第二十七話 のし掛かる重積
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責任をとってくれると言っていたジョゼリアン王子はいない。
視点を変えれば、確かに、コーランクールが言う通りヴィオは悪役令嬢で、ヒロインの邪魔をしているのだろう。ヒロインが選んだ通りに最短ルートを選んでいたら、皇帝も20万の兵士を送り込む選択などしなかった。
20万の兵士に蹂躙され、殺されるのは一般市民であり、徴兵された若者達だ。そんな彼らを死に追いやったのが誰かと問われたら、ヒロインが推し進めるルートを阻止した悪役令嬢という事になるのだろう。
ブリタンニアが開発した武器があって、海軍があって、天才とも言えるアーサー・ウェストウィックが総統となって軍の指揮をとれば、勝機を見出す事が出来るかもしれない。
その一縷の望みに賭けていたというのに、海軍卿が掌握され、肝心の海軍がメロヴィングの手に落ちたうえ、ブリタンニア製の武器が敵側へと流れていく。
ブリタンニアの高位の貴族がコーランクールと共にアルジェイーナへ渡ろうとしていた事から判断するに、ブリタンニアの王族の一部が親皇帝派に寝返ったと推測する。
王族やブリタンニアの議会がメロヴィングとの融和路線に切り替えられたら、エスパンナで戦うレジスタンスや我々ルシタニアは切り捨てられたのも同じ事。
エスパンナの最高議会も、エスパンナ、ルシタニア、ブリタンニアの三国同盟が結ばれた状態だからこそ、メロヴィングと戦うために準備を進めている。だけど、もし、ブリタンニアが同盟から抜けて田舎国であるルシタニアのみが残るとなれば、あっさりと自分の立場を覆してエスパンナの最高議会は皇帝に恭順の意を示すだろう。
王家も何もかもが逃げ出したルシタニア国軍とエスパンナのレジスタンス、そして皇帝に叛意を示す教会の勢力だけで、どこまで20万の兵士と戦えるのだろうか?
滅亡一直線の中、全てはお前の所為だと言われた事に実は衝撃を受けていて、いつもの空元気が出てこない。
私がどうにか上手くやれば何かが違っていたのかとも思うし、悪役令嬢の私が何とかしようと動いた所で、結局、結末など変える事が出来ず、悪い方向にしか進む事が出来ないのではないかと、そんな事実に打ちのめされて、責任という名の重責だけが、ヴィオの肩に重くのしかかってくる。
責任を負ってくれると言ってくれたジョゼリアン殿下は、もういない。王家もコンドワナに移動して、王子の結婚に幸せムード満載になっているのだろう。私に全てを押し付けて、本当に腹たつ。
「ヴィオ、泣くな」
大きな手がヴィオの肩を掴むと、自分の懐に入れるようにして抱きかかえてきた。
「ヴィオ、一人で苦しむな。一人で抱え込むところが君の良くないところだぞ」
「ペリグリンさん・・・」
月も差し込まない暗がりに生い茂る雑草の中だけど、ずぶ濡れのペリグリンが心配そうにヴィオの顔を覗き込んできた。
「ペリグリンさん、虫に刺されますよ」
「冬なのに?」
確かに、11月も終わりを迎えようという今の時期ではやぶ蚊も発生していないだろう。
ヴィオはしばらく子供みたいに縮こまって、ペリグリンの腕の中でべそべそ泣いていた。ちなみに、ペリグリンの懐で泣いたのはこれで二度目だ。
「前にヴィオが泣いていたのは、荷車をひっくり返して瓶詰め料理を全て駄目にした時だったな」
「ああ・・あれは・・・」
どんぐりばっかり食わせて育てた最高級の豚の腹の肉を煮込んで瓶詰めにした最高の物が、砲弾の衝撃で倒れて全滅になった時に、ヴィオは泣きだした。
「あの時はおんぶでしたね」
敵襲にあって転んで足を捻挫して、おんぶしてもらったのだ。
「敵襲を許した斥候部隊が半殺しのめにあっていたな」
「そうでしたね」
壊れた瓶詰めから漂う美味そうな匂いに、食事を待っていた兵士たちは発狂寸前となっていたのだ。
二人は去年、ルシタニアで出会った。
ペリグリンは砲兵連隊を総括指揮する准将閣下で、野砲の輸送などで移動をする際には、輜重隊と行動を共にする事が度々あった。かなり上の身分の人だったが、ヴィオは弟のように面倒を見てもらっていたのだ。
「額の傷が開いたままだよ」
ペリグリンが油紙に包んだ厚手のタオルを傷ついたヴィオの額に押し付けると、包帯でぐるぐる巻きにし始める。
コーランクールがヴィオを殺す為に放った弾丸は、火薬の引火で爆発した船の衝撃で標準がずれて、額を掠めて飛んで行ったのだ。
額に傷が出来てしまっては、淑女モードにはなれないなとヴィオは考えた。二人目のヒロインであるベアトリスがヴィトリアとして今は暮らしているのだから、もう二度と、公爵令嬢に戻る事などないかもしれないけれど。
「痛みは?」
「いや、大丈夫です」
傷は海水を浴びてジリジリと焼けつくように痛いけれど、頭蓋を割られたわけでも、何処か骨折したわけでもない。
「ペリグリンさん、包帯やらガーゼやら、良く持っていましたね?」
「ああ、救出された令嬢の中に怪我をしている人がいたら対応できると思ってね」
ペリグリンは抱っこしていたヴィオを草の上に下ろすと、
「それで?あの禿げた中年の男が、君が捕まえたいって言っていた密輸絡みの仲介者?」
と、尋ねてきたので、
「そうです、コンドワナに送ります」
と、ヴィオは即座に答えた。
「なんでコンドワナ?」
「王家に対する裏切り者なのです」
「はあ・・そう・・・」
本当はコーランクールも捕まえてコンドワナ送りにしたかったけれど、護衛の数が多過ぎて、こちらは男爵を連れて逃げ出すだけで精一杯だった。
ヴィオは包帯でぐるぐる巻にされた自分の頭から、飛び出て突き出している自分の髪の毛を調整しながら、
「ペリグリンさん、これからどうしましょうか?」
と、問いかけた。
「どうしましょうとは?」
「武器の横流しに関わったブリタンニアの戦艦2隻を半壊拿捕する事には成功しましたけど、そもそも海軍は、メロヴィング側に付こうとしているみたいです。さっき、船上でコーランクールと遭遇したんですけど、自信たっぷりなあいつの様子から察するに、後ろ盾となっているブリタンニアの高位貴族ってもしかして、ブリタンニアの王族の誰かなんじゃないですかね?」
「・・・・」
「ブリタンニアのジェームズ王には十人の子供がいますけど、王位継承第一位のジェイソン第一皇子は美術品マニアすぎて、政治にはとんと疎いって事は知っています。とすると、第二皇子以降の誰かがメロヴィングと繋がって、融和路線に拍車をかけようとしているのでは?」
「そうだね・・・」
ペリグリンは、遂に、ブリタンニア王家との関わりを肯定したのだ。
やべーー、もうダメだ。絶体絶命だ〜。
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