞬間には腕を斬られ、さらに肉薄されてコアを突き壊される。
無駄のない動きでさっそく二体を仕留めてしまった人間に驚いたのも束の間、今度は正面から津辻原が向かってきた。
ぎょっとして急いで刀を抜刀して振り抜く。
下段から勢い良く振り上げられた薙刀の威力は、慌てて振るった刀を簡単に弾き飛ばす。
ギャヂンッ!!
腕と一緒にかち上げられるほどの威力。
これが女の体から繰り出される一撃なのか、と驚愕している間に次の攻撃に転じようとしていた。
(速い!?)
ギンッ!!
草傀儡の一体が飛び出して異形を守る。
だが背の低い異傀儡衆は体も軽いため、守る事は出来たが簡単に弾き飛ばされてしまった。
振り抜いた薙刀を肩に回し、勢いそのままに二撃目を叩き込む。
これは流石に反応できた。
持っていた刀でこれを受け止めようとしたのだが……。
バギンッ!!!!
刀が簡単に折れてしまった。
「なっ!?」
驚いて前足を上げると、そこを三連撃目が通り過ぎる。
攻撃速度が速く驚いていると、上げた前足の下を津留が通り過ぎて反対にいた草傀儡を仕留めてしまう。
一体は普通に肉薄して仕留め、もう一体はクナイを投げてコアを破壊してしまったようだ。
この二人はヤバい。
そう気づいた時には既に遅く、逃げようとしたときには後ろ足をぶった切られていた。
「がああああ!? い……! いつの、間に!!」
「今さっき」
「まっ──」
ザンッ。
簡単に首を跳ね飛ばすと、暫く経ってから鈍い音が地面から響く。
ブンブンと何度か薙刀を振るった後、石突きを地面にぶっ刺して斬新を残した。
津留も投げたクナイを回収したようで、手の中でくるくると回しながらこちらに戻ってくる。
「あら、律儀に回収したの?」
「回収できる時は回収しますよ。これ結構高価なんですから」
「使い捨てじゃいのね」
「鉄を使い捨てる事なんてあんまりないですよ……」
「まぁそれもそうね」
クスクスと笑った津辻原は、春の風が戦っている場所へと向かうことにした。
これに津留も付いていくようで、彼女の背中を追い続ける。
「秋の風も劣勢に見えました。春の風たちの助太刀が終われば秋の風の方にもお願いします」
「もちろん。でも今は春の風の方が劣勢に見えたからそっちに向かうわ。私も全力で守の御力を使うから秋の風の方にも届くかも」
「ご無理はなさらず」
「無理しないといけない時もあるわ。貴方は私の援護をお願いね」
「承知」
会話を終えると走ることに集中し、颯爽と仲間を手助けするために移動したのだった。




