第二十七話 無茶苦茶な奴
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「うわーーーっ、濡れた、濡れた、濡れた」
船の上へと上がってきたピオーリョはまるで犬のように全身をぶるぶるっと震わせて水を弾き落とすと、
「濡れたタオルでもいいですか?風邪ひきますよぉ」
と言って、レイチェルが自分の体を拭いたタオルを差し出している。
大きめの漁船を用意したまでは良いものの、ルシオ、ケイショ、ピオーリョ、レイチェルとボルボーン男爵が乗り込んだ事で、船の上は人で溢れかえっていた。
「ピオーリョ、マルコの奴はどうなった?」
船の舵を取っていた漁師のカウアが問いかけると、ピオーリョは特に感情も見せずに、
「マルコも死んだし、幹部連中も船と一緒に沈んだと思う」
と答えて、すでに海の中に沈みきった船の方へ顎をしゃくって見せた。
「海賊一味はもろとも死んだか」
カウアがほっとため息を吐き出すと、
「陸に戻っていいのかい?」
と、尋ねられた為、アンドレは大きく一つ頷いて見せた。
「アンドレさん・・あのですね・・・」
びしょ濡れのピオーリョを拭いてやろうと世話を焼いているレイチェルをしばらく眺めていたルシオが、アンドレの腕をそっと引っ張りながら声をかけてきた。
「あの令嬢、ペリグリンさんの知り合いだという事なんですけど」
「知っています、私も驚いたところです」
「それで、彼女、レイチェル・ワトソンという名前なんだそうで、殺されたヘンリー・ベルナドッテとも知り合いらしいんです」
「・・・・」
ヘンリー・ベルナドッテとはブリタンニアとメロヴィングの二重スパイをしていた人間のことで、ラゴスで敵方に殺された諜報員となる。
「確か・・彼の手紙の中に『レイチェル・W』と記されておりましたよね?」
「そうなんです、だけど、軍の関係者ではないようでして」
「そうでしょうねえ」
レイチェル・ワトソンと名乗る人物は、華やかな顔立ちをした金髪の美人で、喋り方が独特で、到底諜報員などには到底見えない令嬢なのだ。
「ピオーリョ兄弟をつけておきましょうか?」
ルシオはピオーリョ兄弟が信用に値すると判断したようだ。
「貴方がそうした方が良いと思うのなら、そう致しましょうか」
商船一隻は大穴が空いて沈んでしまい、ブリタンニア海軍2隻はマストが燃え上がり、へし折れ、大砲の砲撃を受けて半壊状態となっている。
海に飛び込んでいる奴らは粗方捕らえて、ルシタニア人であれば我が国の法で裁き、ブリタンニア人であればペリグリンに任せてしまおうと考えていたアンドレも、なんだか嫌な予感を感じるのだった。
予定通り、修道女と漁師の女将さん達が攫われた令嬢たちの保護をするために岸辺まで降りて来ていた。誘拐された女性達はこれから簡単な着替えを教会で済ませてから、サグレスの避難基地まで移動する予定となっている。
地元住民の避難所として使用するコメルシオ商会の倉庫へ移動させ、手続きの終了と共に、ブリタンニア人女性たちは商会の船に乗せてブリタンニアへ運ぶ予定でいるのだった。
漁師の女将さん達の中には歩兵連隊の兵士たちも混ざっており、ライフルを構え、警戒に当たっているように見えたのだが、その中にルシタニア国軍中央部隊の兵士たちも混ざっている事にアンドレは気がついた。
「アンドレ・デル・アルメイダ!ヴィトリアは何処だ?」
兵の指揮をしていた男が不機嫌を露わにしながら、アンドレの方へと近づいて来る。
眼鏡を不機嫌そうに人差し指で押し上げるのはペドロ・デル・カルバーリョ。ゲームで言うところの攻略対象者であり、カルバーリョ公爵家嫡男がラゴスの港に到着したようだった。
「公子がこのような場にまで出てくるなど、只事ではございませんな?」
船から降りたピオーリョ兄弟が海に浸かりながら船を押し上げて行ったため、漁師の船が砂浜に乗り上げる。アンドレが悠々と船から降りると、ペドロは酷く焦った様子で言い出した。
「ヴィトリアは?まさか船と共に沈んだわけではあるまいな?」
そんなに心配ならさっさと引き取りにくれば宜しいのに・・ヴィオの補佐として働くアンドレは思わずため息を吐き出した。
ヴィトリア・デル・フォルハスの誘拐は、ペドロが、王家や同僚であるディオゴの出発を港まで見送りに行っている間に起こった。ヴィトリアの代わりに領主館に現れたのは、ヴィトリアの異母妹であるベアトリスであり、二人の入れ替わりは公爵家子息であるクリスの主導の元に行われたのだ。
メロヴィング側としては、皇帝の弟と結婚させるのはヴィトリアでも、異母妹のベアトリスでも、どちらでも良かったのだろう。
肝心なのはブリタンニア王族の血を引いているという事であり、ブリタンニア王族の血族がルシタニアを統治するという事で、ブリタンニアにも利益がある話だというように見せつける。
カルダスに移動したベアトリスはメロヴィング側の貴重な駒だ。彼女は今も、ヴィトリアとして貴族然とした生活を領主館で送り続けている。
メロヴィング側から相変わらず接触がある事も、監視者からの報告として届けられている。
クリスの遺体はテジョ川に浮かび、ヴィトリアは人買いに攫われたまま行方不明。と、なっていたのだが、コメルシオ商会の会頭であるヴィオ・アバッシオは、王都リジェの事務所に現れた。
ペドロにはとても理解出来ないのだが、ヴィトリア嬢ことヴィオ・アバッシオのやる事を、周りの人間は止めるという事をしない。
父親であるフォルハス将軍はヴィオに輜重隊の指揮を丸投げし、戦争への参加を認めたのも理解出来ないが、沈没する船から飛び降りて急死に一生状態って一体なんなんだ?
攫われたブリタンニア人女性を救い出すために、自ら潜入するって一体なんなんだ?爆発する船上で皇帝の懐刀とも言われるコーランクールと直接対決って、バカなのか?やっぱりバカだろう、お前、良く生きて帰ってきたな?
「ペドロ!」
ずぶ濡れ状態で男におんぶされながら帰ってきたヴィトリアは驚いた様子で琥珀色の目を見開くと、
「メガネが落っこちそうだぞ!」
と言い出した。
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