第二十八話 愛は惑星
お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。
ペドロは怒りのまま歩み寄り彼女の腕を掴んで引き寄せると、ペドロの隣を駆け抜けていった女が、ヴィトリアを連れてきた男の胸へ飛び込むようにして抱きついた。
「ペリグリンお兄様!無事で良かったですう!心配したんですよぉ!」
ずぶ濡れの男へ自分の顔を擦り付けるようにしながら女が涙声で言い出した。
「レイチェル!せっかく着替えたのに濡れるよ!」
男が慌てて女を引き剥がそうとしているが、二人は親密な仲のように見える。
「ヴィオ兄、彼女、やっぱりペリグリンさんの知り合いだったらしいよ?」
駆け寄ってきたルシオは知り合いと言うが、
「知り合いというより、恋人じゃないのか?」
というペドロの言葉に、ヴィトリアがビクリと体を震わせると、
「ペドロ、運命ってすごいなあ」
と、しみじみと言い出したのだった。
「何の力が働いているかは分からないけど、こんな異国の地で、こんな再会とかあるか?愛だよ!愛!これが愛なんだよ!」
瞳に涙を溜めたヴィオはブルブルと震えながら言い出した。
「ヒロイン気質、マジで羨ましい。悪役令嬢には絶対に訪れないラブシチュエーション、悪役令嬢には絶対に訪れない奇跡がてんこ盛りのラブワールドだよ!」
言っている意味がわからずペドロがルシオの方を見ると、彼も彼で訳がわからない様子で顔をくちゃくちゃに顰めている。
「愛は惑星だ。私の周りをぐるぐる、ぐるぐる回るのを遠くから眺めるだけの存在、ハンカチ噛み締めながら見守るだけの現象、自分には絶対に降って湧いては来ないもの、それが愛だよ!愛!」
「ヴィオ兄がまた面倒臭いモードに入った」
ルシオが顔を更にくちゃくちゃにしながら、呻くように言い出した。
「悲観するのも程度があるよ!そんなに悲しまないで!」
全くもって意味がわからない。
「一体何があったんだ?愛とかなんとか意味がわからないんだが」
「戦争が一時休戦になってから、まわりが結婚ラッシュになったでしょ?ヴィオ兄は最近、ご祝儀貧乏だし、自分には何もネタになるような話もないし、当て馬気質とか自分でも言っているんだけど、あまりにも周りにカップルが成立していくものだから、悲嘆に悲嘆を繰り返して哀れになっているんだよ!」
「ルシオ、哀れってなんだ?哀れって?お前、一回海に沈めてやろうか?」
「やだよ!すでにレイチェル・ワトソンを助けるので一回、海に沈んでいるし、もう海水は十分に飲んじゃってるよ!」
「もっと飲んでこいよ!疲れた時には塩分取るといいらしいぞ?」
「嫌だよ!海水なんか飲みたくない!」
逃げ回るルシオを捕まえるために追いかけ出したヴィオは、はたと気がついた様子でこちらの方を振り返ると、
「愛は守らなくちゃいけない」
また意味不明な事を言い出した。
「ヴィトリア、お前、そろそろいい加減にしろ!」
本来であれば、リジェの港でヴィオの受け入れをする予定だったペドロはブチギレていた。
「何が特殊な任務だ?お前は一体何なんだ?いつから諜報部隊の人間になったんだ?」
「だってアンドレが、お嬢様が望むなら仕方ないですねって言ってくれたから」
「アホか、バカか、呆れてものが言えないわ」
丸椅子に座っていたペドロは、眼鏡を外して自分の眉間を揉みながら、
「コーランクールの足取りを追ってブリタンニアに潜入するのは分かる、お前の実の祖父であるウィンドウッド伯爵に直接話をつけに行ったのも分かる。だけど、何でラゴスに場所を移動して、船を半壊拿捕もしくは沈没させながら大捕物をやる羽目に陥るんだ?」
「ごめんなさい」
ヴィオはすぐさま謝るという選択肢を選んだ。ペドロはなかなか説教臭い人間で、一回それが始まると1時間は続く苦行を強いられる事になるからだ。
「なんか気がついちゃったら、あれ、これ海賊イベントだなあって事になっちゃってて」
アルフォンソ王子の側近を勤めるペドロはもちろん、乙女ゲームの話を知っている。
「ヒロインであるベネディッタがコンドワナに移動してもなお、物語が発生するわけか?」
「ヒロインいないし、アルフォンソいない状況でイベント発生ってマジで地獄だって、悪役令嬢には荷が重すぎるよ!」
「ヴィトリア、自分の事を悪役扱いするのはやめろ」
「いいよなあ!攻略対象者は!モテるだけの人生だもん!」
「あ?」
「済みません、間違えました、ごめんなさい」
メインヒロインの攻略対象者であるペドロは、自分の事を攻略対象者と呼ばれるのが大嫌いだった。こいつ、公爵家の教育方針で無表情、無感動がデフォの男に成長したはずなのに、意外に喜怒哀楽がしっかりしているんだよなあ。
「とにかく、私が言いたいのは」
「ヴィオ、うちには茶なんて贅沢品は置いてないから、白湯で我慢してくれるかね?」
手作りのテーブルと椅子が置かれた小さな居間へと入ってきたカウアの妻が、二人の前へ二つのカップを置くと、
「もうすぐパンが焼き上がるから、ちょっと待っておいで」
と言って、ヴィオの頭を撫でると部屋の外へと出ていった。
ここまでお読み頂きありがとうございます!
モチベーションの維持にも繋がります。
もし宜しければ
☆☆☆☆☆ いいね 感想 ブックマーク登録
よろしくお願いします!




