81.末っ子王子とご対面
とても素敵な時間だった新婚旅行――アマローレから帰ってきた私とクレスは、この旅行をプレゼントしてくださった国王にお礼を兼ねて挨拶をしてから、それぞれの持ち場へと向かった。
「――そう、そんなに良いところなの」
「ええ、いつか皆で一緒に行けたらいいわね。本当に素敵だったのよ」
そしていつものお茶の時間に新婚旅行はどうだったのかとリリアンに聞かれ、アマローレでの話を聞いてもらった。
リリアンも海は見たことがないようで、いつかエーリッヒ様と一緒に行ってみたいと語っていた。
「そうだわ。これ、お土産を買ってきたの」
「あら、なにかしら」
リリアンに買ってきた貝殻と真珠のイヤリング。それを渡すと、彼女は包みを開けて嬉しそうに笑ってくれた。
「まぁ、とっても可愛いわぁ! ありがとうルビナ。大切に使うわね」
「ふふ、良かったわ」
リリアンには、上品な彼女に似合うような派手すぎないデザインのイヤリングを選んだ。気に入ってもらえたら嬉しい。
「ルビナ」
そうして女二人で楽しくお茶をしていたら、ふと私を呼ぶ男性の声がした。
この声は愛しい旦那様のものだ。
「クレス!」
私とリリアンのお茶の時間に彼がやってくるのは珍しい。クレスの隣にはエーリッヒ様もいる。
それにしてもこの二人……並んでいると凄まじい破壊力だ。見慣れているはずの旦那様も騎士モードで屋敷にいる時とは雰囲気が違って男前が増しているし、エーリッヒ様も見目麗しい王子様だし……。
二人の周りが輝いて見える。
今更ながら私はこんなに素敵な人の妻になったのかと、一瞬他人事のように考えてしまった。
「エーリッヒ様、こんにちは」
「こんにちは、ルビナ。旅行は楽しかったようだね」
「はい、とても。お休みをいただき、本当にありがとうございました」
第一王子であるエーリッヒ様を前に、立ち上がって膝を折る。けれど彼は友人の妻で、妻の友人である私にも親しく接してくれる。だから堅い挨拶はいいと言うように手のひらを前に出した。
「見てくださいエーリッヒ様、お土産にもらったの。可愛いでしょう」
リリアンの元に歩み寄っていくエーリッヒ様に、リリアンは嬉しそうにイヤリングを見せた。
「ああ、そうだな。つけてやろうか?」
「ええ、お願いします」
エーリッヒ様のその言葉に、リリアンはイヤリングを彼に手渡す。
リリアンの耳に優しく触れてイヤリングをつけてあげるエーリッヒ様。そんな二人の姿を、一瞬ぽうっと見惚れてしまいそうになった。
相変わらず、二人とも美男美女でとてもお似合い。そのうえ最近は本当に距離も縮まってラブラブなのだ。
「……できた。うん、とても似合っているよ」
「ありがとうございます」
「……」
リリアンに真っ直ぐそんな言葉をかけるエーリッヒ様と、そう言われて嬉しそうにほんのり頬を染めるリリアン。
ごちそうさまです。
……なんだか見ているこっちが照れてしまうくらい、お熱い。
「この時間にこちらへいらっしゃるのは珍しいですね。どうかされたのですか?」
「ああ、ルビナ。フランツが君に会いたいと言っているんだ。良ければ顔を出してやってほしいんだが……」
リリアンの問いかけに、エーリッヒ様とクレスが私を見た。
フランツ様は、エーリッヒ様の末の弟だ。
あの日毒に侵されたフランツ様の解毒をして、その後体調は回復されたと聞いているけれど、元気になったお姿を直接見ていないから私も少し気になっていた。
「わかりました」
リリアンとのお茶の時間はちょうど終わるところだった。
魔導師団の方へは今二人が話してきてくれたようなので、私はこのままエーリッヒ様とクレスと共にフランツ様の元へ向かうことにした。
*
「フランツ」
「エーリッヒ兄さん」
フランツ様はご自分のお部屋の、ベッドの上にいた。
どうやら毎日医師に体調をチェックされているらしい。今日の診察はちょうど今終わったところのようで、私たちと入れ替わりで医師が部屋を出て行った。
「気分はどうだ?」
「うん、いいよ。もう大丈夫だと言っているのに……自由に外へ出してもらえないんだ」
エーリッヒ様の問いかけにフランツ様は不満げに唇をとがらせた。
顔色も良いし、確かに元気そうだ。良かった。
「お前が勝手に森の奥へ行ったりするからだろう?」
「それが面白いんじゃないか。なぁ、クレス」
「護衛の目を盗んで結界外へ出るのは勘弁してください」
エーリッヒ様と一緒にいたクレスに目を向けて、いたずらっ子のような無邪気な笑みを見せるフランツ様は、クレスとも親しいらしい。
まぁ、クレスはもう十年近く王宮へ通っているし、エーリッヒ様とは昔から仲が良いから、フランツ様のことも一緒に可愛がってきたのかもしれない。
だけどクレスは、弟のようなその王子に悩まされているのだ。
「それより、そちらの女性が――」
そして、一歩後ろにいた私にもフランツ様は視線を向けてきた。
すっと背筋を正して膝を折る。
「ああ、そうだ。彼女がお前を解毒した魔導師だ」
「君がルビナか……!」
「ご機嫌麗しく、フランツ殿下。ご挨拶申し上げます」
エーリッヒ様の紹介を受けて頭を下げると、フランツ様は嬉々とした声を上げて言った。
「顔を上げてくれ。貴女のおかげで僕は助かったんだ。近くに来て顔を見せてほしい」
「はい」
そのお言葉に顔を上げ、一歩ベッドの方へと歩み寄る。
「もっと近くに」
「……はい」
「もっと、ここまで来てくれ!」
「……承知いたしました」
ベッドの上で手招きするフランツ様に気負いしつつも更に近づくと、彼は私から視線を逸らさずにじっと見上げてきた。
エーリッヒ様と同じ、濁りのないとても綺麗な碧眼だ。
「……美しい」
「――え?」
「貴女は僕の命の恩人だ。本当にありがとう」
「いいえ……、魔導師としてできることをしただけです」
ぎゅっと手を握られ、熱い視線を向けながら礼を言われて、思わず一歩後ずさる。
「決めた。僕は君と結婚する」
けれどその口から発せられた言葉を聞いて、私の身体は硬直した。
何言ってんだ、この王子(笑)
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