16.2.不落城夏の陣②傀儡城内の戦
全員がわたわたと準備を開始している中、十山城から届いた由海の文を受け取った。
黒霊城が人間の兵力に包囲されているという報告が記されており、攻撃が開始されるのも時間の問題とのこと。
黒霊城には今名付けた異形が二体しかいない。
とはいえ黒細と曲音だ。
私たちが兵力を届けるまで耐えてくれるだろう。
魔蛇が声を張って仲間を急かす。
ようやく連れてこられた月芽も、一気に兵力を送るため仲間を密集させるよう伝達していた。
「いやー久しぶりに暴れられるね~!」
「……」
「ねえ落水~? おーい。どしたのー?」
「妙な……気配がする」
「気配ぃ? 異形だらけなんだから普通じゃないの?」
「否。それとは、また別」
赤雪は楽しそうにおちゃらけていたが、落水の態度を見て少し真剣な表情を作る。
キョロ、と目玉だけを動かして周囲を探ってみるのだが……。
妙な気配がそこらじゅうにあるので、結局わからず降参のポーズを取った。
「わかんない」
「……」
二人が話している間に、送り込む兵力が整ったらしい。
異傀儡衆を三千と、布伝、無形、案山子夜を送り込むことになった。
相手には巫女がいるので、異術を封殺されても実力で戦えるメンツを選抜した。
月芽が号令を発して地面を踏みつけ、継ぎ接ぎを伸ばす。
全軍が一気に継ぎ接ぎの中に落ちた。
次の瞬間。
ガッチンッ!!
月芽の周囲に二重の結界が張られた。
「……え?」
『『『『!?』』』』
「月芽!?」
「兄様……!」
延びていた継ぎ接ぎがブチッと千切れ、中途半端な場所で兵力三千をぶちまける。
彼らが飛ばされたのは四山で、急に放りなげられたので転倒する者が続出した。
異変を察知した案山子夜と布伝はすぐさま体勢を立て直して着地し、次に転がってくる異傀儡衆を回避する。
無形は異傀儡衆を助けているようだ。
案山子夜と布伝の二体は木に登って現状を把握しはじめた。
「……これは……」
「ぎゅううぅ……」
「いや、月芽が目測を見誤ることは一度として無かったですぞ。これは……月芽に何かあった……!?」
「ギチチチ……」
布伝が異傀儡城と黒霊城の方角を世話しなく見比べている。
どちらに戻るべきか考えていたようだが、どちらも相当な距離があった。
布伝や案山子夜であればともかく、異傀儡衆には酷な距離だ。
「距離が近いのは……黒霊城……。そちらに向かいますぞ!」
「ギュチ……」
「月芽の下には多くの異形が居ますのでな。すぐになんとかなりますぞ。異傀儡衆! 動ける者は黒霊城へ向かいますぞ!」
案山子夜がすぐさま判断を下して先導を指揮している間、傀儡城では混乱が広がっていた。
特に取り乱しているのは落水であり、日本刀を抜刀して結界を何度も切りつけていた。
「な、なんだなんだどうなってんだ!?」
「旅籠様ー! これ結界です!」
「見たら分かるわ!」
『……んぬ? この結界……』
平将門がなにかに気づき、その結界をまじまじと見る。
どこかで見たことがあるような気がするのだ。
しばらくそうして考えていると、急に鮮明に思い出された。
『……! 旅籠、貴様の友人の結界だぞ!』
「はい……?」
何を馬鹿な……。
あの二人はこんな所にはいないはずだ。
何かの間違いだろ、と言いたくなったが……平将門は周囲を警戒して探し回っていた。
……まじ?
でも、どうやって……?
超遠距離から月芽を狙い撃ちできるはずがない。
何がどうなってんだ……!?
「……旅籠様」
「今度はなに!?」
「あちらを、ご覧ください……」
角が多脚の一本を空へと向ける。
この言葉を聞いていた全員がそちらへと視線を向けると……なにかが浮いていた。
限りなく漆黒に近い衣を纏っている男。
腰には太めの日本刀が携えられており、腕を組んでこちらを見下ろしている姿には威圧感を覚える。
そして隣には、美しく着飾った……雪野がいた。
「まじか……」
『山本……五郎左衛門……!』
「ふぁっ!? おい将門! 今なんてった!?」
『最強の妖怪……山本五郎左衛門だと申したのだ!』
月芽の異術が封じられているので、将門は妖力で無理やり体を繋げて維持していた。
二人の姿を見て、ようやく現状を理解した。
とんでもない奴を味方につけているじゃねえか。
「月芽ー! 移動させた兵士はどうなった!?」
「も、申し訳ありません……! 途中で投げ出してしまいました……!」
「分かった!」
となると、黒霊城に兵士は到着してない……。
移動途中で結界を張ったからか。
っていうかこのタイミング……。
あの二人、ずっとこっちを観察してたな……?
