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【改稿版】 悪役令嬢のそのあとは  作者: もちづき裕
第一章  悪役令嬢編
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第二十五話  与えられた時間

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

「息子の名前はジョゼにしよう、ジョゼ・デル・フォルハスだ」

生まれたばかりの息子を受け取ったミゲルは涙を流しながら妻であるイーリャを見つめた。

「殿下のお陰で君は祖国で出産をする事が出来たのだから」

「あなた」

 イーリャが手を伸ばすと、ミゲルはその額を妻の肩に押し付けた。


 将軍の地位にある貴方が泣くなんて、そう思いながら、殿下の死が私たちの上に時間という名の幸運と、何ものにも変え難い存在の喪失という不幸をもたらした事を思い知らされる。


 いつものように叔母のエマヌエラとのピクニックは影の者に任せて、執務室で仕事をこなしていた王子は、侍女が運んできた紅茶とクッキーを目の前にして仕事の手を止めた。


 そのクッキーは本来ならエマヌエラとのピクニックで出されるべき物であり、それがエマヌエラお手製の物だというのは一目見て分かったからだ。

「甥を労ってやろうという心遣いかな」

 そう言って王子は嬉しそうにお茶の時間を楽しんだという。


 料理などした事がないエマヌエラが初めて作ったクッキーは、歯が折れるのではないかと思う程の硬さの出来で、王子はそれを紅茶に浸しながら全てを食べた。それ以降、エマヌエラが作るクッキーはどんな出来でも紅茶に浸して食べるので、給仕をする者は今日は成功だったのかどうか、殿下の食べる姿で判断する事が出来ない。


 無作法そのものの食べ方であっても、不躾に噂話を広げる者たちからエマヌエラの心を守ろうという、王子の配慮のあらわれだという事は皆が知っている。そのため、特に文句を言い出すような人間は周りに一人も居なかった。


 その日も紅茶にクッキーを浸しながら全てをたいらげた王子は執務机へと戻ったのだが、肩で息をして、胸を抑えながら苦しそうに身悶えた。同じように紅茶を飲んでいたリカルドには何の問題もない、紅茶とクッキーを調べても毒物の反応はない。


 給仕をした者も、昔からエマヌエラに仕えていた侍女だった為、殿下は急な病で倒れたのだと、皆が皆、噂しあった。


ジョゼリアン殿下は船遊びをしている間に高熱を発して、急な病で亡くなったという内容が王国中に発布されたけれど、実際は毒殺。暗殺に関わった侍女はルシタニア王国を内側から崩す為に送り込まれたメロヴィングのスパイだった。


 王位継承第一位には第二王子であるアルフォンソが就くことになったが、人が変わってしまったようだと皆が言う。女王は嘆き悲しみ、亡くなった王子の為に巨額を投じて新しい教会を建て始めたのだ。


 敵国メロヴィングとしては、ルシタニア王国は所詮は女王が治める国。金を戦費に使わず教会建設に使うという事は、皇帝とは争わず恭順の意を示すのだろうと判断し、まずは隣国エスパンナから堕とそうと決めて兵を進め始めたようだった。


 ピエルト山脈を越えて直接ルシタニア王国へ攻め入る手段は選ばれなかった為、侵略戦争を前にルシタニアは少しの猶予を稼いだという事になる。その稼いだ時間の中で無事に出産を果たす事が出来たイーリャは、義娘であるヴィトリアの事を考えて心が苦しくなってきた。


「あなた、今日は王家主催の舞踏会が開かれると聞いているけれど」


 ルシタニア王国全ての貴族が招かれる舞踏会では、今後のルシタニアの方針が示されるのではないかと言われていた。


 徹底抗戦の構えを示す貴族と皇帝アレクサンドルに恭順の意を示す貴族が一堂に会するとあって、揉めることは必須。第二王子アルフォンソの婚約者であるヴィトリアの立場も危うい状態となっていた。


 そもそもヴィトリアは悪役令嬢かつ当て馬令嬢なのだ、ゲームの通りでいけば、ヴィトリアは舞踏会で断罪を受ける事になる。


「三日だ、産後三日は絶対安静にしなくちゃだめだ」

「産後の事じゃなくて、今はヴィトリアの話をしているのよ」

「ヴィトリアの事は心配しなくても大丈夫」

夫は優しく愛する妻の髪を撫でると、

「決戦前に無事に出産できて良かった」

ホッとした様子でそう言った。


 不安しかない、本当に脳筋はこれだから困る。

「ねえあなた、戦うだけじゃだめなのよ?」

「分かっている」

「本当に分かっているの?」

「本当に分かっているよ」

 夫はそう言って泣きながら愛する妻と子を抱きしめた。



ここまでお読み頂きありがとうございます!

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