80.妹の事情6
お姉様が新婚旅行に行きました。
なんでも第三王子を助けて王様にご褒美をいただいたらしいです。
行き先は南の楽園と言われている、アマローレです。その町には海があるらしいです。
いいなぁ……お姉様。
海は見たことがありません。少し羨ましいですが、私はお留守番です。
私は今、エンダース家の使用人なので仕方ありませんね。
結婚式の日のお姉様はとても綺麗でした。
上等なドレスに身を包み、しっかりお化粧をして、髪の毛もセットして、まるで物語の中に出てくるお姫様のようでした。
隣にいるクレス様もとてもかっこよくて、そんな二人の姿を見ていたら自然と涙が出ました。
羨ましいと思う気持ちも確かにありましたが、それ以上に感動してしまったのです。
お姉様もクレス様も心から幸せそうに笑っていて、素直に「おめでとうございます」という言葉が出てきました。
私は誰かの結婚式には初めて参加しましたが、結婚というのはとても素敵なことなのかもしれないと、姉の結婚式を見て思いました。
たくさんの人たちに祝福されて、二人からは幸せオーラが溢れ出ていました。
私もいつか姉のように素敵な結婚がしたいです。
そのためには、内側から湧き出る美しさとやらを手に入れなければならないのかもしれません。
そんなものが本当にあるのかわかりませんが、お姉様には確かにあったようです。
お姉様はアイマーン家にいた頃より本当に美しくなったのですから。
だから、そんな魔法のようなものがあるのなら、私も欲しいです。
そういうことなので、私は厩舎で馬のお世話をします。
このお仕事は朝も早いし、力仕事もあって大変です。
時々「どうして私がこんなことを……」と思ってしまいますが、お姉様のように内側から湧き出る美しさを手に入れるために、まずはお仕事を頑張ってみようと思っています。
だってお姉様は長年一生懸命働いていたのですから。
ルッツは馬の気持ちがわかるそうです。変な人です。
まだたまに怒られることもありますが、ルッツとはそれなりにうまくやっています。
それから数日後、お姉様は無事新婚旅行から帰ってきました。
なにやら旅先で拾ってきたらしく、白くて小さな子犬を連れてきました。
ブランというお名前だそうです。
クレス様の腕に抱かれていたブランの毛並みはもふもふで、ぱっちりとした大きな青い瞳がとても愛らしい子犬でした。
このお屋敷で飼うそうです。今度私も抱かせてもらいたいです。
そしてお土産にと、使用人たちのために珍しい果物をたくさん買ってきてくれました。
私もいただきましたが、甘くて美味しかったです。
「それから、はいこれ。イナに」
「……なんですか?」
お姉様はそう言うと私に小さな包みに入ったものをくれました。
「イナも頑張ってくれているから」
「お姉様……」
開けてみると、薄い桃色の貝殻に小さな真珠がついたネックレスが入っていました。とても綺麗です。どうやら私に買ってきてくれたようです。
「いただいていいのですか……?」
「気に入ってくれればいいんだけど」
「……っ、もちろんです!! とっても可愛いです!! お姉様、ありがとうございます~!」
嬉しいです。可愛くなくなった私に、こんなに可愛いアクセサリーを買ってきてくれるなんて。お姉様はやっぱり優しいです。
私が抱きつくと、お姉様は困ったように息を吐いて「はいはい、わかったわよ」と言っていましたが、その表情は少し嬉しそうでした。
それから私は毎日そのネックレスをつけることにしました。
仕事の邪魔にならないので、ルッツにも見せてあげることにしました。
「どうですか? お姉様にもらったんです! 可愛いでしょう?」
ろくに休まず馬のブラッシングをしていたルッツに自慢げに見せると、彼は一瞬手を止めてじっとこちらを見てきました。
「……ふーん。良かったな」
「それだけですか? 他にもっとないんですか?」
ですが、ルッツの反応は今一つです。これだから平民の男性は……。
ああ、そうではなく、今の私にはこんなもの似合わないのかもしれませんね……。
「……おかしいですか? やっぱり、私のような者にはこんな可愛いアクセサリー、似合わないですよね」
せっかくお姉様が私に買ってきてくれましたが、ルッツはお世辞が言えません。だから正直に「そうだな」とでも言われると思いましたが、彼は「いや……」と声を上げて続けました。
「似合ってるぞ。それにお前、最初はなんとも思わなかったけど、よく見たら結構可愛い顔してるんだな」
「え?」
さらりと告げられた言葉に、私は思わず固まってしまいます。
ル、ルッツは何を言っているのでしょう……。
私が可愛かったのは、ここへ来てすぐの頃です。それなのに、最初は気づかなかっただなんて……おかしなことを言います……。
「厩舎の仕事も音を上げずに頑張ってくれているしな。俺はここに来たばかりの頃のお前より、今の方が好きだな」
「ええ……っ?!」
更にそんな言葉を平然と続けたルッツに、私は益々混乱してしまいます。
「それよりいつまでもサボっていないで、さっさと仕事に戻れ」
「……は、はい」
今の私の方が好き?
ルッツは何を言っているのでしょう。そんなはずないのです。
ここへ来たばかりの頃の私は自分に魔法をかけていてとても可愛い顔をしていました。
そんな私より、魔法が解けて平凡な顔になった今の方が好きだなんて……。
やっぱりおかしいです! ルッツは変です。
「おい、イナ! 早くしろよ!」
「い、今行きます……!」
……私もおかしいです。平民の男性は嫌いなのに。
私もいつかお姉様のように素敵な貴族男性に見初めてもらおうと思っていたのに……。
ルッツの言葉で、胸がドキドキしてしまいました。
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