第二十四話 証拠あつめ
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最近までヨーロニアの貴族が好んで愛飲していたのが珈琲、苦味のある液体にミルクや砂糖をたっぷり入れて飲むのがご婦人の好みで、男性の場合は砂糖を入れるか、もしくは何も入れずに楽しむ人が多いみたい。
そんな中、ヨーロニア諸国のように珈琲に走らず、紅茶を好んで嗜んでいたのがブリタンニアで、最近では紅茶の葉の炒り方に工夫を凝らしたり、ハーブや生薬を加えた紅茶なども増えて、健康志向を売りにしているのだそう。
祖父にブリタンニア貴族を持つヴィトリア・デル・フォルハスが紅茶をルシタニア貴族の間に広めだしたのがここ2・3年の事で、健康志向に走る貴族はルシタニアにも多いから、珈琲から紅茶に鞍替えするなんて貴族も最近では多いみたい。
「まあ、私は、珈琲も紅茶もどちらも好きなのですけどね」
ハーブティーを一口飲み、エッグタルトを口に頬張ると、滑らかな甘さが口の中へと広がっていく。
「うーん!美味しい!」
思わずベネディッタが感嘆の声を上げていると、簡素なワンピースを着た少女がおっかなびっくりといった様子でカフェの中に入ってきた。
「ベアトリスさん!こちらよ!」
ベネディッタが手をあげて呼ぶと、はにかんだ笑みを浮かべながら、ベアトリスがこちらの方へとやって来た。
「ベネディッタ様、遅くなって申し訳ありません」
額に汗をかきながら目の前の席に座ったベアトリスは早速、手にした封筒をベネディッタの前へ差し出した。
「屋敷で働く使用人たちの証言をまとめておきましたが、これで宜しかったでしょうか?」
「お話の前にまずは一服してちょうだい!このお店の売りはエッグタルトなのだから食べて行って欲しいもの、飲み物は珈琲?紅茶?」
「ミルクを頼んでも?」
「ミルク?」
紅茶でもなく珈琲でもなくミルク?新しい風ね!
「もちろん大丈夫よ!」
ベネディッタがギャルソンに注文をすると、ベアトリスはホッとした様子で肩を落とした。
ロシオ広場の近くにある洒落たカフェには女性客の数が多い、この時間帯は仕事に出かけている男性客よりも女性客の方が多くなる。
巷では戦争だ、なんだと大騒ぎになっているものの、ピエルト山脈を超えた遥か向こう、隣国エスパンナを越えた遥か向こうの国で起こった戦争なので、三皇帝の中でアレクサンドルが勝ち抜けしたと聞いたところで、女たちには現実味がない話のように聞こえるのだった。
戦争、戦争と言っていたって、舞踏会やお茶会は開かれているし、最新のドレスの形はどうだとか、アクセサリーは今年は銀がトレンドになるとか、自分をどうやって着飾るかという話で夢中になっているのだ。
ルシタニアの第一王子であるジョゼリアン・フォス・ルシタニアが死んだという事が大ニュースとなったけれど、暗殺されたのに病気で死んだと布告されているし、ジョゼリアン殿下を祀るための教会を、女王主導の元、新しく建て始めているという今の状況を見ると、え?近くまで戦争、来ているんですか?となってしまうのだ。
「それで?これは何に使う事になるのでしょうか?」
ベアトリスはモグモグとタルトを頬張りながら問いかけてきたので、ベネディッタは花開くように笑顔を浮かべる。
「断罪に使うのよ」
「断罪?ヴィトリア様は断罪されるのですか?」
「アルフォンソ様はヴィトリア様を婚約者の地位からおろそうと考えているのよ。何せ、ジョゼリアン殿下の死に関与しているかもしれないって噂もあるものだから、詳しく調べているみたいなの」
ベネディッタがベアトリスの耳元に囁くと、ベアトリスはポトリとタルトを膝の上に落とした。
「内緒よ?」
王家としてはジョゼリアン王子が病死をしたと発表している為、ヴィトリアが王子の毒殺に関わっているという噂が広がる事はない。噂が広がることはないけれど、王宮内が不穏な今の状況を利用して、ヴィトリアのヘイト値を稼ぐのに、ベアトリスが持って来た情報は都合良く使うことが出来るのだ。
「今は素行調査をしている段階だから、公爵家の内部の状況を知りたかったのよ」
封筒を開けてベネディッタが中身を確認すると、苛立ちをぶつけるようにして花瓶を壁にぶつける、陶器を壊す、シーツを引き裂く、など、ゲームの内容と大きな違いは見られなかった。
「私は聞いた情報を書いてお出ししているのですが」
「参考って感じだから重く考えないで、あなたはとにかくクリス様の言う事だけ良く聞いておけば良いのよ」
ヒロインはクリスルートを爆進中、リカルド・ルイスのルートには入っていないようだ。
「クリス様もベネディッタ様によろしくと申しておりました」
「それじゃあ私は行くから、あなたはゆっくり食べていなさい」
「はい!」
立ち上がったベネディッタはベアトリスを見下ろしてニコリと笑う。
元々、娼家の出だから仕方がないんだけど、下町娘の雰囲気が全然抜けていないのよねえ。メロヴィングの貴族に引けを取らないように、ヒロイン育成、落ち着いたら始めなくちゃなんないのかなあ。
ベネディッタが鼻歌まじりにカフェの洒落た扉を開けると、そこには服装を庶民の物へと変えたアルフォンソが立っていて、
「ベネディッタ、私が居ない間に何処かに行くような事はやめてくれと散々言ったと思うのだが」
と、不機嫌も露にして言い出した。
「まあ!アルフォンソ様!」
ジョゼリアン王子が亡くなってから、殿下ったら闇落ちしちゃったんじゃないかしら?なんというか、ヤンデレ傾向強めに出ているって感じなのよね〜。
ベネディッタが半ば呆れながらアルフォンソの端正な顔を見上げていると、ベネディッタが持つ封筒をに視線を貼り付けるような形で、アルフォンソが問いかける。
「それは何?」
「え?これですか?」
ベネディッタが手にした封筒を渡すと、アルフォンソはサッと中に入っていた書類に目を通して、
「よく手に入れたな」
と言ってベネディッタの頭を軽く撫でたのだった。撫でてくれるのは嬉しいんだけど、目が怖い。アルフォンソ王子ってこういうキャラだったっけ?
疑問に思いながらベネディッタが小首を傾げていると、
「さあ、馬車へ移動しよう」
優雅な仕草でエスコートしてくれるのはいつもの殿下だった。ベネディッタはアルフォンソの肘に手を置き、ゆっくりとしたペースで歩き出す。
まあ、兄王子亡くなって忙しいから、顔がキツめになるのは仕方がない事なのかな。
ゲームで描ききれなかった部分かもしれないし!
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