第二十二話 二人のヒロインの顔合わせ
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やり込み系のゲームだし、途中で戦闘モードに入る事もあるし、戦争がどうたらとか、皇帝と戦ってどうたらなんて、正直どうでも良い話よね。
ヒロインは悪役当て馬令嬢にいじめられ、唯一無二の格好いいヒーローに守ってもらいながら国のトップに踊り出る。もしくは、重鎮の奥さんとなって二人は末長く、幸せに暮らしましたとさ。っていう風になるわけよ。
皇帝アレクサンドルに侵略戦争を仕掛けられて大負けするとか?ルシタニア王国が滅ぼされるとか?相当ヘマな選択肢を選ばない限り、ない!ない!ない!ヒロインの私が世界平和を望んでいるんだから、そんな事になるわけがないじゃない!被害は最小限に、メロヴィングとの戦いもさわり程度、ちょっと小突き合う程度で終わらせるわよ。
アレクサンドルは自分の親族を各国にばらまいて安定した統治を目指しているんだけど、うちの国には自分の弟を送りこむ事を検討しているんだって。
アルフォンソが王位継承第一位に躍り出て、アレクサンドルの弟とヒロインのベアトリスが結婚する。本来ならヴィトリアがアレクサンドルの弟と結婚するのが順当だと思うんだけど、ヴィトリアは悪役令嬢だし、当て馬令嬢なものだから、途中でヒロインと入れ替えをする事になるのよね。
「あなたが持っている銀のペンダントを見せてくれない?」
ベネディッタの言葉に驚いた表情を浮かべると、ベアトリスは胸にかけていたペンダントを恐る恐るといった様子で差し出してきた。
「これは本当に大事な物なのよ?あなたが高貴な血筋である事を示す物なの、絶対に無くしたりしては駄目よ?」
「はい・・母にも、公爵様にも、大切にしなさいと言われています」
「あなた、前世の記憶はないのよね?」
「・・・?・・・前世・・・ですか・・・?」
キョトンとしたベアトリスの顔は、完全に前世の記憶を持つようには思えないもので、思わずベネディッタは苦笑を浮かべてしまう。
「ねえ、公爵邸でのヴィトリア様ってどんな感じ?」
ベネディッタが話題を変えると、ベアトリスはギョッとした様子で肩を振るわせた。
「どんな感じってどういう事ですか?」
「ヴィトリア様、あのお姫様、王宮内では物凄く評判悪いのよ」
アルフォンソの婚約者であるヴィトリアは幻のような存在の人となっている為、ベネディッタが王宮内で噂をばら撒き、悪役令嬢のヘイト値を高めているのだ。
「我儘で、侍女やメイドへの態度も最悪だし、アルフォンソ殿下にもいつも迷惑をかけているって良く耳にするのだけど」
「わ・・私も・・直接は良く知らないんですけど・・あまり良い噂はお聞きしません」
顔を俯かせるベアトリスを見て、ベネディッタは小さく肩をすくめてみせた。
「ヴィトリア様って美人よね?」
「・・はい・・美人だと思います・・・」
「あなたに似ているように思うのだけど」
「似ていますか?」
金まじりのハニーブラウンの髪に琥珀色の瞳、ヴィトリアは子猫みたいな活発な印象を醸し出す美少女だけど、ベアトリスは妖精の雰囲気を醸し出した儚げ美少女だった。
「ヴィトリア様がメイド服を着ているのかと思ったわ」
「良く言われるんです」
ゲームの中でも入れ替わりが行われるほどだから、この二人はパッと見よく似ている。
ベネディッタとしては、それは当たり前のことでもあるのだけれど。
「ボルボーン男爵令嬢?」
ベネディッタが顔を上げると、真っ青な顔をしたフォルハス家の三男、クリスが慌てた様子でこちらの方へと走ってきた。ゲームの中でも、ヒロインのベアトリスがクリスの忘れた書類を届けに来た場面が描かれていた。ここは物語の重要な分岐点。
「クリス様、忘れ物を届けに上がりました」
ベンチから立ち上がったベアトリスが恭しく辞儀をすると、カーン、カーーンと教会の鐘の音が響き渡ったのだ。意表をつく時間帯に鳴り響く鐘の音に驚いた様子で、廊下を歩く文官達が思わずといった様子で頭上を仰ぎ見ている。
頭上に何かあるわけでもないのに、空から鐘の音が降ってきたように感じてしまうため、思わず空を見上げてしまっているのだが、
「ああ・・書類か・・ありがとう・・・」
真っ青な顔でクリスは書類を受け取ると微かに震える声で言い出した。
「ベアトリス、帰るときには気をつけて帰ってね」
「はい、辻馬車を拾って帰ります」
「公爵家の馬車を用意するからそれで帰って」
有無を言わさないクリスの勢いに、ベアトリスは言葉を飲み込んだようだった。
「ボルボーン嬢も、今日はもう帰ったほうがいい。アルフォンソ殿下も今日はお忙しいようだ」
顔色が悪いクリスの幼さが残る顔を見上げると、ベネディッタは思わずため息を吐き出した。あんたはもう少しポーカーフェイスを覚えた方がいいと思うわ。
「わかりました、私も今日は失礼させていただきますわ」
二人のヒロインが王宮でエンカウントする時、それは、ルシタニア王国王位第一継承者であるジョゼリアン・フォス・ルシタニアが亡くなった事を意味する。二人のヒロインはこれから共闘をして、ルシタニアを守らなくてはならなくなるのだ。
「クリス様、私が彼女を公爵邸まで送りますから、わざわざ馬車を手配しないでも大丈夫ですわよ」
ベンチから立ち上がりながらベネディッタがそう申し出ると、
「そうしてくれると助かる」
ほっとした様子でクリスは笑顔を浮かべた。
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