黒霊城に増援を送る瞬間、結界を張って継ぎ接ぎの異術を無力化した……。
絶対に戻ってこられない場所で放出させる際どいタイミング。
その数秒をなんで雪野が把握してんだ……!
「旅籠おおおお! 巫女を狙え! 結界を破壊しろ! そうせねば……黒霊城が落ちるぞ!」
「っ……! くそ!」
落水の叫びに全員が力を込める。
ほぼ一瞬で移動できる月芽の異術が無力化された今……増援は送れない。
先程送った兵力も途中で吐き出されている。
まさか、単身でこんな奇策を打ってくるなんて思わんじゃん……!
……いや、流石ってところか。
多分だけど、雪野が上手く立ち回ってできるようになった作戦なんでしょ。
そうじゃなきゃ、妖怪の山本を味方にできるはずがない。
単身でやって来てるってことは、作戦は共有してないのかな?
雪野が妖怪と手を組んでるってなると面倒な事になりそうだし。
んんー、敵ながら天晴れ。
「雪野ーーーー! やるな!」
「誉められても嬉しくないわ!」
「だが負けはせんぞ!」
「待って旅籠さん! 他に道はあるはずよ! 戦ったら死人が出る! そうなれば負の連載が続くだけになる! 貴方は異形たちを止められる力を持ってるでしょ! 説得してよ!」
「最初に殺したのはどっちだ!」
予想通りの言葉が返ってきて、雪野は唇を噛む。
そう、最初に殺したのは人だ。
戦いの火蓋を切ってしまったのは人なのだ。
私の代わりに死んだ魂がいた。
宥めてくれた主魂がいる。
共に道を歩む仲間がいるのだ。
自分に尽くしてくれた皆の行動を、許しましょうの一言で無下にはできない。
「姿形は違えど、人と同じ心を持ち、感情を持ってるんだ。私にとってこいつらは家族同然! そいつらが私についてくるって言ってんだ! それに応えられなきゃ主人じゃねえ!!」
「だったら……家族のためにも戦わないで! 一人死ねば、旅籠さんに返ってくるんでしょ!?」
「それが怖くて名付けはしてねえ!!」
「だからって……! 殺し合いをする必要はないわ!」
「私たちは拒まれた! 話が通じない相手に何を言っても無駄だろう!? じゃあなにか! 私は富表神社に入れるのか!?」
「それは……」
無理だ。
表情でそう気づいた旅籠は、やっぱりね、と肩をすくめた。
そして大きく息を吸う。
「こいつらは期待に応えてくれる! いつだってそうだ! のっぺらぼうと戦った時、鬼が攻めてきた時、狸が攻めてきた時! 全て期待通りの結果をもたらした! だから今も、応えてくれるよなあ!!」
その途端、轟かんばかりの『ロウ』という声が響いた。
あまりの力強さに大地が揺れるほどだ。
恥ずかしげもなくはっきり異形たちの事を家族だと口にした旅籠の期待に応えるため、各々が全力で武器を握る。
これが旅籠の信頼度。
恐ろしいほどに統率の取れた掛け声と、必ず勝つという信念が溢れている。
思わず身を引いた雪野だったが、山本に背を支えられた。
「退くな。前を見よ。友人を、止めるのだろう?」
「……はい……!」
気を引き締めなおし、握り拳を作る。
月芽に施している結界を更に増やし、五重結界にして近くにいた落水を吹き飛ばす。
「ぐっ……!」
「兄様! ……雪野様……」
雪野と月芽の視線が交差する。
月芽さえ止めていれば、人間の勝利は濃くなるのだ。
だが悠長にしている時間はない。
雪野が結界を維持できる時間は長くなく、眠ってしまえば結界は解かれてしまう。
そのため……一日で不落城を攻略する必要があるのだ。
これは颪はもちろん、他の者たちにも伝えている。
この一日で陥落させられなければ、自分たちの負けだ。
だが増援を阻止し、最も厄介な異術を有している月芽を結界で閉じ込めた。
更に送り込まれようとした名付けされた異形も、中途半端な場所で放り出されているので戻ってくることもできなければ、不落城に向かうこともできない。
勝つなら、今日しかないのだ。
そしてそれを成すために、山本が腰に携えている日本刀を抜刀した。
「正念場だ。結界を維持し続けよ」
「はい!」
二人が気を引き締めると同時に、旅籠も片腕を振り上げた。
「仲間を……助けに行くぞおおおお!!!!」
『『『『ローーーー!!!!』』』』
不落城夏の陣、傀儡城内の戦。
この掛け声が、この大戦の火蓋を切ったのであった。




